第四十三話 お許しください、ボ○ガ博士!
43.
「もっと燃えるがいいよ~あははははははははは!」
楽しそうな、クー。スナッフィングでもしたのかな?
「これからドゥンドゥン賊を焼こうぜ!」
にっこりしながら語るアキちゃん。白い粉でも静脈注射したの?
「クーちゃん、なかなかやるじゃない! 火魔術の先達としては負けていられないわね。見せてあげるは、本物の盗賊ファイヤーという物を!」
ガンギマリした目で、炎を振りまくカドちゃん。怖い。
どうして、どうしてこうなったの?なんで少女達が賊の皆さんを焼き殺しながら楽しんでいるの?
時間は、俺は人を殺したことがない、と三人に話したところまで遡る。
「え!? モズタローの兄貴は、人殺しの経験がねぇの!? まじかよ! 魔物は? え、ゲシュタルト崩壊? 何それ、は? 理解できなくなるまで殺したの? そ、それはやべぇな……」
「なるほどね~。モズタローさんに優しいというかは、甘い所があると思っていたけど、それが理由かもね。敵対する魔物に対しての狂気的なまでの殺戮思考に比べると、人に対してはアマアマだったもんね~。そっかそっか魔物特化だったからなのか~」
そんな反応をするアキちゃんとカドちゃん。どうやら、マッドスキッパーでは俺の様な戦闘経験者は異端なようだ。
二人の反応は、賊が多いマッドスキッパー住人としては、当たり前と言えば当たり前かも知れないな。俺が外周街でスリや強盗の命を奪わなかったが、それが甘いと言われると反論しようがない。
「タローはクーを助けちゃうくらいだもんね。クーは生まれてからタローに出会うまで、誰からも優しくしてもらえなかったもん、タローが特別だっていうのはよくわかるよ!」
なぜかクーが得意げに胸を張っている。そのポーズ気に入ったの?
「それじゃ、今日は兄貴のために、最近出没する盗賊連中の退治といきますか。ついでに、そいつらの痕跡を追ってヤサごと殲滅、まるっといただき作戦としましょうや」
まじか。数日かかるのはいいけど、ヘビーな仕事になりそうだ。というか、四人で大丈夫なの?
「所詮、賊に身を落とす様な奴らだもん。まともに働く気がない連中ばかりよ、強いわけないじゃない、強ければハンター稼業で食べて行けるわよ」
そりゃそうか。魔物という外敵がいる世界だから、俺が想像する盗賊とは違うのかもしれない。荒くれ者が街で需要がある以上、他に需要が無い人種が存在しそれが賊化しているはずだ。まあ、中には好きで賊に身を落とした連中も居るだろうから油断はできないな。
盗賊連中の主な狙いは、マッドスキッパー周辺の施設を繋ぐ荷車便らしい。街同士の行路などが存在しないから狙うのはその辺になるのか。今回は、木材便の行路で網を張ることになった。
「くくくっ、クーの炎で何もかも燃やしつくしてあげるよ~」
その顔止めなさい、はしたない。女の子がして良い顔じゃない。まるで野獣のようだ。つい最近まで野獣だったから仕方がないか。野生の少女キラー!
しかし、カドちゃんとクーで炎魔術が被ってしまったな。戦利品が焼失するから使いどころには気をつけてほしい物だ。盗賊絶対殺すマンではなく、あくまで稼ぎの対象として狙うのだ。人狩り行こうぜ!
マツオ組が管理するハンター事務所からの報酬は、盗賊に対しては格安どころかあってないようなものだ。魔石が取れる魔物と違って得る物が無い場合があるし、賞金が懸けられることなど、よっぽどの場合でしかありえない。だから、戦利品を疎かにする真似はしたくないな。人の死体? そんなもん肥料にすらなりゃしねぇんだよ! 塩分濃度が高すぎるんだよなぁ。魔物の撒餌くらいには使えるかな? 嫌だよ! アホか! もっとましなものがいくらでもあるわ!
