幕間3 タカ&エリーの楽園天国
幕間3.
「どうであろうか。モシャモシャ、そちらの男の具合は良くなっていると思うが、ベェェェーー」
そうヤギ頭で人の上半身を持ち、下半身は四本足の悪魔が私に問いかけてくるです。甚平の様なものを羽織っていますが、正直似合っていませんです。この魔物である方が、病に倒れたタカさんを治療してくださり、私を滞在させてくれましたです。
私は今、不思議な異国情緒の装飾された屋敷に滞在しているです。どうしてこうなったのですか。それは、マッドスキッパーへ魔物の進攻があるとナクアさんから連絡が来てすぐのことです。
「くっ、すまん。エリー……」
タカさんが倒れたです。とても高い熱がありました。ずっと、本調子ではないと思っていたですが、ここまで悪化しているとは思わなかったです。意識も朦朧としていて、うわ言で謝罪を繰り返していましたです。
少しでも精の付く物を食べてもらわなければ、タカさんが死んでしまったら、私は、です。そうして、森を駆けずり回り、食材を確保して戻って来た時のことです。
私達の住居であった洞窟を覗きこむようにしている三人の少女達がいました。不思議な事にその少女達は同じ給仕服のようなものを着ていて、顔もまったく同じ作りをしていましたです。
「お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんだ!」
「うんうん、お兄ちゃんが大変!」
そんなことを言っていましたです。タカさんに妹はいないですから、彼女達がタカさんの妹ではないはずです。
そんなことを考えていると、洞窟の中から四人の少女に担ぎあげられたタカさんが出てきました。同じ少女が七人に増えたのです。
「あなた達は何者ですか! 動くな、です! タカさんをどうするつもりです!」
そう声をかけると全員が同時に私を見つめてきたです。
「あなたお兄ちゃん?」
「お兄ちゃんの何!?」
「お兄ちゃんお兄ちゃん♪」
「お兄ちゃ~ん」
「お兄ちゃん?」
「えへへ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、Getだよ~」
怖かったです。同じ顔、同じ服装をした少女達が狂気に染まった瞳で、お兄ちゃんと囀り続けていましたです。
「「「「「「「それじゃあ、ばいば~い」」」」」」
私が呆けている隙を突き、少女達は駆け足で去って行きましたです。私は急いで、タカさんを連れた少女たちを追いかけたのです。
追いかけて行った先は、巨大なブロッコリーが空を覆う空間でしたです、そこはモズタローさんが破壊しつくした地でした。そこには多数の魔物が出現したと話を聞いていたです。しかし、私が見た時の更地ではなく、街が出来あがっていましたです。
そこは濃厚な塩の香り漂う、様々な建築様式が入り混じっていたですが、全てに覚えが無い不思議な空間でしたです。
「おんやぁ~、お客さんだべ~、どしたべぇ。そぎゃん汗かいてよぉ」
私に、門番と思われる巨大なキュクロプスが語りかけてきました。何も考えずにここまで来たのですが、この相手に勝てるとは思えませんでしたです。そして、魔物が人語を用いていることにも驚きを隠せませんでした。
捨て鉢になり、ここまで来た理由を説明しましたです。
「あん妹どもが、人を連れてきただが、お前さんの仲間だったとなぁ~。えらく体調が悪そうだったんだなぁ。今は長が診てるだべよ~。そんなら入りいなぁ~、ようこそなんだなぁ~、ここはヘブ……でなくて、シャンデリラぁだもなぁ。ちょっとまってなぁ~、おい~誰か案内してくんろぉ~」
訛りは酷かったですが、とても紳士的に対応してくれたです。人でもここまで丁寧に接してくれるのは稀でしょうです。外見からは考えられないほどの優しさと誠実さを感じ取ってしまったです。
「キャベツ! エキキャベッ! ワキキャベ~」
そう言って、手足が生えたキャベツが出てきました。
「キャベッジかぁ~、こん娘さんを長んとこへ連れてってけろ~」
「ロール!!」
そう言って、キャベツが手を差し出してきました。えっと、手を引いて連れて行ってくれるようです。いや、キャベツですからいくら足が合っても相当小さいのです。私は中腰になりながら案内されたのです。
空には不気味な玉が浮かび、その周辺をニンジンが飛びまわる。水場と思われる場所には黒い髪の毛の様な物が溢れるほど満ちていました。そこには見た事もない様な魔物が大量に生息していました。
魔物達はまるで人の様に店を構え、狩りや農耕も行っているようでしたです。それはマッドスキッパーで見た物と比べても、非常に先進的で発展しているように思えました。私は、もう理解を放棄したです。
ゴブリンが建築現場でせわしなく働いている横を抜け、件の長の家へと案内されたです。長の家は立派な生垣を持つ、木造二階建ての美しい建物でしたです。
「あ、キャベッジお兄ちゃん~、いらっしゃいませ。え、あの新しいお兄ちゃんのお連れさんなの? もう、新人の子達が連れ帰ってきたと思えば、誘拐だったなんて、すいませんでした。あの子達はまだ慣れていないの、許していただけると助かるのですが」
そう言って、長の家の玄関に出てきたのは、タカさんを誘拐した少女と同じ少女でしたです。しかし、あの少女達に比べると理性と知性を感じさせる柔らかな物腰をしていましたです。
その少女へ、私はタカさんのことを聞いたです。
「あのお兄ちゃんですか? 海毒にやられていたようでしたので、勝手ながら治療をさせていただいています」
どうやら、この家でタカさんの治療をしてくださっていると言うです。合わせてくれると言うので、お邪魔させていただくことにしたです。
「それでは、長お兄ちゃんも呼んできますね。タカお兄ちゃんがいる部屋にいますから。あ、キャベッジさんは仕事があるんですか? そうですか、ありがとうございました」
そう言ってキャベツさんは手を振って帰って行ったです。とても温かいキャベツでしたです。いえ、人情的な意味でですよ?
