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おっさんの異世界転生 <俺もテンプレ世界で冒険してぇなぁ~>  作者: ところてんはあんまり・・・
第五章 冬景色観光がしたい、旅情編
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第八十一話 もっと我慢のできない人達

81.



 ゴーンゴーンゴーン……ドォーンドォーンドォーン……ガンガンガンガンゴンゴンゴンゴンゴンドンドンドンドンドンバカンバカンバカンバカンバカンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンバキッ!!!

「っ~~!!!!」

 壁を殴り過ぎて手が折れた。この壁硬過ぎるよ~。全開で数百発殴ってもヒビすら入らないとは、古代文明の遺産、恐るべし。

 


「タロ~、大丈夫~? すごい音がしたよー? やっぱり、壁を壊して進むなんて無茶だったんじゃない?」

 いや、まだだ。まだ終わっちゃいない!! 俺の手をすでに治っている。骨折だって一秒かからず修復完了だ。もう、人間の回復力じゃないね。

「休息中にずっーと壁殴りをするのはいいんじゃが、さすがにうるさいのぅ~、もう少し静かに殴れんのじゃ?」

 自作の乾燥デーモン肉をしゃぶりながら、そんな発言をするグウェンちゃん。

「グウェンさん、それはさすがに無理でありますよ。静かに殴るなど、無理無理であります。モズタローさんに技術を求めることが間違っているであります」

 むかっ、やってやろんじゃないか!あれだ、力を壁とか地面に浸透させればいいんだろ!?


「あまり、無理をされないでくださいね。いくら同じ景色が続いていると言っても、おそらく前進しているのですから」

 シュリさんにまで心配された。屈辱だ!こんな屈辱は受けた事がない!あぁ!ちくしょうめーー!!!

「ちょっと! なんで私が心配したら屈辱なのですか!? え、顔がにやけているから不快? えぇー、そんなことないですよー、ちゃんと心配していますよー。モズタロー様の奇行を嘲笑ってなどいませんよー」

 完全に笑っているじゃないか!



 はぁ、ずっと同じ石壁の中をウロウロしていて、環境の変化の乏しさに飽き飽きなんだよ。魔物もレッサーデーモンとその亜種しか出てこないじゃないか。しかも、デーモン肉はパサパサで泥臭くてカッチカチ、あまり美味しくない。

 ミンチにした後、成形したのち乾燥させて、どうにか食べられる程度の肉だ。手間が掛かって面倒くさいのだ。俺のイライラの原因は、調理担当の俺がこの肉を相手にするのに嫌気がさした、というのが大きい理由だろうか。まあ、毒が無かったのは意外だったな。


 それにしても硬い壁だ、これは良い訓練になりそうだな。魔力循環とそれに連なる技術、それに壁殴り、それらの良い経験になる。壁殴りの経験ってなんだよ!?

 この壁を殴り壊せたときに、俺は拳で世界を砕けるかもしれない。中二病が再発しちゃいそうだね。十四歳だし丁度いいと言えばそうなのだけど。このケガが瞬時に治る特性を生かして、常人では辿り着けない地平を見に行くとしよう。


「はぁ、またモズタローの壁殴り音で寄ってくるレッサーデーモンどもを狩るとするのじゃ」

「そうでありますな、食糧の補給は重要であります」

「雑魚悪魔の魔術には気をつけてね~、アテナは喰らったら消し炭になりかねないよ~。もしくはバラバラになるかもね!」

「まともに受けても大丈夫なのはモズタロー様くらいですよ。私もただじゃ済みそうにありませんので、気を抜かずに相手をすることにしましょう。」

 交代しながら、寄ってくるレッサーデーモンを確実に倒して行く女性陣。スズメ達は死骸の回収をしてくれている。最近はジローとサブローが解体もしてくれるので楽だ。賢すぎるよ!? 翼と牙と嘴で上手に解体しているよ! イヒッは解体は得意じゃないみたいだ、不器用だね。 



 昼も夜も無い環境にいるが、俺とグウェンちゃんは『ク・リトゥ・リトゥ』でも同じような経験をしているのだ。その経験を生かして休息と探索のバランスを取っている。

 小休息は三十分、大休息は八時間ほど休むなど、アテナさんとシュリさんの体調に考慮した探索をしているので、俺は体力が有り余っているのだ。

だから、壁を叩く。

 周りのことなど気にも留めず、ただただ、壁を叩き続けるのだ。思えば直向きに反復訓練をし続けるなど、ミズーリを出て以来怠っていたように思える。クームを相手にしたときも思ったが、俺の拳には技術は無い、恐ろしいほど素早い相手やどうしようもないほど強固な相手には俺は無力だろう。

