第六十九話 精神攻撃は基本!
69.
さあ、三陣営に別れた殺し合いがはっじまるっよ~。
アテナさんとリンさんは下がっていた方がいいんじゃない?
「いえ、私も戦うであります! ダフダールブの暴走を止めるのは帝国人である私の役目であります!」
勇敢なことで、それじゃ、キーちゃんとカロちゃんはアテナさんのフォローをしてくれ。
「おうよ」
「……了解で候」
「ワタシも援護くらいならできるさ。これでも火魔術ならかなりのものだと自負しているよ。魔法使いでもあるしね。自らがまいた種だ、根絶やすのもワタシがするべきだろう」
それなら止めないよ。グウェンちゃんと一緒に援護に回ってください。
「了解した」
「諒解じゃ」
シュリさんは委員長と適当にお茶を濁しておいてね。
「扱いが雑です! 抗議します!」
「はいはい、後ろから援護しましょうね。頼むわよ! あんたら戦闘能力だけは信頼できるんだからね!」
困ったお姫様だ。委員長は面倒くさそうにシュリさんを引っ張って下がってくれた。こういう時に冷静な人って頼りになるよね。
「私はあのどろどろをやるよ~! クームはモズタローくんにまかせるね! うまいこと手加減してね~。傷物にしたらわかってるよね!?」
ひぇ~、お、おう、がんばるよ。それじゃあ、俺がクームの相手をするから、皆はダフダールブとその従魔を頼むぞ。
俺ひとりで相手にする理由? 皆に手加減なんて概念が存在しているの?キーちゃんは出来るかも知れないけど、訓練で手を折るくらいはやるからなぁ。
「オレとしてはお前が一番あぶねぇと思ってるんだが、まあいいや。適当に抑え込んでどうにかしろよ。頼んだぜ」
任せておきなさい。女の子に優しくするのは得意なのさ! 素手な分、俺が戦うって判断は良いと思わない?ダメ?抜き手で貫いたりしそう? そんな南斗○拳じゃあるまいし、できないできない。もっと、ぐちゃぐちゃにぐずぐずにならできるけどね! ミンチメーカーってやつだな。
「タロー、クーはタローの手伝いした方がいいんじゃない?」
クーは普通にクームを殺しそうだから却下です。
「ブーブー手加減できるよ! 手をもいだり繋いだりすれば良いんでしょう?」
なるほど、手加減か、手が加わったり減ったりするのかな。だめだこりゃ。殺す気満々だ。それに繋ぐって一体何をする気なんですかねぇ~。
三羽スズメはピンチに陥った味方の援護を頼む。戦闘が始まった時の混乱を利用して、気配を消して適当に潜伏しておいてくれ。
「チューン」「チュチューン」「オウヨ!」
俺が指示出ししているが、皆不満は無いみたいだな。アレかな? 言った者勝ちって奴なのかな? こんなアバウトな指示に従ってくれてうれしいです。
各自、臨機応変に対応してください。なんだか、誰かに指示する度に自己不信に陥っている気がする。気が弱いおっさんを許してクレメンス~。
「クーーーーームゥゥゥゥーーーー!!!!」
奇声をあげクームへと躍りかかろう。立ちあいは強く当たって後は流れで、そんな感じだ。おっさんはスモウが好きだよ~。どれくらい好き勝手言うと、野球賭博をするおっさん達が野球を好きなくらいかな。
「くっ、そんなところを本人に似せるとは!? 覚悟するでござるよ!!」
「にんにんはどうした!!!! このっ! くのっ! 俺がいない所ではにんにんを語尾に付けていないのだな!? この! この! 舐めやがって! バカにしやがって! 男心を玩びやがって!? もう、許さねぇかんなぁ~!!」
あ~、こんなに大声を上げるのは久しぶりだな。何だか最近、俺の影が薄いからな。この辺で気合いを入れて目立っておこう。
二刀流のクームが相手だ。相手は手数で攻めてくるだろうか。どっちでもいいぜ! 俺は捕まえてからの締め技、投げ技に発展してやる。
「うらうらうらうらうらうらでござる!!!」
「ほりゃほりゃほりゃほりゃほりゃ!!」
俺は突きを繰り出す。クームは二刀を上手く使い、攻撃を全て切り払う。なぬっ! 切られている! くっそ!俺の魔力防護を抜いてきやがる。かなり鋭い剣線を放つようになったじゃないか!
