第六十八話 アストロンの有用性がわからない人は多い
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うおおおおお!!!! 願いを! 願いを叶えるんだ!! 酒池肉林、酒池肉林、酒池肉林でお願いします! どうだ! どうだ!? さちこでどうだぁ!!!
俺達は今、爆進している。瓦礫の森を抜け、奇妙なオブジェが立ち並ぶ場所を越え、しゃれこうべが積み上げられた塔を横切り、リンさんのお宅までやってきた。
リンさんのお宅はレンガ造りの家だったが、よく見るとレンガじゃないな。あ、これ生肉だわ。この家、生肉ハウスだ! 強度とか大丈夫なの!? 生々しい色をしているけど鮮度はどうなっているの? イミテーションなの? イミテーションゴールド生肉なの?
俺が愕然としていると、庭にマツオさん達を発見したとグウェンちゃんが教えてくれた。急いで行くと、そこには、血に塗れたマツオさん達がいた。
「リンかぁ、帰って来たのかい。おぅ、モズタローじゃぁねぇかい。ようやく来なさったってわけかい。おせぇじゃねぇか、いじめられちまっただろう」
出血を伴うケガをしているが、マツオさんは命に別状はなさそうだ。他の数人の男達は生きている者もいれば、死んでいる者もいる。この傷跡は銃創か?クームの姿は無い、すでに山へ行ってしまったのだろうか。
「なぁんかなぁ、猫耳の嬢ちゃんがえらく焦燥した様子でぇよぉ、山ぁ登るっていって聞かなくてなぁ。おれぁ止めたんだが、ひとりで登って行っちまったぁよぉ。そん後でぇなぁ、ちっこいおっさんが率いた連中がぁ、やってきくさってよぉ。いきなりチャカぶっぱなしてきやがって、このざまぁよ」
マツオさん達はダフダールブ一行にやられたのか。あいつら、もう許さないぞ~。
「そうか、彼も山に入ったのか。自分の国とやらにやたら固執している男だったからな。この世界に自らの王国を築いて、王様気分で楽しんでいたみたいだったからね。くくっ、彼ほど楽園を望む影響が強く出た者がでるとはね。どれだけの鬱憤を胸に秘めていたのだか」
そう、リンさんが皮肉気に語った。あのおっさんは権力欲とか支配欲とか自己顕示欲などの塊だったのか。ダフダールブの築く王国とかも見てみたいかな~、いや、別に見たくないか。臭そうだし、いや、臭い。
「ダフダールブは帝国の臣民として、忠義を尽くしてくれた方であったはずですのに。そのような望みを胸に秘めていたのですか。いえ、自己顕示欲の強い方ではありましたが……」
シュリさんが悲しげな口調でそう教えてくれた。
俺達も大なり小なり影響下にあったのだから、彼の行動を一方的に批判することは出来ないのかも知れないな。元はと言えば、俺が飛空挺を撃墜したために起こったことと言えから、罪悪感を覚えてしまう。
「モズタロー様。……モズタロー様が気に病むことはありません。ダフダールブは遅かれ早かれ自らの野望のために、他者を傷つけていたのでしょう。それがたまたま、この時に起きただけです」
……うん。シュリさん、ありがとう。
「でも、飛空挺を撃墜した事は反省してください! 私達が乗っている事を確認したのでしたら、火を放つのは止めてくださってもよかったでしょうに~」
ジト目で恨みがましく俺を見つめてくる彼女は、とてもかわいかった。うふふ、もっと、いじめたくなってくるじゃないの。おっさん、興奮してきちゃった。
「モズタローよぅ、山へ行くんなら気ぃつけな。おれぁ、さっきまで夢心地だったのがぁわかったがよぉ。あれだ、山だけは自然と近づかなかったんだぁ、あそこはなんかあんぞ」
わかっていますよ。でも、クームが行っているなら追いつかなければいけないな。これ以上の人命が失われるのは止めたいものだ。例え見知らぬ人達であったとしてもね。
「そんとなぁ、あのちっこいおっさんの部下はなんかおかしかったぁそ。どう、おかしいぃってのはぁ言いずれぇんだが、ありゃぁ人形みてぇだった」
ダフダールブに俺達の知らない何かがあったのだろうか。いや、部下達に何かあったのか? マツオさんの話では五十人ほどの集団だったらしい。注意することにしよう。
リンさんは何か知らない?
