第七十一話 誰かの願いが叶う今日この頃
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凄まじい勢いで霊峰自体を侵食しながら、ダフダールブだった何かが追いかけてくる。これが山津波と言う奴なのだろうか。いや、向きが逆だろう。山頂に向かう津波とか嫌過ぎる。もはや、理性らしきものなど感じられない、この世界すべてと同化しながら向かってくる。
「リンさーーーん!! こんなのが願いを叶えたらどうなるんですかーーーー?」
「これはさすがに想定外だ!! 黙って走らないと舌を噛むよ!」
リンさんも必死で走っている。不死系の魔物のような体と言う割には汗だくになっていらっしゃる。
「あやつが、この世界その物となっているのじゃ! どこからどこまでが、贄なんじゃろうなぁ~。ふはは、願いとやらが叶うのかすら、危ういのではないのかのぅ~」
グウェンちゃんは俺におんぶされながらご機嫌におしゃべりしている。毒抜きをしたら疲れたそうだ。
「どうなるでありますか……このままデッドエンドクライマックスなのは勘弁してほしいでありますよ~」
「すみません、モズタロー様。お疲れのところを抱えていただいて、ありがとうございます。私、生きて帰れましたら体力作りをします! そして、出番を! もっと、活躍します!!」
アテナさんとシュリさんは途中で体力切れをおこした。山道を全力疾走し続ける経験なんて無かったのだろうね。放っておけば、アレの飲みこまれてしまっただろうから、俺が脇に抱えて走っている。
二人とも余裕そうだから自分で走ってもらいたいものだ。あれに飲み込まれたら、死ねるかもわからない。シュリさんの体力作りは、俺が監修してあげるよ、地獄すら生温い何かを体験させてあげるよ!約束だよ!
「いいなぁ~、タロー。クーも、クーもだっこしてよぉ~」
これ以上どうしろと! あれか、正面から抱きつくのか!? もう、三人も抱えているのだから、勘弁してください。
「三人抱えた状態で、何でそんなに余裕そうなのよ……。ドラゴンだって、一人で倒した様なものだったのに、まさに体力お化けね」
委員長は、そう言うけど、俺だって満身創痍だよ。ううっ、体が悲鳴をあげている。竜はそれくらい強敵だった。中々、体の芯に残るダメージを与えてきやがった。毒のブレスで助かったよ、あれが他の属性だったらまずかったかもしれない。
空から見られないのが残念なのか良かったのか、おぞましいほど不気味で驚嘆するほど幻想的な光景が広がって行く中で、俺達は山頂の祭壇へと辿り着いた。
肝心の、その祭壇は巨大な魔物だった。暗銀色に輝く体、上口より上の顔は存在せず下顎が剥き出しの顔をしていた。右手には巨大な錫杖を持ち、左手は……ここに俺達を引きずり込んだものだった。背には暗銀色の三日月形の輪翼を背負い、長く鋭利な尾を肩にぶらさげ、左足は存在しないため不格好な座りをしていた。まさに異形の悪魔というべき姿をしていた。
ちょっと~、リンさん~、こわすぎんよぉ~。何考えてこんなものを設置したの?これ生きているの?さっきやり合った竜より強そうなんですけど~。
「これが招き手だよ。この世界の核、ダンジョンマスターと言っても良い存在だ。ふむ、ワタシも実際には始めて見るが、このような姿で現れるのか。我が一族の信ずる神の姿をしているらしいが、ふふっ、なかなか格好いいじゃないか」
まあ、確かに格好いいと言えば格好いいのかな? それにしても、神様かぁ。まあ、仏教の仏像も強そうだもんな、すごい張り手とかしてきそうだもの。
「<<<ま゛ででででででででぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー>>>」
おっと、悩んでいる時間は無いか。願いを叶えなければな、肝心の願いの捧げ方がわかんえねぇや。これはもう、ダメかもわからんね。
「どうするのじゃ! ええい、叫べばよいのか? 身長くれ! 身長くれ! 身長くれなのじゃ!!」
俺から降りたグウェンちゃんが一心不乱に祈りを捧げている。
「あははは、適当に声をかければいいの~? モズタローくんをズタボロにして、拘束して、好き勝手できるように強くなりたいよ~」
「えっと、自然の豊富で暮らしやすい土地がほしいです!」
「愛の巣愛の巣愛の巣愛の巣・・・・・」
「貴族死ね!! 貴族死ね!! 死ね! 死ね! 私以外の貴族は死ね!!」
「カタリアさん、それでは私も死んでしまうでありますよ! 私には強い体をくださいであります! 足手まといは嫌であります!!」
まあ、人を生むことができないのはリンさんから聞いていたから、取り込まれたマッドスキッパーの人命は全て失われたと思っていいのだろうけど、皆、欲望全開だな~。ていうか、何人かやばいお願いをしているよ!