これも、正気を失ったことで手に入れた力って奴なのかな? 以前のクームと比べ物にならないじゃないか。……そうじゃないな、クームの事だから努力したのだろうなぁ、皆頑張っているな、俺も負けていられない。
まあ、斬られた傍から回復して行くので、見た目にはノーダメージだ。
「くっ! これだけ手応えがあるでござるのに! 斬れていない!?」
ちゃんと斬れているよ! 糞う、糞う、技術力で完全に負けているよ! ふむ、俺は一撃に重きを置くタイプの戦闘方法だからな。対人戦、特に速さ特化とは相性が悪いか。
うーん、素手で戦っているのに速さと技術を重視していないって大丈夫かな。変な戦い方になってないかな。誰かに素手の指南を付けてもらいたい。いや、ミズーリの学校では素手の教師はいなかったのよ。
はぁ。異次元鞄からカニの爪を出そうかな? ダメか、クームを叩き潰すか、叩き斬ることになってしまう。
いや、速さは無くとも、技術は無くとも、勝ち筋はある。今は動き続けよう。
クームと戯れ続ける。クームは速いし上手いが、一撃が無いな。そんなんじゃ俺を殺すことなんてできないぞ、ウィーメーン!
「はぁ、はぁ、どれだけ動き続けるでござるか……。このタロウ殿は化け物でござるか!? あ、偽物でござった」
いや、本物ですよ。クームの中で俺はどうなっているのだろうか。気になるなぁ~、最近ゴリラと言われて傷ついているのだ。
「はっはっはぁ! どうしたどうしたぁ~、疲れてきたのではないかい!? 動きが鈍くなってきているよ」
単純に体力切れを狙っていたのだ。あれだけ高速戦闘をし続けたのだ、体力が切れてもおかしくないだろう。俺が誰よりも自信があるもの、それはスタミナだ。体力勝負なら人が相手なら負ける気がしない。アンデッドが相手だろうと、相手が風化するまで煽り続けられる自信がある。
「遅くなってきたな。ほいほいほいほいほいほいほいほぉーい!!」
「ぐっ、くっ! 痛っ、速くなってきているでござるか。いや、拙者が遅くなっているでござる……」
あははは、このまま痛めつけ続けてあげるよ。ボロ雑巾の様になるがよい。マツオさんも大ケガをしたら正気に戻った様なことを言っていたからな。
ナクアさんには悪いけど、傷だらけにさせてもらおう。もちろん、内臓へと、体の内部へと衝撃を伝えるように殴ってやろう。全身鬱血してしまうが良いわ!
「ぐぅ、このままでは、タロウ殿が、ナクアが、皆が。拙者の助けを待っているでござるよ……。負けるわけにはいかないでござる!!」
「おめぇーの助けなんて待ってねぇから!」
ぶわははは! ……なんだろう、俺が悪役な気がして来た。なんでかな、俺間違ってないよね? 大丈夫? 猫耳の少女を嬲っているけど、映像的に問題ない?
「このっ!くぅ、……かくなる上は、秘儀! 微塵隠れでござる!!」
ドッパァーーーーン!!
なっ、クームが爆発した!? 煙が晴れるとそこにはクームの姿が無かった。あ、登り口に向かっている、逃げられた!! 願いを叶える気だな!
「せい!」
簡単に千切れ飛びやがるが、粘液が付着してウザったい。くそ、ぐちゃぐちゃしやがって気持ち悪いんだよ。何だこいつら!? 手応えが全然ないぞ!