「さて、な。仮説は思いつくが、言うと余計な混乱を招きそうだからやめておくよ」
あらそうですか。まあ、実際会って確かめて見るとしよう。今は急いで霊峰ングラネェークへ行くとしよう。祭りに遅刻するのはダメだからね。
俺達はマツオさん達をその場に残して、リンさんが示した洞窟へと向かうことにした。山の裾野までやってきたが、これは酷い。人間や魔物が折り重なり、混ざり合って供物を構成しているようだ。亡者の手足が、俺達を引きずり込もうと手招きをしている。
顔や手が生える壁の洞窟をおっかなびっくり通る。
「あははは~、この! このぉ! あはは、苦悶に歪む表情だサイコーだよ~、ちょーエキサイティンだよ~」
ナクアさんはメイスで殴りながら歩いている。良い汗かいているようで何よりだ。
「うわぁ、これは気持ち悪いのであります。この肉壁は地獄絵図でありますよ」
そうかな? なんか人間とか魔物で出来ているから、そこまでおぞましくはないと思うのだけれど。
「モズタロー、それはク・リトゥ・リトゥと比べてじゃろうが」
あ、そっか。あそこの名状し難いおぞましさと比べるのが間違っていたか。
人の感性を越えた芸術ほど気持ち悪いものは無いな。そう考えると、現実に存在するものを組み合わせて作られている分、こちらの方が心に優しいのだろうか。なんだか、おかしなことを言っている気がして来たな、深く考えるのは止めよう。
「……この顔、見覚えがあるわ。……外周街の人ね。ごめんなさい、助けられなくて」
委員長は大丈夫だろうか。心根の優しい彼女はたくさん傷ついているだろうな。ふむ、行け! 三羽とも! 委員長を慰めるのだ!!
「チュ!」「チチュ!!」「ヴヴヴ!!!」
号令一つで、即モフプレイだ。
「わあっふぉ! 口に、鼻に綿毛が!! おぅふ、息が! 息がぁ!! このこのアホスズメが!! 離れなさい!!」
うんうん、元気が出たようだな。
「ああもう、後で覚えておきなさいよ! アホ一号!!」
余分三兄弟からは抜け出せたようだが、こんどはアホになってしまった。
「……この道を行けばどうなるものかで候」
「なに、単純な一本道さ。何の障害もないよ、中間地点までは、ね」
不吉な事を言っているな。中間地点には何があるっていうのかな。お決まりの試練とかそんな物騒な物があるのだろうか。
そうしていると、戦闘音が聞こえてくる。俺達は道を急いだ、大きく曲がりくねる道を抜けると広間へと出た。ここが中間地点、という分けでは無い様だな。
「さっさと、死ぬでござるよ!!」
「がっはっは! ガキのくせにやるじゃねぇか! お前ら! しっかり狙って殺せ!」
どうやらダフダールブとクームが争っているようだ。
「クーム!!」
俺は叫んでいた。久しぶりに見た彼女は、ドロドロに薄汚れていた。原因はすぐに分かった。彼女が戦っている相手が人間などではなく不定形の人型をした流動体のような魔物だったからだ。それに触れることで汚れたのだろう。
「ああん!? おうおう、姫様達も来やがったのかい。いいねぇ、俺様の軍団の戦果になってくれや」
そういって語りかけるダフダールブは以前見た時の様な軍人然とした姿ではなかった。獣の様な剥き出しの殺意を、ヘドロの様に汚れた姿。とても王様をしていたとは思えない。
