第八十二話 我慢しなかった結果がこれだよ!!
82.
シーーーーーーーン………………ペキッ
うん? 特に何も起きないな? あれー、おかしいなぁ、完全にぶっ壊せた気がしたのだけど。
「なんじゃ、焦らせおって、何も起きんではないか! まったく、モズタローにも困ったもんじゃ」
すいません、上手くいきそうな気がしたのですけど。はて、俺の放った魔力はどこへいってしまったのだろうか。
「タロー! 腕が、腕が滅茶苦茶になってるよ! 肩までぐちゃぐちゃで大変だよ!? タローが、タローがピンチだよ!!」
あ、大丈夫だよ。ほら再生が始まっているから、こんな傷はあっという間に治っちゃうよ。
「ひぇ~、腕がコポォコポァ音を立てながら、うえぇ、凄まじい勢いで再生して行くでありますよ、おえぇ、うべぇあ、オボォー」
「ア、アテナ! この程度のことで吐くなど、モズタロー様に失礼……うぐぅ、うえ、ゲロロォー」
二人とも吐いちゃった。そんなに気持ち悪いかな?精神をゴリゴリ削る光景なのかもしれないね。
「ちゅん♪」「ちゅちゅん♪」「ヴぁーオニク~」
あ、こらこら、飛び散った俺の肉片を啄ばまないでよ。まったくもう、意地汚いのだから、そんなことじゃお嫁のもらい手がないわよ! お父さん、心配しちゃうわ!?
「モズタロー様は、相変わらず、その、あれ? ナクアさんもケガこそ治らなかったですけど、凄まじい方でしたね。……もしかして、モズタロー様達が当たり前で、私達が貧弱一般人なのでしょうか?」
「シュリ様、さすがにそれは・・。いえ、ありえるでありますな。『オリアブ島』で見た光景を考えると、私達の常識は通じないのであります」
「むー、タロー、あんまり心配させる様なことをしないでよね!心配したじゃないの、もう。それにしても、あれだけ高まった魔力が撃ち込まれたのに、この石壁、全然壊れてないね。なんでだろう?さすがに、亀裂くらいは入ると思うんだけどなぁ~」
ズゴォ……
俺達全員が不思議に思っていると、遠くの方から物音が聞こえてきた。
「ん? なんじゃこの音は、地鳴りかのぅ?」
「ちゅちゅちゅん!!」「ぢゅぢゅぢゅん!!」「ヴぁーコラアカン!!」
スズメ達の様子が尋常じゃない。一体何が起こっていると言うのだ!?
「落ちついてよ、三羽とも!? そんなに焦ってたらわからないじゃない! え、本能にビシビシ警鐘が鳴り響いてる?どゆこと?」
ズゴゴゴゴゴォォォォ……
「ひっ、ますます音が大きくなって来たであります!」
「モズタロー様!? 一体どうなっているのですか? これは、一体何の音なのですか!?」
俺が知るか!? 自分で考えろ!!
<<ズグォゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォォォオ!!!!!!!!>>
轟音が俺達のすぐ傍まで迫った時に、その正体がわかった。水だ!?濁流が俺達に迫って来ている! なんで!? 氷河地帯になぜこれだけの水が!!
「全員! 手を繋ぐのじゃ! 流されるぞ!!」
叫ぶグウェンちゃん。自分は既にサブローにしがみついている。行動が早いね、さすが経験豊富な冒険者だ。トラブルには慣れっこと言うわけだ。
「アテナ! 残念! こっち! イヒッ、ジロー! 二人をお願い!」
「ひゃあ! イヒッ号さん! 首を摘まみ上げないでほしいであります!!」
「ヴぁーガマンシテ」
「ジローさん!? 私怖いです! あと! 私は残念なんて名前じゃありません!?」
「ちゅちゅん!」
「タロー! タローも急いで・・キャ!」
あ、クーも水に呑まれたか。あ、上手いことサブローがフォローしてくれたようだ。これで四人と三匹は離ればなれにならずに済むだろう。
えっと、俺はどうしたらいいのだろうか。あ、もう遅いか。
<<<<ドッパァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!>>>>
おごふぅ!? いた! いてぇええ! あたたたた! レッサーデーモン達も流されてるじゃねえか! 筋張っていて固いんだよ! ふぅ、落ちついた。ああ、でも、濁流に飲み込まれるというのも、なかなか気持ちいいかもしれない。河の流れに身をまかせ~、ああ、このまま流れて行こう、母なる海まで。
俺は流れに身をまかせ、どこまでも、どこまでも流れて行くことにした。皆は無事だと良いのだけど、もしかしなくても、俺のせいかな?
