第七十二話 己が内に見出したモノ。その面倒は誰が見る?
72.
うおっ、苦しい、息ができない。溺れる! 溺れる!!
「うおりゃあ!!」
飛び起きた。俺の顔面には銀色に輝く巨大グミが乗っていた。引き剥がして地面に叩きつける。
ベチャン。
信じたくない。信じたくない。俺は何も見なかった。見ていないのだ。
「(  ̄っ ̄)ムゥ」
あああ、もうやだーーーー!!!! 神様出てきちゃったよ! それも一番ダメなの来ちゃったよ!! 何しに来やがった!? あれか、俺の事が好き過ぎて、ついに現世に降臨しちゃったの?
「(・ε・)ヒマッ」
暇だったのか……。それは、しょうがないな。
「タロー! タロー、見つけた! もう、タローだけ側にいなかったから、焦っちゃったよ~」
おや、クーさんじゃないですか。ここはどこですか? 遠くに森の見える荒れた地、所々に露出する赤茶けた土は見た事が無い風景だ。
「ヴァヴァヴァ」
うわぁ、イヒッが飛び込んできた。そうかそうか、心配してくれたのか。よしよし、皆いるのかな?
「おう、おれぁ達もいるぜぃ。どうやらここは、マッドスキッパー製材所の近くだぜぇ。木を切った後、植林なんてもんはしねぇんだ。荒れ地が残ってんだよ」
ああ、伐採跡地なのね。道理で切り株が点在していると思ったよ。北側には来たことが無かったからな、こんな風になっていたのか。マツオさんも無事なようで何よりだ。あのダフダールブ塊に襲われなかったのですか?
「スズメどもがぁよぉ、海まで逃げろって指示してくれてなぁ。海に入ってやり過ごしたんだぁよぉ。あの叫んでた液体も、海までは侵食できねぇ見てえだったぜぃ」
イヒッ達の機転が効いたようだな。あなかしこ~。
とりあえず、製材所へと向かう事にする。施設は無事らしいので休息できるだろう。皆は既に休息しているらしい。俺がいないものだから、クーが探しに飛び出したそうだ。マツオさんは、そのクーを心配して随行したそうだ。
一月余り留守にした事になるが、マッドスキッパーの状況を確認しなければならないな。カドちゃんやアキちゃんはどうしているかな。
「タロー、そのついて来るスライムは何?」
ゴッドです。
「ぶほぉっっ」
マツオさんが吹き出した。
「いやぁ、なんだぁ、ゴッド? 神か、んなもんがかぁ? だとしたらよぉ、おめぇさん、それどうしたんだよぉ?」
こんなのでも、助けに来てくれたみたいなので丁寧に扱ってください。
「え……!? 待って、マツオ! それに触れちゃだめだよ! それエーテル体だよ、触ると死ぬよ!!」
クーが今まで見せた事のないほど焦った表情で制止した。またまた、御冗談を。触ったら死んじゃうのなら、俺などもう生きてはいないだろう。
「マジも大マジだよっ! タローも触れちゃだめだよ! エーテルは魔素由来の生命体には猛毒だよ、分解されるよ、消滅しちゃうよ! 気をつけて!」
そいうえば、ダフダールブ塊を消滅させていたな。あの~、俺の顔に張り付いていたのだけれど。俺、消えるのか?
「( ̄ー ̄)ニヤリッ」
このやろー! どういうつもりだ~。えいえい、このこのプニプニしやがって! 肌触りは気持ちいいじゃないの。ヌルりと冷やっこい、うむうむ、そして確かな重厚感がある。良く見ると微妙に空中に浮いているようだ。
「……なんともないの? タローには神の毒も効かないの? タローは……、タローは生物なの?」
ついにクーが俺の存在に疑問を持つ時が来たらしい。おっさん、悲しいなぁ。このスライムみたいな運担当神がダフダールブ塊を滅してくれたのは事実だから、あんまり嫌わないであげてね。
「|柱|_ σ)ジッー」
相変わらず、ウザったいな。せめて、顔文字をやめてください。
「ショウガナイニャア」
止めてくれた。むかつく。サンキューゴッド。
「……クーも触って……いや、ダメ。クーも触れたらただじゃ済まないか……。あながち、神様って言うのも嘘じゃないのかも。……エーテル生命体なんて、この世の理に反した存在だもん」
うーん、クーさんは何か知識を持っているようですね。良かったら俺にも教えてほしいのだけれど。
まあ、それは皆と合流してから考えましょうか。
「ユーノマリョクジュンカンニマキコメバムガイヨー」
えっと、そうなの? 俺の魔力でコーティングしてやれば、無害になるとおっしゃっているのでやってみるか。体に接してないと出来ないから、えっと、抱えたらいいの?