俺達は人力車を引き、賊の来襲を待つために行路をうろうろし始めた。こんなので賊が釣れるのだろうか。人力車は帆馬車を人力で引いているだけのものだ。
めちゃくちゃ釣れた。釣れた釣れた、初めてなのに釣れちゃった! 賊の方々は、切羽詰まっている人が多いのだろうか、痩せている人が多かった。なんだか、悲しい気持になってきたけど、相手の殺意が本物だったので、油断せず戦うことにした。
「食い物っ!!」
ババアが斬りかかってくるが、剣に勢いがまるで足りない。相手の剣が当たるよりさきに、こちらの斧で頭を潰した。喰い詰め者の集まりか。
「あああああぁぁ」
見ると、周りでは炎に撒かれ容赦なく焼け焦げていく賊の人達だらけだった。特に感じることがない、俺はもうこの世界に慣れてしまったのだな。
焼死な分、血が飛び散らなくていい。生臭くないのもいい。ただ、焼肉の臭いがするのは嫌だな、人の焼ける臭いで腹が減るなど最悪な気分になる。日本の料理としての焼肉とは比べることはできないが、ただ肉の塊を焼くだけの焼肉なら人も魔物も似たようなものだな。
「おそいおそーい、燃えちゃいなさい」
「おいおい、カド!あての獲物も残しておいてくれよっ」
「もーえろよ、もえろーよ、盗賊もーえーろー」
三人ともすごいな。俺も頑張らなくては、俺のために稼ぎの悪い仕事を選んでくれたようなものだから、足を引っ張る分けにはいかない。
ほどなくして、捕縛した二人以外の賊は全滅した。特に金になりそうなものは持っていなかった。解体したところで、使える物などあるのだろうか。焼却してしまって問題なかったな。
弱かった。もう、賊狩りなんかしたくないと思うほど弱かった。ゴブリンといい勝負だった。ゴブリンを狩っていれば、食う分には困らないだろうから、ゴブリンを食う事に抵抗があるか、ゴブリンすら狩れない連中なのだろうか。
「モズタローの兄貴、こいつら、ただの怠け者だぜ。自分らの思い道理に行かないことに腹を立てて、街を捨てて、自堕落に生きることを選んだバカどもなんだよ! 兄貴が思ってるような奴らじゃねぇよ」
「そうだよ。モズタローさんが悲しむ必要はないですよ。彼らは生きているだけであたし達に迷惑をかけます。それに割り切るしかないですよ」
そっか、戦闘中は問題なかったと思っていたが、俺は悲しんでいたのか。悲しいなぁ。人が人を殺すなんて、悲しいなぁ。だが、どんな理由があるにせよ人を襲う事を選択した連中だ、慈悲は必要ない。
魔物であるクーと共に生きることができるのだから、人同士の共存などもっと簡単だろうに。いや、それは傲慢だな。魔物にも色々いて、人にも色々いるから、クーが良い子でこいつらが糞野郎だったと割り切ろう。
「タロー……。タローはクーの事、大切にしてくれてるよ」
なんだよ、このタイミングで何を言い出すの? え、何?愛の告白か何かですか?
「あはは、クーはタローとずっーーーと一緒に居るからね。タローが死ぬまで、ううん、死んでも一緒に居るから!」
なにその発言!? 怖いんですけど、死んでもとか怖いんですけど! ヤンデレ発症かな?