だから、俺だけの特別グレイトフル・ワンを手に入れたい。

 その何かを得るためには、只管に拳を振ることが重要なのではないかと思ったのだ。


 ミズーリの石清水寮で壁ドンをした時から、俺と壁ドンの付き合いは始まった。俺が始めて習得した技と言っても過言ではないだろう。

 今までは魔力循環は魔力循環、体術は体術といったように、全てを別々に使って動いていたのが、壁ドンをしたときには全ての力をひとつに纏めた実感があった。だから、壁ドンは俺の初めての技なのだろう。その壁ドンを繰り返すことで、新たな技を得ることができると考えたのだ。



 ゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ンゴォ~ン……

 今日も俺は壁を殴り続ける。彼これ、この場所に入ってから二カ月も経過している。頭がおかしくなるのには十分な日数なのかもしれない。

「うぅ~、出口がないのじゃ~。それにもう戻れる気がしないのじゃ~」

 目印を置いて歩いているが、今から戻ろうにも二カ月かかると考えると、戻るのも気が滅入る話しだ。


「このまま、デーモン肉だけを食べて生きて行くのでありますかな……。水はモズタローさんが十分に持っていたでありますな。……それにいざとなれば水魔石もあるでありますよ。はぁ、さすがに気が滅入るでありますよ。はぁ、さすがに私も暗闇を見通せるようになったでありますが、こう同じ景色ばかりでは飽きるでありますな」

 食糧の問題も出てきた。塩と砂糖、それにいくつかの草類が少量、後は大量のデーモン肉があるくらいだ。水や塩を優先して異次元鞄に入れてきたが、こんなことならもっと米をもらってくるのだったな。

 穀物は十分にもってきたはずだったのだが、いつの間にか無くなってしまった。まあ、皆で食べ過ぎただけだ。ふぅ、炭水化物が食べたいなぁ~。ビタミン不足を懸念して、レッサーデーモンのモツ鍋を敢行したが、ゴブリン肉の焼肉より厳しいものがあった。もう食べたくない。


 この空間の何が辛いかと言うと、基本的に土がないことだ。俺が土を食べられないじゃないか! 土さえあれば俺は生き残れるのに、くそぅ早くこの石壁を砕いて、そして、喰ってやる!

「クーも飽きちゃった~、おうどん食べたいよ~。はぁ、タローと一緒に壁ドンしよっと!」

「私も壁ドンします! えいえい! とりゃー!」

 最近はクーとシュリさんも一緒に壁ドンをしている。クーは素晴らしい正拳突きを放つ。シュリさんは狂ったように壁に躍りかかるが、この姿を国元の民に見せてもいいのだろうか。


「ちゅん!」「ちゅちゅん!」「ドリルクチバシ!」

 スズメ達も壁ドンをしている。なんだろう、奇妙な集団としか言いようがないな。スズメを辞めて、キツツキに転職したのかな? いや、カベツキか。

 嘴で突くだけではなく、飛び上がり見事な蹴撃を披露するさまは美しくすらある。鍛えた足技でレッサーデーモンを簡単に蹴り殺す、こいつら中々強いな。少なくとも、アテナさんの五倍は強いだろう。一対一ならグウェンちゃんも危ないかもしれないな。グウェンちゃんは魔術師だから、一概に比較できないけどね。

 かなり素早いからこいつら相手に模擬戦をすれば、良い訓練になりそうだ。でもなぁ、俺は手加減がへたくそ、というかできないから、下手すると殴った瞬間にミンチよりひでぇやにしてしまう危険性があるな。やめておこう。


「ちゅん?」「ちゅちゅん?」「イヤァーミナイデェ」

 俺が胡乱な瞳で見つめていたせいで何か勘違いをさせてしまったようだ。別にスズメに欲情している分けでは無いので、そんな眼をしないでください。



 全力で壁ドンするのも、それだけでは意味がないので、色々考えながら方法を模索しながら壁ドンをしている。ふぅ~む、今日は以前言われた。音が出ない打撃というものについて考察して見るか。

 音を出さないと言うのは、どう言うことだろうか。音とは波長だ、それも空気を伝わって相手に届いているはずだ。真空中では音が伝わらないのだから、それで間違っていないはずだ。とどのつまり大気を揺らさなければいいのだ。

 ならば、拳をぶつけるのではなく、初めから壁に密着させておけばどうだろうか? 密着させた状態から、打ち込めば音が極限まで小さくなるのではないか? 中国武術でも寸頸、浸透頸という類の技が存在すると聞いたことがある。ならば俺の魔力を壁に伝えることが最重要と考えることで、実現できるのではないか。

「ハッ!!!」

 ダメだ。うんともすんとも言わないな。うーむ、殴るという相手を破壊する意思が欠如しているのが問題なのかな?