「ワシが長のヤギですぞ。そちらが、メェェェであるかぁ。あの男がうわ言でメェェ、メェェと言っていたのだ」
私の目の前には、ヤギ頭の悪魔がいましたです。おそろしい力を感じるです、あと、エリーです。メェェェって誰ですか!?断じて、ヤギではないと思いましたです。
「そうであったか、これは失礼した。もしゃもしゃ、メェェリー、海毒は危険な毒だ。もう少し処置が遅ければ命が無かったぞい。メェェェェ」
メリーではないです。エリーです。
そうですか、タカさんを助けていただいてありがとうございましたです。それほど危険な状態だったのですか。
「もしゃもしゃ、まあ焦るのではない。メェェェリー。今は処置中でな、あちらの部屋で処置をしておるので、見舞うとよいぞ」
その咀嚼するのを止めろ! いえ、相手はヤギです。ヤギは咀嚼するものなのです。本物を見た事はありませんが、お話の中ではそうだったはずです。ヤギを名乗るのをやめてもらいたいです。子どもの夢がぶっ壊れるですよ。
私はタカさんがいるという部屋の扉を開いたです。
そこには全身に黄金色の粘液を塗りたくり、ぬらぬらと光りながら恍惚の表情を浮かべている全裸のタカさんがいたです。
「タカさん……粘液プレイ中でしたですか、その、終わったら呼んでほしいです」
こちらに気づくと、ギョッとしたようです。アヘ顔で。
「違うんだエリー!! これは、このゴールデンボールのスラさんが、俺の体に侵入して毒素を中和してくれているんだ! そう言う治療なんだよ!? 決して快楽に屈して何かいないぞ!!」
そうですか、そのアヘ顔を引っ込めてから出直してきてくださいです。
私は扉を閉めたです。
「違うんだぁ~~~!! あはぁん♪」
そんなくっそ汚い音がして来たです。さっさと、長のヤギさんの下へと戻ったのです。
「完治には一月程度は時間がかかるメェェェー、その間、家に逗留すると良いんだメェ~」
長さんは先ほどよりも、ヤギっぽさを押し出したしゃべり方をしてきたです。正直、うざいからやめてほしいです。
「その、私は返せるものが何もないですよ、そこまでしていただく分けには……」
「なになに、これも何かの縁ですメェ。気にせずゆっくりしてほしいメェ。なんなら、その間に、この街で働くと言うのどうかメェ?」
少しの間悩んだ結果、私はその申し出をうけることにしたです。私達を食べるつもりであれば、わざわざ治療したりなどしないです。それに、この街の魔物達はなぜか信じても良い気がしたのです。
長の家に住み込みで働く、キキョウさんには街を案内してもらったです。彼女は『妹』という種族の魔物であるらしいです。妹は魔物だった……?
キキョウさんは、この街を『シャングリ・ラ』と呼ぶそうですが、皆自分が呼びたいように呼んでいるそうです。ヤギさんは桃源郷と、キャベッジさんはキャベツ畑、キュクロプスのロブさんはヘブンと呼ぶなど様々な呼び方をしているそうです。
なんでも、妹である彼女達はお兄ちゃんを支えることが人生の目標であるらしいです。よくわからない種族ですが、魔物の生態に詳しくない私としては、そうなのですか、と思うしかなかったです。
これほど、人に酷似した魔物がいるとは考えた事もなかったですが、クーさんの話を聞いていたので驚きは少なく済んだのです。
妹は街中に存在していましたが、しばらく住んでいるうちになんとなく見分けがつくようになって来たです。同じ顔、同じ服を着ていても、動きや癖などが微妙に違うのです。特にキキョウさんは他の妹達からも慕われているようでした。
この街でのモズクと呼ばれる野菜が良く食べられています。シャキシャキとしている触感が楽しい植物です。街の中央にある泉からは無限にこのモズクが湧きでてくるそうです。なんでも、モズクを出す壺がその場所にはあったそうです。
このモズクはそのまま食べることもできますが、油で揚げるや乾燥させるなど様々な調理法があったです。保存食としてのビン詰めもありました。畳という床材からカーテンや日除けまで何でも作れて、モズクは素晴らしい材料だと思いましたです。ただ磯臭いのが難点です。
街の広場の上空には『妹塊』と言う物体が浮かんでいました。なんでも徐々に成長し、ある程度大きくなると妹を吐きだすそうです。
妹は全て、あの妹が絡み付き巨大な球体となっている存在から生まれたそうです。恐ろしい……です。彼女達は須らく妹であるそうです。時々、毛色が違う妹も生まれるのだとか。おぞましい……です。
その広場を抜けた先には世界樹の如きブロッコリーが聳え立っていますです。そのブロッコリーの内部はダンジョンと化しているらしく、この街に使われている建材はそこから持ってきているそうです。あと、食べても食べてもブロッコリーは生えてくるそうです。モズクと並んで、この街の主食の一端を成しています。
娯楽もあります。街の広場には土が盛られて土台が作られています。その上には立派な屋根があり、土には円形に縄が敷かれています。
オークやオーガ、門番キュクロプスのロブさんなどが、褌を何重にも巻いた装いをして、肉体をぶつけ合います。なんでも、スモウという神事らしく、神に祈りと闘いを奉げるものだそうです。恐ろしいまでの迫力があり、縄の外に出るか、足以外の部分が地に着くと負けになると言う単純なルールですが、非常に奥が深いものでした。
長のヤギさんが参加していた時は、同じく悪魔である魔物の方と闘っていました。その時は空中戦を行っていました。何でも、スモウの華は空中戦にあるそうです。両者とも空を縦横無尽に駆け回っていましたが、この土俵と呼ばれる場所は必要なのでしょうか?