クーなりに元気付けてくれていると思って黙ってなでなでしておこう。
そして、俺達は盗賊の住処を攻めることにした。捕縛した二人の賊を拷問し、場所を吐かせたのだ。
その後、盗賊の残党を殲滅、住処を探索、そして冒頭の光景へと戻る。
森林の中に建築された隠れ家の様な物件を、周辺の樹木ごとファイヤーしている。ついでに、いや、これが目的かな?賊の死体もファイヤーしているのだ。
うん、キャンプに来ているみたいだ。積み重ねられた薪を燃やし、それを囲み皆と談笑する。キャンプの醍醐味だな。薪が死体でなければ完璧だったな。
俺、この世界に適応できている気がしないよ~、こえぇよ~、彼女達のことがこえぇよ~。そういえば、キーちゃんやカロちゃんも先輩方を簡単に殺そうとしていたなぁ~、やっぱり、これがデフォなのか……。
カドちゃんもアキちゃんも、周囲への警戒を怠っていないし、ちゃんと殺してから騒いでいるから俺の忠告が生きていますね。どうしてこうなった・・・どうしてこうなったのだ、いや、心強いけどさ。
同じ日本人だったマツオさんなら、俺の気持ちに共感してもらえるかな、……ダメだわ、極道だったわ、慣れ親しんだ感覚とか言われそうだ。あぁーもうやだー! 人肉を食べる習慣がないことだけが救いだわ。助かった~、すっごい助かった~、おっさん元気元気~。はぁ。
クーはともかく、二人は儲けが少なかった腹いせにはしゃいでいるのだと信じたい。信じさせて、お願い、じゃないとおっさんね、女の子苦手になっちゃうよ。
外周街に戻り、僅かばかりの拾得物を売却した。スズメの涙ほどの金額だったが、四人で打ち上げを行う事になった。南区の俺達が住む長屋の近くにある小料理屋へやってきた。まあ、一品料理と串焼きが売りの居酒屋みたいなものだ。
「おつかれー♪ それじゃ、かんぱーい!」
「おう、飲むぜ飲むぜ~」
「クーは食べるよ! お腹ぺーこぺこだよ」
三人寄れば姦しいとはこのことだな。実に華やかな空間が広がっている。
卓に運ばれてきた料理を食べながら、ドブロクのような酒を煽る。米の生産が盛んなこともあり、米から酒を作っているようだ。日本酒のように飲めるが、アルコール度数は低めだな、加水されているのだろうか。酒はほどほどにして、食べることに集中しよう。
「う~ん、塩が薄いよ」
「塩不足たぁ聞いちゃいたけど、こんだけ薄味なのはまいっちまうよ。動いたあとは、しょっぺえもんが食いたいよな」
カドちゃんもアキちゃんも塩気の無さに文句を言っている。塩の薄い串焼きなんておいしくないよな。ついでに、煮物も焼き魚も須らく塩が足りないな。
「う~、塩田はまだ復旧しないの?」
俺もそれが気になった、このままでは外周街だけではなく都市内でも塩不足が深刻化してしまうのではないのだろうか。
「塩田は都市部の連中の管轄だからなぁ。親父もなんとかしたいとはいっちゃあいたが、難しいのかもしんねぇなぁ」
そっか、マツオさんでも手が及ばない範囲と言う事か。外周街の南部の顔役とはいえ、塩田を確保できるほどの力はないのか。それほどまでに、塩を安定供給することは難しいのだろうな。
「塩田確保のために、各ハンター組合での合同依頼が近々発行されるらしいって噂があるけど、どうなんだろう? 最近、西は力を落としているし、北は内部分裂して抗争が広がってるし、東は安定しているけど力が無いし、そう考えるとわたし達、南の担当が多くなりそうで嫌だなぁ。マツオのお養父さんの顔を潰すわけにはいかないから、不参加を決め込むわけにはいかないもん」
なるほど、外周街が合同で仕事を行う事になるかもしれないのか。都市部から金が出て、各組織が動くという形式をとるのだろう。外周街と都市部は仲が悪いかと勝手に思っていたが、そうでもないようだな。
「それなら、大きな仕事があるかもしれないね、タロー! 今日はあんまり稼げなかったから、がんばって稼ごうね!」
俺たちなら普通に魔物狩りしていたほうが稼げる気もするが、塩気が足りない外食も困ったものだ。街に貢献するために積極的に仕事を受けても良いだろう。
「西部の海岸周辺の魔物の掃討みたいな依頼だと助かるけどね。警備とか防衛とかは苦手だな。」
やったことないもの、しょうがないよね。自分の身とクーくらいならともかく、それ以上となると俺には向かないな。守るより攻めたいほうだし、警備より遊撃で役に立ててほしいものだ。