あのちっさいおっさんは、あの液体人に体を埋めて笑ってやがる。気持ち悪ぅ! おっさんにはどんな光景に見えているんだよ!
「キース! 気をつけるのじゃ!ただのゴーレムではないのじゃ、これは興味深いのぅ」
「ふむ、弾き飛ばしても、消し炭にしても、すぐに復帰してくるとはやっかいなことだ」
解説役二人は楽しそうにしてんじゃねぇよ! なんか良い方法はないのかよ。
「……影縄で動きを封じて見ても、封じられた者達が融けて消え、別の場所に生まれてくるで候」
「つまんなぁーい。殴り応えがあるような、ないような、全然わかんないよ~。これ気持ち悪い!現実に存在するものじゃないみたい~」
「ナクアさんが言う様に、ただの魔物ではないです。いえ、魔物と言っていいのでしょうか?どちらかと言うと魔術に近いのでは」
「あーもう。めんどくさいったらありゃしないよ~。タローは楽しそうだなぁ~」
人数は俺達の五倍以上いるが、一体一体が大したことがないくせに、数が減りやがらねえ。
「がっははは!! 俺様の無敵の喜び軍団の力を思い知ったか。ははは、そのまま死んじまいなぁー」
ちっこいおっさんは、液体人どもをはべらして高みの見物をしてやがる。
俺達は手立てが思いつかず、こう着状態がしばらく続いている。
「きゃぁ、であります!」
うん、アテナの奴が手を抑えてやがる。骨折が再発したのか?いや、違うな、服の一部に焦げたような、溶けたような跡ができてやがる。
「気をつけて、相手に溶かす力があるのかも」
委員長がアテナを後ろへ下げ、交代で前へ出てきた。
「うーん、それはどうだかな~。溶けたというよりも、喰われた、同化された、というのに近い印象を受けたよ~。あはは、ああ~、不思議だなぁ~、殺したい殺したい殺したいよぉ~」
ナクアの考えが正解な気がする。あれでも優秀な魔術師だからな。
何度も散らしているがその度に現れる、その部品をどこから補給しているのか考えると打開策が見いだせないだろうか?
「ふむ、これはあれだな。肉を吸収して再生しているようだな。焼いても補充されるのは、どこからか持ってきている証拠だろうな」
「そうじゃのう。人が原料なんじゃから、死肉があれば体を組み直せるのじゃろうな~」
なるほど、先生方、ありがとう! まわりは全て肉壁だよ! 丁寧に床も全て肉で出来てるぞ! 絶対に殺しきれないじゃねぇか。
「ごめんごめん、クームは先に行っちゃったよ。まさか、あそこで逃げるとは考えていなかったよ。失敗しちゃった、許してヒヤシンス~」
モズタローがこちらに合流してきた。うざい。どうやらクームを逃がしてしまったようだ。爪の甘い男だぜ。それなら、こっちをどうにかしてくれや。こっちもこっちで、厄介な状況なんだよ。
俺が合流すると、敵の数は減っていなかった。どうやら、こっちはこっちで面倒な相手の様だな。
「モズタロー、この場では奴を倒す術がないのじゃ。どうしたもんかのぅ~」
グウェンちゃんから説明を受けた。
ふむ、肉を吸収して再生ね。この場に限れば無限に再生するようなものだな。
「ふむ、どうやら彼は半分ほど、贄として取り込まれているようだな。どのような状況でこの世界に入ってきたかは知らないが、招き手によって導かれた分けではないのか」
招き手? 俺達を掴んで引きずり込んだやつかな。リンさん、彼らはこの場所ができる時に飛空挺で突っ込んでいった連中ですよ。
「なるほどね。ほとんど贄だったのか。それでも、この世界への適正が高かったのだろうな。それであんな風に、贄を自らの力として使用することができているのだろう。まあ、自我を切り崩す自殺の様な方法だろうがね」
あれま、贄に半分足を突っ込んでいるなんて可哀そうだと思ったけど、それで力を得ているのなら仕方ないか。代償と言う奴だな。
よし、ぶっ飛ばそう。洞窟の壁ごとぶっ飛ばそう。
「クー! 今こそ、お前の力を見せてやれ!」
「タロー、わかった! 魔力譲渡をお願いね!! よ~し、ぶっぱなすぞぉ~」
『魔力譲渡』全力前回! クーにフルチャージだ!! クーの背中に手を当てて、俺の魔力を流し込む。こんなに流し込んで大丈夫なのだろうか。
「なになになにするの~、うわぁ~、すごい魔力だよ!!モズタローくんの魔力量はすごすぎぃ~」
「これほどの魔力を!! 本当にゴリラではないのですか!? 人が保持して良い量、そして質なのですか?」
「ひょええ、魔力嵐が吹き荒れているでありますよ!」
「これは、凄まじい……。全員、伏せろ! 吹き飛ばされるぞ!」
クーさん、今日の魔術は何ですか?