「タロー、何してるの?壁にすりすりしてるの?」

 む、クーには俺が壁を壊そうとしている様に見えなかったということか。

 俺の意思が俺の魔力の性質を決めるのだから、相手を壊すという絶対的な意思が足りないと見た。殴ると言う行為には相手を壊そうとする、人として最も原始的な欲求が日分に含まれているのだな。さすが、拳による殴打は人類最古の武器であり、最後の武器といわれるだけはある。


 精神を集中することが大切だな。この世界では魔力という要素が大変重要なことは言うまでもないが、その魔力を操るためには自らの強い意思が欠かせない。簡単に言うと、思い込みが強い奴の方が強くなれる世界だと思えばいいだろう。

 自分に絶対の自信を持つことが、その絶対の力に繋がるとはなんとも因果な世界だな。普通はその自信を持つ過程で、挫折や限界にぶつかるのだろう。だから、人は魔物に脅える。彼らは生まれながらにして人よりも強者だからな。人が彼らを征すためには、自らを信じなければならないが、それはあまりに厳しい行為なのかもしれないな。

 精神を集中するはずが、壮大に考えがズレて行っている。思考を元に戻さなければ、でもなぁ~、壁に対してはそれほど激しい気持ちを持つことができないなぁ。だって、壁ドンの時は壁の向こうに憎いあん畜生が居たわけだし、山ドンの時も似たようなものだったし、床ドンの時はカニだったし、俺の気持ちが奮い立たないわけだ。


 魔術適正の話にもなるが、この世界の代表的な四属性である、火、水、風、土、はそれぞれ、怒、哀、喜、楽、の感情に繋がっているとされている。ミズーリの学校の魔術科では、それぞれの適正で性格診断が流行っているのだそうだ。まるで血液型占いの様なものらしいが、あながち間違っていないそうだ。

 今回の場合は石壁を破壊したいのだ。それは土属性の力を意識するべきだろうか?いや、違うな、石壁を破壊するにはそれに有利な属性を想定するべきだ。

 火は凝結して風になり、風は液化して水になり、水は固化して土になり、土は昇華して火になる、逆もまた然り。ならば俺が意識するべきは土を昇華させるための力だ。それは火の力だろう、必要なのは怒りだ。圧倒的な怒りの炎で、この憎らしい石壁をすべて炎へと昇華してくれようではないか。


 だが、最大の問題が残っている。現状、俺がそれほど焼きつくすような怒りの感情を抱いていないと言うことだ。怒りを持続するのは難しい、ある種の才能がなければできないだろう。そうだから、誰かが焚きつけてくれなければならない。怒りの炎を、大火災に変えるためにはそれだけの燃料が必要になるわけだ。

「皆! 俺を限界まで怒らせてくれ!」

 仲間を頼ることにした。


「……ついに頭がおかしくなったのじゃ~」

「えっと、その、どうしたらいいのでしょうか?」

「いきなりそんなことを言われても難しいでありますよ」

「えー、タローを怒らせるの? う~ん、どうやったらいいんだろう? くだらないことでマジギレするくせに、実際怒らせようと思うと難しいんだよね。ぶったりなじったりしたくらいじゃ、すぐに気持ち良くなっちゃうだけだろうし」

 なんてことだ。俺は怒りの感情から程遠い聖人だったのか!