「タローは殺しが好きだもんね」
なんてことを言うのですか、クーさん。まるでおっさんが快楽殺戮者のような発言は慎んでいただきたいものですね。
「まあ、いつ依頼がでるかわかっちゃいねぇんだ。気楽に行こうぜ、兄貴が前に見つけたっていう岩塩でも取りにいけたらよかったんだけどなぁ。あてとカドは、あれで大分助かっちまったからな」
無茶をおっしゃる、もう方角すらわからないよ。山に入ると戻って来られるか不明だ。
俺が持ってきた岩塩で満足できるなんて、砂混じりの塩でも気にならないのはいいことだ。まあ、この世界の塩は精製が悪いのか砂が混じっていることが多い、おっさんも初めのころはじゃりじゃりして気になったものだ、土を平気で食べるようになってからは辛くなくなったけど。
「あてとしちゃ、北の抗争の方が心配っちゃ心配だな。もともと北は不安定だったんだが、つえぇ連中が流れてきたらしくて、バランスが崩れて抗争になっちまってるらしい。こっちに、避難民が集中すると治安が更に悪くなっちまうよ」
北区は森林地帯の裾野で、都市部から追い出され外での生活を余儀なくされた連中が最初に行く場所らしい。
北区周辺は魔物が比較的弱く、生活基盤を整え易い。そのため、新人同士の互助組織が発生しやすい、その組織がハンター組合とその上部組織との間で軋轢を生む場合が多く、その結果抗争へと発展してしまうそうだ。
現在発生している抗争も、原因はそんなところにあるらしい。カドちゃん曰く、性質の悪い新人溜りは、街に住む賊みたいなもの、だそうだ。働かず、他人に迷惑をかけながら生きるからか。世知辛いね。
そいつらは外周街の外にいる賊よりも、遥かに厄介らしい。人を隠すには人の中ということなのだろうか。
それはそうと、女子三人とお食事していると、おっさんの影が薄くない? 大丈夫かな? ボケでいられている?壁の花とかしてない? やだなー、ひとりのときは寂しいと思っていたけど、大人数になると途端に埋没してしますことに危機感を覚えるなんて、人生とは格も儘ならないものなのだな。
うむうむ、良くも悪くも忙しくなりそうだから、それらで目立たないように発散するとしよう。いや、三人みたいに、人を燃やしてウルトラハッピー☆ミ、みたいなことはしないけど。西部に出向いて魔物狩りだな、おっさんの精神衛生にもっとも良さそうだ。明日からも楽しく過ごせそうだ。
「ところで兄貴! クーとは……した?」
…………。
「アキちゃん下世話ぁ~。でも気になる! モズタローさんしたの?」
……良い具合に酒がまわってきているのね。
「同じ家に住んどきながら、もしかして手ぇだしてねぇの? へたれなの?」
……ヲコルよ。
「ちょっと! タローはへたれじゃないよ! 身持ちが固いんだもん! 絶対、クーが切り崩して見せるけど!」
…………。が、我慢するよ? おっさんは我慢が出来るからおっさんなんだもん。我慢することには慣れているのだもん。
「えー、クーちゃんだと、決定的に胸が足りなくない?」
「カドだって大したことねぇじゃん!」
「アキもカドもぺったんこだよね」
…………。握手したな。通じる物があったのだろうか。クーはどうなの? おっぱいが大きい方が優れているとか、そんな知識があるの?
「「「巨乳は無駄! 巨乳はタレる! 巨乳は死ね!!」」」
……よくないハッスルをし始めた。お金を置いて、そっと帰るとしよう。
おやすみなさい、三人とも。
俺は花を摘みに行くふりをしながら、小料理屋を脱出し家路を急いだ。家から近場で助かった。全力で走れば数十秒だ。
まあ、家でクーには会うのだけど、言い訳などお手の物だ。丸めこませたら右に出る者はいないぜ!猫だろうが、おにぎりだろうが、だんごむしだろうが、丸まらせてやるぜ!
深夜に帰ってきた、クーはべろんべろんだった。そして、攻撃的だった。逃げた事を怒られた。丸めこむどころか、話を聞いてすらもらえなかった。クーさん、酒乱だったのですね……。でも、ゲーしないのは偉いぞ。
翌朝、クーはひどい二日酔いだった。なぜ二日酔いになると、皆同じように、もう酒は飲まない、と言うのだろうか。そんなにつらいの?おっさんは二日酔いになったことがないからわからないなぁ。
次回、おっさんは働く、働く、働く