街の衆も夕方になると行われるスモウを楽しみにしているようで、夕涼みがてらにスモウ観戦するのがこの街での嗜みのようです。
何もしないと言うのも悪いので、長のヤギさんに仕事を紹介してもらう事にしたです。
土魔術師であった私は、ゴブリン達と建築作業を行う事になったです。建築の仕事は経験が無い分けではないですが、この街の建物を見ると自信が無くなってしまうです。それほど高度で異質な建築物で溢れています。
親方は黒いゴブリンで、額の花丸模様が特徴的なゴブリンでしたです。名前もオヤカタと言うのです。
他のゴブリンを指揮している時はしっかり親方をしているのですが、よくひとりで泣いているのを見たです。作業員のゴブリン達曰く、親方は泣き虫、なのだそうです。このゴブリン達も平然と人の言葉を扱っていたです。基礎工事に多くの貢献をした私の事を、姉さん、姉さんと呼んでくれましたです。ゴブリンに慕われるのは不思議な気分がしたのです。
細工や、小物などを彼らは手慰みで作っていましたです。ゴブリンの手先がこれほど器用であるなどとは思えませんです。彼らはただのゴブリンでは無いですね。おそらく、突然変異種か何かなのです。それでなくては、人にも作れない様な複雑な建造物を作り上げている事に納得が行かないのです。
建築事務所や作業場の炊事場では妹達が多数働いていて、食事の用意や洗い物などをしてくれていたです。妹は街中いたるところにいるです。何人いるかなど想像もつかないです。料理屋や農場、家畜小屋など、妹が仕事をしている場所は多種多様です。何でも、自分の主お兄ちゃんに尽くすことは最高の幸せなのだとか。
働く対価に金貨を給料としていただきました。この街では驚くことに通貨が使われていますです、貨幣の概念が魔物にもあるとは……いえ、この街の住人達が特別なのです。
通貨は複数の硬貨から構成されていました。一番大きな単位には少し不思議金貨と呼ばれる物が使われていて、なんでも生きているらしいです。手荒に使うと、空を飛んで逃げて行ってしまうのだそうです。少し不思議金貨は使われる事が大好きで、多く使う者には寄ってくるなんて迷信を教えてもらいましたです。この金貨も魔物なのですかね?
気付けば、一月の月日が流れていました。私はこの街にすっかり馴染んでしまっていましたです。
ここは、住み心地がいいです。小さな諍いや、行き違いなど有りますが、皆さん大らかな方が多く大事になることはまずありませんです、そして、暖かさと優しさに満ち溢れていますです。マッドスキッパーにいた時はこれほど安らぐことなど無かったほどです。ここまで、無辜の信頼を預けられると彼らを裏切らないようにと私もがんばってしまうのですよ。
タカさんの徐々に良くなりつつあります。ゴールデンボールスライムのスラさんという、患部に直撃! が売りのお医者様が運動の許可を出してくれたです。プルプルしていて、話さないですので、キキョウさんを通さないと言葉がわからないのが厄介なのですが、良い先生だと思うです。私は病気などしない事を固く違うのです。
タカさんとは夕方の散歩がてらに、共にスモウの観戦を行うのですが、タカさんの戦闘意欲が刺激されているようです、病み上がりなのであまりはしゃがないでくださいです。
だけど、とても楽しそうに興奮してスモウの魅力を語る姿を見ると、タカさんが本当に元気になった事がわかって、涙が出るほどうれしいです。
ああ、本当にここは楽園の様です。見た目は異様ですが、楽園とはそこに暮らす者達の素養が優れていて始めて成立するものなのですね。環境が優れている事はもちろん必要なのでしょうが、最も重要なのはお互いの友好関係なのです。
次回、欲望に目をぎらつかせた者達に戻ります。