「まあ、確かにのぅ。わたしのことも、あっさり許すくらいじゃし、しかし、なぜ突然怒らせろなどと言っているのじゃ?」

 俺の考えを皆に説明して見る。

「…………バカじゃ、バカがおる」

「あははっははは~、モズタロー様! それは原始的過ぎますよ。原人ですか? 野人なのですか!? 魔法はそんなに単純なものに落し込めないですよ」

 この場合は、魔に関する法則という意味での魔法だろうな。どうでもいいが、シュリさんにはイラッとした。

「モズタローさん、さすがにそれは無茶苦茶でありますよ。それが可能なのであれば、魔術師など存在しないでありますよ」

「普通はそんなに簡単じゃない……はず。……だけど、タローがそれを信じれば、誰よりも強く願えば、タローの魔力がそれを現実にしてくれるんじゃないかな」

 俺が願えば、か。ふむ、試してみる価値はある。今、俺はシュリさんの言動で最高にイラッとしている。聖人など夢のまた夢だったな。

「プルリン!!」

 ん? 運担当も応援してくれるのか。そうかそうか、シュリさんに対する怒りを燃料に今一度、渾身の零距離殴りを試してみよう。



 あああああああ、シュリさんシュリさんシュリさん、なんでこんなにイライラさせてくれるの!? なんで美少女なのにこんなに残念なの!? 国の人達はどう思っているの? ていうか、このまま国に戻ったら処刑されたりしないの?もしそうなら、ロス帝国全力で暴れるからな! そんな死なすために帰国を手伝ったとか俺に対する侮蔑でしかないからね!あああ、もう、アテナさんと悲壮そうな雰囲気を出すんじゃないよ! ム・カ・ツ・クんだYO!! あれか、タイタニック号を失った責任を取らされたりするんじゃないだろうな! それなら、まじで帝国ぶっ潰しちゃうよ! 俺の仲間に手を出そうとする奴らは誰であろうと俺の敵だからな! ああもう、帝国に近づくほどに俺のイライラが高まるんだよ! それにせっかく料理を仕込んだのにぜんっぜん手伝ってくれないじゃないか! なんで、料理しないの? なんで砂糖をそのまま食べて満足そうなの? 皿に砂糖を盛ってデザートです! ドヤッってやられたときは張り倒しそうになったわ! 俺はアリか!! あと、酒のつまみは塩が最高ですぅじゃねぇよ! どこの世界に塩をアテにして酒をカッ喰らう姫様がいるんじゃ!? それに生肉を食べるな! アテナさんに影響されて始めたのかもしれないけど、そんなに強靭な内蔵していないでしょ! 何回お腹を壊せば気が済むんだよ!! あれだぞ! 描写されてないだけで、何度もトイレシーン挟む羽目になってるんだからな! まじで反省してください。その度に俺の魔力循環に巻き込んで治療しているこっちの身になってください。上からも下からもジャージャー年中猛特訓じゃないんだからさぁ!! あああもう、それにズボラ! グウェンちゃんも大概だけど、自分ひとりで生活できるの? 姫様には無理なの? なんかご飯の食べ方もぽろぽろ零して汚いし、洗濯すればすぐ服を傷めるし、皿も割りまくるし、シュリさんのせいで木製の食器を揃えざるを得なかったし、ゲップとかも平然とするし、屁こそこきゃしないけど、色々な意味で明け透け過ぎるんだよ! 男にもっと幻想をみせてよ! ちゃんとお姫さましてよ! 恥じらいを持ってよ !風呂上りに全裸でうろうろしないでよ! こっちが見ると、エッチとか言うくせに貴様が痴女なんじゃボケぇ! ありがとうございます!! でも、お胸が大平原ですね! 笑ったら顔を真っ赤にしていたけど、ありがとうございます! なんで、胸だけそんなコンプレックスなんだよ! もっと他にあるだろうが! 礼儀とかマナーとか食事作法とかさ!! 見た目が美少女でホンマに助かりました! あれで見た目がおっさんだったらどうなっていたことやら。


 はぁはぁはぁ、ダメだ。この怒りの力に身を任せては、この辺で力を解放しなければ、俺自身が暗黒面に落ちかねない。くっ、なんてやっかいな女なんだ、シュリさん!俺をこれほど悩ませたのは現在過去前世においてシュリさんで二人目だ!?

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 全身を躍動させ、壁に密着させた拳がひしゃげ砕けるのも構わずに、俺のため込んだ全エネルギーを注ぎ込み、打ち込んだ。ああ、腕がグシャグシャになって行く、それでも解放の喜びがある。ああ、これが力み、そして解放か……。こんな世界が存在していたとは、まだ見ぬ地平が見える。


「タロー!」

「な、な、な、なんじゃあ、この魔素振動は!? 一体、なにが起こるのじゃ?」

「ちゅーん」「ちゅちゅーん」「ヴぁーキョウハソイネシテアゲルネ」

「モズタローさん、シュリ様のことでこれほど心労を溜めておられたとは、ああ、なんてお可哀そうな」

「ちょ、ちょっと、アテナ! 共感してしまうんですか!? え、アテナ、もしかして、私にイラついたりしているんですか!?」



「燃えろ!! 燃え尽きてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 俺の叫び声が、迷宮へと響き渡った。





 次回、とろけちゃーう


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