第八十話 我慢のできない人達
80.
「いっくよ~! ファイヤー!!」
カッ!!
俺はクーに魔力譲渡しながら、クーが放つ魔術を眺めている。垂直に切り立つ崖だから、斜めに吹き飛ばせないかと思っての行動だ。斜めになれば階段も作りやすいだろう? たぶん。作業が面倒くさくなった分けでは無いよ? 数メートル掘っただけで飽きた分けでは無いよ! 違うったら、違うよ!?
「ひょえぇ~、この人達には工事という概念がないでありますか。あんな短時間で我慢の限界なんて建築をなんだと思っているのでありますか……」
「わぁ、綺麗です!」
一直線に放たれた光線が氷壁に触れた瞬間。
シュン……
「チュン?」
ジローがかわいらしい声を上げた。ジローの声が一番かわいい。ぶりっ娘のような声を出すのが特徴だ。クーの愛騎なだけはあるね。
「ふむ、魔術が消滅したのじゃ」
「むぅ、もしかして魔術防護が働いているの? タローが殴ったときは普通の氷見たいだったから、物理防御は氷のままなのかな~。これだから、古代技術って奴は嫌いだよ!」
「魔素に対して影響を受けぬようになっているのかも知れぬのぅ」
「なるほどであります。普通の氷だと考えるのは危険でありますか。まあ、丈夫であるのであれば、問題ないでありますな。モズタローさん、がんばって氷を砕いてほしいであります」
了解、俺がやらねば誰がやる!? 今こそ、力を見せつけてやろう!?
うおおん、俺は人間砕氷船だ! 南極だろうと、北極だろうとバリバリ前進してやるぜ。
「うはははっ、モズタロー羅漢撃ぃぃーー!この素早い突きをかわせるかな!」
ジャギギギ~、わはは、たのすぃ~。
「タロー、相手は壁だよ~。動かないから、かわすとかないよ」
わかってるよ! 気分だよ、気分の問題なの!
「すごいのぅ、氷壁がまるで泥の様じゃ。さくさく掘り進めるのじゃ~」
おっと、そこはプリンの様だという表現がお勧めだよ。……プリンが食べたい。なぜ、この世界にはプリンがないの? あぁ、プリン、時々食べたい焼きプリン。
「うわ、この断面! すごく滑らかでありますよ、モズタローさんの手刀はどうなっているでありますか!?」
「これが近接戦闘の奥義なのですね! 素晴らしいです! 刃物はいらないのですね!」
う~ん、氷をこれだけ簡単に掘り進めるとは、俺も人間をやめてきているな。まあいいや、今は遮二無二掘り進んでいくとしよう。斜め上に掘り進んでいくのは結構な重労働だな。
どこを見渡しても氷、氷、氷、この歪んだミラーハウスには精神が参ってしまいそうだ。
ボコッ!!
「うおっ!?」
なんだ? 空間と繋がってしまったようだ。空洞があったのか、いや、空洞では無いな、レンガで造られた人工的な空間へと繋がったようだ。横幅五メートル、高さ五メートルといったところだろうか。
妙だな、この空間に入るまでは氷越しにこのような通路があることなどわからなかった。ウィザードリィで出てきそうな、壁に囲まれた通路だな。まさにダンジョンという趣だ。……ダンジョン?
「グウェンちゃん!こいつを見てくれ、これをどう思う?」
「すごく、人工物なのじゃ」
「大氷河に、このような人工物があるなど、……聞いたことがないであります」
「へぇ~、通路になってるね。これって、向こう側へ通り抜けるために道が作られていたのに、正規の入り口じゃない所から、タローが壁をぶち破って侵入しちゃったってところかな?」
どうだろう?古代技術で作られた人工的な氷河地帯なのだから、内部に人工的な空間が広がっていても不思議ではないだろう。
「ちゅん」「ちゅちゅん」「ヴぁー、アッタカイ」
「本当じゃ! 暖かいのじゃ! うーむ、これはますます怪しいのぅ。この道を行けばどうなるものかじゃ、危ぶむことなかれ、危ぶめば道はなし、ありがとぉー!! なのじゃ」
何が言いたいのかよくわからないが、この道を進んでみるってことで良いわけね。
「そうでありますな、階段を作るなどあまり現実的では無いであります。安全に 進めるかわからないのでありますなら、すでに有る道を通ったほうが良いでありますよ」
「くんくん、魔物の臭いがします。どうやら魔物の巣になっているようですね。気をつけて進むことにしましょう」
シュリさん……匂いで分かるんだ。この狭い空間ではスズメ達は活躍できないな。俺が先頭で、最後尾がクー。側面がグウェンちゃんとシュリさん、アテナさんとイヒッ達は中央に入ってくれ。菱形の陣形で進むことにしよう。
「待ってほしいであります! 内部は真っ暗であります! 松明を用意して光源を確保するべきでありますよ」
え、これ暗い? 見通しが良い通路だと思ったのだけど、曲がり角が多そうだから注意するのはわかるけど、光源がいるとは思えないな。
「ぜんぜん暗くないよ~」
「この程度の闇は冒険者なら見通せんとならんのじゃ、灯りを掲げれば敵を呼び寄せるでのぅ」
「私もまる見えですよ!」
「ちゅん」「ちゅちゅん」「ヴァーモンダイナシ」
ほら、皆しっかり見えているみたいだよ。
「わ、私がおかしいのでありますが……? いえ、私には暗闇で数メートル先も見えないのでありますが」
ふむ、それは困ったね。それじゃあ、ジロー、サブロー、イヒッ! トライアングルフォーメーションだ!