「むふ~、クーが使うのは魔術じゃないんだけどね~。よっし、今日の必殺技は破壊光線でどうかな~」
ほう、使ったら次のターンは動けなくなりそうな技だな。
「ぬぬぬぬぅ、喜び軍団よ! 俺様を守るのだ!!」
うわぁ、喜び軍団という名の液体人がダフダールブに纏わりついて赤黒い塊になった。
「だめだめ、そんなヌルイ壁なんかじゃ、止められるわけないじゃない!! 吹き飛びなさい!!」
クーの突きだした掌から、凄まじい衝撃を伴いながら白色の光線が放たれた。
その瞬間に音は消えた。あまりの衝撃に、クーの背中を抑えて魔力譲渡している俺まで吹き飛ばされそうだ。
周囲の空気を巻き込み、地面を捲き上げながら一直線に飛ぶ光線が、ダフダールブとその喜び軍団に直撃する!
カボォォォォォォーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!
おう、光が見える。肉壁を突き破り、山を吹き飛ばし、外まで繋がったようだな。
「ふう、吹き飛ばす事を意識して力を入れたから、こんな感じかな~。ふふっ、海まで飛んじゃったんじゃない?」
クーさん、すごーい。
これでダフダールブが戻ってくるまで、ある程度の猶予ができたな。
「……倒せないのならば、どこかに吹き飛ばしてしまうのが正解なのじゃ。どれ、わたし達もクームを追って先に進むのじゃ」
少しだけ不機嫌なグウェンちゃん。魔術は得意分野だから、クーに嫉妬しているのかな。
「クーさんは、すごいのですね。はぁ、自信を無くしてしまいます。全然お手伝いできませんでした」
あ、シュリさんいたの?
「シュリ様は、大人しくしていただいた方が、私の精神衛生上に良いであります。しかし、これほどの力を持っているとは、恐れ入ったであります」
俺に飛びかかろうとするシュリさんを抑えながら、そうアテナさんが言う。
「……これほどの力を持った少女に命を狙われるのは勘弁で候」
「うへぇ、知ってはいたが魔術ってのは怖えぇなぁ~」
「そうね、私は羨ましいけれどね」
何だかんだ言って、委員長は力を求めている。その欲求が変な方向に行かないといいのだけれど。
「それよりも、クームを追おうよ~。クームが願いを叶えて、ロストアヴァロン帝国人を虐殺して、罪悪感に苦しむ姿を見てもいいけどね! あぁ、ぞくぞくしちゃうよ!!」
さっさと、先に進みましょう。ナクアさんが親友の悲しむ姿で興奮する様な、ド畜生になってしまう前に急ごうね。手遅れかな?
次回、中間地点で待つ者は? 手招きするものとは何だろう? 猫だとうれしいね。