そう言うと、俺の背中に張り付いてきた。ズルズルと形を変えて行き、あっというまに銀の帯へと変形してしまった。背中には結び目の部分ができているが、大きさが余ったのだろうな、冷やっこいから別に良いか。女性の着物じゃないんだから、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
早速、魔力循環に巻き込んでみよう。これは普段から服や異次元鞄などにも使っているから簡単にできた。本来なら武器に使う事で、耐久力や切れ味があがるのだけれど、俺は苦手なのだ。防具には問題なくできるが、なぜか武器には上手く出来ない。
「うん、危険な感じが治まったみたいだね。タロー、後で詳しく聞かせてね。どうして、そんなものがこの世に現れたのか、聞きたい事が山ほどあるよ~」
そうして、俺達はマッドスキッパー北部の製材所へと到着し、ようやく一息入れることができた。
「なるほどのぅ、モズタローだけ、他空間へ一度行ったわけじゃな、そして、ダフダールブを、そこなスライムが喰い殺したと……なんじゃそら!」
皆に何があったのかを説明したが、誰も彼も理解不能の意思を示した。やっぱりね。
それと、この水銀スライム運の神は俺としか意思疎通をするつもりがないらしい。いや、まともに意思疎通をするつもりがない。神様みたいなものとお話ししようとするのが間違っているのかもしれないな。誰が何を聞いてもプルプル震えているだけだ。
「君の願いは、ワタシとシュリ君、アテナ君の贄からの解放、強い武器、そして、ご神体が砕け散る事だったね。ふむ、ワタシ達三人が無事に帰れたのは願いが叶ったおかげだろうね、少なくともワタシはあそこで消失するはずだったからね」
リンさんは、申し訳なさそうな顔でそう言った。死んで終わりなんて、そんなのは嫌でしょ? 何さ、死にたかったの?
「いや、感謝しているよ。ふぅ、がんばって生きてみよう。今度は自分の意思で誰かのために、ね」
そうか、生前の彼女がした事は許せない事かも知れないが、俺には彼女だけを責めることができない。今の彼女は、あの地で生まれた別人ならば尚更だ。リンさんの知性はきっと、人の役に立つよ。
「モズタローくんの願い事には、お願い神様って文言が入ってたよね? だから、神様がそんな姿で降りて来て、武器になって倒してくれたのかな~、それなら全部の願いが叶ってるんじゃない? モズタローくんのだけ、モズタローくんのだけ!」
「そうね、モズタロー君の願いだけ叶っているわね……」
「ずるいであります……」
「アテナ、私達の命が助かったのですからそんな羨望など筋違いですよ。気持ちはわかりますが……」
なんだか、やばい雰囲気だ。話題変更だ。
「クーム、キーちゃん、カロちゃんはどうなの?」
俺がそう聞くと、キーちゃんとカロちゃんは無事だが、暫く安静が必要とのことで別の部屋で寝かされているそうだ。クームはまだ目が覚めないらしい、だ、大丈夫だよね?
西区ハンター組合建物に使者を送り、状況の変化を知らせてもらえるように言伝てある。使者が帰ってくるまで時間があるだろうから、三人にも十分に休息をしてもらいたい。
「それでじゃ、モズタロー曰く、運の担当神じゃったか? それは如何様な存在なのじゃ? クーが言う、エーテル体というのも気になるのじゃ。わたしは聞いたことが無い物質じゃのぅ」
この不思議生物についての議論が始まろうとしている。どうしようかな~、俺にだってわからないよ。このこの、つんつん、自分から説明してよ。あ、だんまりですか、そうですか。
「エーテルか、まさか聖素の重合物質のことなのかな。いや、そんな物質は神代の御伽話なはずだ。非実在物質だと思われていたのだけど・・・」
「タロー、本当に何も知らないの? タローに思い当たることは無いの?」
う~ん、ステータスチェックで神様達はフレンドリーだし、俺が危険な時に警告もくれたから、願いで助けに来てくれてもそれほど不思議に思っていなかったのだけど、議論する三人の表情が暗いな。もしかして、またやらかしちゃいましたか?
「なんじゃと!? 警告? 友好的じゃと? どういうことなのじゃ……、ステータスは自らの吸収した魔素強度を使って、それぞれの値に数値化したものじゃぞ。交神紙などと言ってはいるが、その実、自らの力の数値化に過ぎんはずじゃ……」
「ふむ、非常に興味深いね。神とは自らの内に見出すもの、なんて言う論法を信じたくなってしまうね」
「……タロー、他に何か隠していることはないの?」
すいません、もう無いです。お代官様~、お許し下せぇ~、もう、無いでさぁ~。
「搾ればもっと、でてきそうだよ」
「そうじゃのぅ。一度、徹底的に洗った方が良いかも知れんのじゃ」
「……解剖したいな」
まじで、もう勘弁してください。俺をこれ以上穿り返したところで、何も出ないよ。
俺を解放してからも、三人は何事かを議論し合っていた。頭脳担当諸君がんばってくれたまえ。あれ、クーがいつの間にか頭脳担当になっているな。
はあ、疲れた。まるで、尋問の様だったよ。こんな巨大グミに何ができると言うのだ。こんなにプルプルしていてかわいいじゃないか。よ~し、よし、なでなですべすべしてやろう。
「ヴァー」
はっ!?イヒッが恨めしそうにこちらを見つめている! ち、違うんだ、これは浮気じゃないんだよ? ただひんやりしているから、イヒッとは違った魅力があると言うか、そのね、イヒッの羽毛はそれはそれはすばらしいものなのだよ。
なんで俺はスズメ相手に、浮気が見つかった時の最低男のような繰り語とをしているのだろうか。
もう、本当に疲れた……。
ここは、マッドスキッパーの生き残り達が詰めているので安全だろう。今は休ませてもらおう。
俺は泥の様に眠りについた。冷やっこい枕と高級羽毛布団があるから、最高の睡眠を得ることができた。神様を枕にして、罰が当らないだろうか。いいか、運の担当神だし。
次回、戦後処理