「はははっ、皆勝手に祈り始めているようだね。モズタロー君も祈ったらどうかな?この場にいる者達の中で、ご神体へと届いた最も強い想いが叶うはずさ」
おう、じゃあ、後ろも迫って来ているから、俺もさっさと祈るか。それにしても、全く動かないな。この世界へと拉致するのと、願いを叶える役目だけを果たすロボットの様な物なのだろう。
俺はダンジョンマスターへと駆け寄る。
「とりあえず、アテナさん、シュリさん、リンさんを贄にしないでください。あと、俺に何か武器になるものちょーだい! お願い神様!!! あと、よくもこんな世界に引き摺りこんでくれたな!!! 砕け散れ!!!」
ドグシャ!!!!!!!!!!
「……ッッッ!!!!!!????????」
全力で腹パンを決めてやった。ミズーリを揺らし、海蜘蛛を砕いた俺の全力全開の腹パンだ。ここに至るまでの間に溜め続けてきたのだ。ボロボロの俺に出来るのは拳にあらん限りの力を込めること、ただそれだけだった。何かに使えるかと思ったが、祭壇が動かない神像の様な何かで助かったよ。
カッ!!!!!!!!!!
ご神体から凄まじい発光現象が起こった。
急速に世界が揺らいでいく、意識が暗転して行く。これは、ダンジョンから排出されるときに感じた感覚だ。誰かの願いが叶ったのだろうか。
「ご神体がぁ!!!」
遠くにリンさんの叫び声が聞こえた気がした。
俺は木端微塵に砕け散った悪魔の像を見て、ガッツポーズをした瞬間に意識を失った。
ここは、どこだろう。
俺はまた青空の下にいた。
「<<<ごろ゛ずずずずずずずぅぅぅぅぅぅーーー>>>」
飛び起きた! うわっ、俺の後ろでは三階建てのビルほどもある、泥の様なダフダールブ塊が叫んでいる。ダフダールブのおっさんだったものだろうか。俺達と一緒に外に出て来てしまったのだろうか。
ダフダールブ塊は嗚咽をあげながら、その場でグヨグヨ蠢いているだけだ。もはや、俺を認識できていないのだろう、攻撃するべきか? いや、反撃で取り込まれるかもしれない。さわるのは止めておこう。
それよりも、皆はどうなったのだろうか。周囲には姿がない。というか、ここはどこだ?砂漠だ、……何もない砂漠に、俺とダフダールブ塊だけが存在している。
ベチャン!
ダフダールブ塊の上に銀色の粘体が落下した。その瞬間に絶叫が響き渡った。
「<<<お゛でが、ぎえ゛る゛ぅぅぅぅ>>>」
その粘体はダフダールブ塊を貪るように取り込んでいく。クリオネの捕食のような動きは生命の不思議さを感じさせた。
やがて、ダフダールブ塊は消え去り、銀色の巨大なグミのような物がその場に残された。
その巨大グミの表面が泡立つ。攻撃してくる気だろうか。くそっ、状況が掴めないのに連戦かよ。もう、疲れたよ。まだまだがんばれるけどね。
「(○・ω・)ノイヨゥ」
巨大グミの表面にはそう表示された。
「おまえかぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
今まで出したことが無いほどの大声が飛び出した。喉が裂け、血が噴き出した気がする。運の担当神だよ、コレ!!
叫びながら、俺の意識は再び暗転して行った。ああ、もう、何が何だかわけがわからないよ。助けて、神様。あ、助けに来てくれたか。
次回、ようやく現実へ帰ってきたおっさん達、休息が必要だね。