「おう、俺様の愛しい愛しい部下達を見て驚いてんのかい? 俺様が望んだら望んだだけ現れやがったぜえ!! ただ前の部下達は皆いなくなっちまったがよ。綺麗だろうぅ? これほどの美女軍団だ。見惚れるのも無理はねえよ。だぁがぁー!! この美女も! この島も! 全部! ぜぇーーーんぶぅ!! 俺様のものだぜぇ!!! てめえらもまとめて死んじまいなぁ!!!」
・・・あいつにはこの不定形の存在が美女に見えているらしい。その目は完全に正気を失ってやがる。一体何が奴の身に合ったと言うのだろうか。
「タロウ殿!! それに皆も!? どうしてここにいるでござるか!! さては、これも幻術でござるな!? くそぉ、拙者の大事な物に扮して現れるとは!! 全て殺す!!!」
あーもう、クームはクームで正気ではないみたいだな。どうなっているの、誰か説明してよ。
「ふむ、クーム君は本物の君達はこの世界に囚われていて、この世界が存続しなければ消え去ると思い込んでいるのだったかな」
リンさんが教えてくれた。便利な人だな。あ、解説係を取られたグウェンちゃんが若干不満そうだ。しかし、クームの症状は何だ?想像力が豊かな娘さんだなぁ。本物の俺達を見て偽物と断じるあたりいっちゃてるね。まあ、思い込みが強いところがあったか。
ところで、あっちのおっさんはどうなっているの?
「うーむ、あの魔物は彼の強過ぎる意思によって生み出された存在ではないかな? ゴーレムみたいな物と考えてよいかも知れないな」
「どうじゃろうか、あれは造形系の魔物と言うより、不死系の魔物の気配がするのじゃ。生まれに原因があるのじゃろうかな。原料は、消えた部下達と見るのじゃ」
「……人間素材のゴーレムと言ったところで候、また気色悪いものを」
「うえぇ、あんなもんの素材になるのは勘弁だぜ」
「タロー、あいつそんなに強くなかったんだよね? 願いで力を手に入れたのかな?」
ふーむ、どうだろうか。願いの力で叶ったのならば、こんなもので済まないのではないかな?
「彼には魔術の才があったのだったな。それの関係かも知れないね。正気を失う事によって、力に目覚めたと言ったところかな。このダンジョンの影響、願いの力との関係かはわからないが、彼の力が劇的に増しているようだな」
いや、正気を失うだけで強くなれるなんて、そんなことあるの?そんな楽に強くなっていいの?
「さて、ね。ワタシは体験者だからな。そんなこともあるとしか言いようがないな」
そう言えば、この人も正気を失って、この島を作り出す様な研究を完成させたのだったな。正気を失うってすごいなぁ~。最初から正気じゃない人は損している気がする今日この頃。
「チューン!」「ヂュヂューン!」「チカラニノマレタオロカモノ!」
「ダフダールブ……」
「ダフダールブ戦技官は悪人ではなかったでありますよ……。この空間で欲望を増大させられた結果でありますか……」
「あははははっははははははっは、わからず屋のクームも、あの気色悪い小さなおっさんもみーーーーーんな潰したらいいんだね!! わっかるよ~~!!!」
わかってないよ~! ナクアさんのテンションが振り切れちゃった。クームは潰さないでね、気絶で済ませてね。まあ、この状況だから、九割九分殺しでもいいか。覚悟しろよ~、久しぶりに会ったからって、遠慮しないぜ!
登山で言うならば、三合目くらいで俺達の死闘は始まろうとしていた。なんだよ! 頂上で決戦とかじゃないのかよ!中途半端な高さだよ! まだ、それほど山登ってないよ!! それに山なのに洞窟進行とか、ふざけんな!
次回、俺達の最大の武器、それは数の暴力!