いやいや、そんなバカな。マッドスキッパーの時みたいに不幸な偶然が積み重なった結果に決まっている。俺が壁殴りしたくらいで洪水が起きるなんて、またまた御冗談を。
人一人に自然の脅威を起こす力があるなんて、そんなバカなことがあるわけがない。……以前、地震を起こしたことがある気がするが、それだって、偶然だよね?
サントゥワァマァミィ~、悲しぃくてぇ~、サーントゥワマミィィィ~、泣かなぁいでぇうぇ~。ああ、流れて行くよ、行き先は分からないけれど、きっと、そこは僕たちの知らない大地が迎えてくれると信じているよ。トゥビィネクストバイババーイ!?
「モガモガッ! こんな、状況! で、アホな! ポエムを!! 口ずさむなんて!!! さすが、さすが、モズタローさんであります!! アババババ~」
イヒッと一緒に浮かんだり沈んだりしながら突っ込みを入れるアテナさん。すっごい元気だね、何か良い事あったのだろうか。おっさんは、水の中にいるからおしっこしてもバレへんか?とかそんな事を考えているよ。
「どんどん、先へと流されていくのじゃ! はあっはっは! これならば、あっと言う間にロストアヴァロン帝国とやらに着くかも知れんのじゃ! 死体となっている可能性も十分にあるがのぅ!」
グウェンちゃんのテンションもウナギ昇りだ。最近、この石壁の通路に閉じ込められていたせいか、元気がなかったから、俺もうれしいよ。
「あぷっ、あぷ! 私、私は泳げな! あぷッ! あ、ジローさん・・ありがとうございます」
溺れかけているシュリさんをジローが颯爽と助けている。ジローはカルガモのように水に浮けるのだな。多芸なスズメだ。イヒッが浮いたり沈んだりしているのを考えると、スズメ達にも特徴が別れるのだな。
「タローは仰向けで流れに乗ってるんだね。器用だね~、クーもできるかな?」
こういう時は無理に逆らわずに、激流に身を任せ同化する、ことが大切だった二番目の兄さんが言っていたからね。
「いや、それはなんだか、無理があるじゃろ~。はぁ、このままどこまで流れて行くことやら。途中で酷い目に合わなければいいのじゃが」
<<<ドドドドドドドドドドッ!!!!!>>>
あら、この音は何でございましょうかね。まるで、水が高いところから低いところへ落下するような音がしていますね。
「排水機構か何かの様じゃな。このような事態を想定しての設備なのじゃろうな~。ぶっちゃけ、ただの滝じゃ」
冷静なグウェンちゃん、かわいいなぁ~。
「滝でありますか!? やばいでありますよ!」
「滝ですね!? ……滝とはなんでしょうか? ピエール?」
滝か~、何だか普通だね。テンション下がるわぁ。シュリさんの天然ボケなのか狙っているのかよくわからない発言は無視しておこう。
「テンションはどうでもいいけど、滝だなんてどうするの!? え、落ちるの? そのまま落ちちゃうの? どれだけの高さがあるのかも全然わからないよ!?」
ああ、流れに身を任せてどこまでも進んでいこうではないか。仰向けで流されながら、無抵抗を貫く様な事を言ってみる。
ぶっちゃけて言うと、魔力は異常に消費したせいか、体がだるくて仕方がないのだ。異次元鞄を維持するのすら面倒なほど消耗してしまった。腕の再生までしたせいで、しばらくの休息が必要だと体が囁いている。その声の言うままに流れて行こう。
「……タローの、タローのバカぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
罵声入りましたー。さて、少し寝ようかな。ああ、水のうねりが気持ちいい。サントゥウワァ~マァミィ~、切なくてぇ~。
クーの罵声を浴びながら、俺達は皆で滝へと飲み込まれていった。
次回、水来のおっさん!!