「ちゅん!」「ちちゅん!」「ヴぁーンジ!」
三羽が三角形に並ぶ、まさにV作戦といったところだろうか。その中央にアテナさんが入るのだが、両足をサイドのジローとサブローに、手をイヒッに置くことで騎馬戦のポーズを取るのだ。これでアテナさんを運べばいいよね。気分は運動会だ。
「……私、運ばれるでありますか……? 完全にお荷物扱いでありますか……、ははっ、そうでありますよね。私ごとき、お荷物で十分でありますよね……」
いや、別にそんなことないよ?ただ、安全性を考えた時に、ね? 灯りを使うより、こっちのほうが安全だからだよ。他意は無いよ。えっと、俺が背負った方がいい?
「じゃあ、クーがタローに乗る~」
ダメです。殿でしっかり警戒してください。
「アテナ! 今は全体の安全を考慮して指示に従うべきですよ! ……ぷぷっ」
この姫様、笑っているよ! だから、他意は無いと言っているじゃないか!? この主従は歪んでいるなぁ、仲が良いと言うべきなの? なんだろう、そんなに無理な提案だったのだろうか。思ったよりも抵抗が激しくて吃驚している。
結局アテナさんはスズメ騎馬には乗らず、普通にイヒッに搭乗して俺の後ろについて来ることになった。
「イヒッさん、すみませんであります。重くないでありますか?」
「ヴぁーキニシナイデ」
「イヒッは気のいいスズメじゃなのぅ。それにしても、この通路じゃが、まさに迷宮と言ったところじゃろうか」
「でも、ダンジョンじゃないよ? これはただの人工物だね。魔素の影響で生まれた空間かもしれないけど、現実世界にこれだけ定着していると、人の言うダンジョンの定義から外れちゃうからね」
「この建築様式……これは相当古いですが、ロストアヴァロン帝国で使われている様式に若干似ていますね」
「シュリ様もそう思うでありますか? 私も帝国流の建築様式だと思ったであります。まあ、かつてのオスアナア大陸で多く使われていたのだけかも知れないであります」
「どうじゃろうなぁ~、玄室などがあってもおかしくないのじゃが、今のところ壁と通路だけじゃのぅ。建築については詳しくないのじゃが、この石壁の加工はかなり高レベルの技術じゃ、古さから考えても古代技術で作られていると考えるべきじゃな」
俺は先頭で警戒歩行をしているので、会話に混ざれないや。罠や魔物の気配を注意深く探りながらだと、集中してしまうから会話の余裕が持てない。ただでさえ、俺の探知はガバガバだからね、皆に危険が及ばない様にしなければ。
通路を進むにつれ感じることがある。俺達は中心へと向かって誘われているのではないだろうか。どの通路を通っても、最終的にはひとつの道に繋がるような構造をしているようだ。
この道の作られ方は、まるで通気口だな。それも、正解の道がひとつしかないような、そんな印象を受けた。
「むっ、気をつけるのじゃ!曲がり角、左から何か来るのじゃ!」
俺も感じたが、グウェンちゃんの方が一瞬早かったようだ。
さて、一体何が出てくるのやら。
それは、地面を四足で飛び跳ねる様にして現れた。赤い肉体、矢の様な尻尾、顔は醜悪な酔っ払いの様に醜く歪み、その背には小さな翼を持っていた。腕輪、胸当て、それに加えていくつかの気味の悪い装飾品を身に付けたその姿は、まさしく雑魚悪魔と言った姿をしていた。
「気をつけい! レッサーデーモンじゃ! 下級じゃが悪魔族じゃぞ! 強力な魔術をつか「たたかう」」
「グギャポン!!!」
あ、死んだ。思ったより軟弱だな。まあ、体も筋張っていそうだし、耐久力は低いのだろう、もっと食べて脂肪つけたほうがいいんじゃないかな。それにしても、さすがたたかうコマンドだぜ、どんな敵にも通用して、破壊神を破壊しただけはあるな。俺もはかぶさの剣とか装備したいなぁ。二回攻撃ってロマンがあるよね。いなぶさでも可!
「さって、解体解体~、グウェンちゃん、他にもいる?」
「……いや、周辺にはおらんようじゃ」
どんな味がするのだろうか。悪魔の肉など楽しみで仕方がないね。骨が多いから出汁をとってみるのもいいかもしれない。
「……食べるでありますか……。毒は……、毒は効かないでありますものね。なら、モズタローさんが食べる分には問題ないであります」
「もう、驚かないですからね! モズタロー様が強力な魔物をかわいそうな倒し方をしたくらいでは、このシュリに一片の動揺も無いと思ってくださいませ!」
「タロー、後ろは暇だよ~、クーも戦いたいよ! 交代、交代してよ」
え、クーに罠感知とかできるの?ちなみに、俺にはできないから、適当にやっているだけだよ。罠があっても俺が踏んだらいいじゃない。どんな罠があるかぞくぞくしちゃうね。落とし穴以外でお願いします、自分で作ったのに自分で落ちて以来のトラウマが疼いちゃうからね。
食糧も確保できそうなので、これで本格的に進攻してもいいだろう。おっさんは根が貧乏性なせいで食べることばかり心配しているのだよ。飯が食えなきゃ、この世は地獄さ。
何か有益な物が見つかるといいのだけれどね。まあ、期待半分好奇心半分で進んでいくとしますか。急ぐ旅でもないし、行き止まりなら戻ればいいさ。その時はまた別の方法を考えるとしよう。
次回、大氷河の中には大迷宮。同じ景色に飽きたおっさん達がとる行動は大体予測可能だね!




