第四十二話 好きなことをしていい、しかし、責任は取らなければならない
42.
「起きて、タロー。起きてよ~」
なんだろう、俺を優しく揺り起こす、女の子の声がする。俺の二度の人生で、そんな経験は皆無なはずだ。幻聴だな、最近溜っているのだろうか。
考えて見れば、十三歳と言えば朝から晩までエロいことしか考えていない様な年だ。しかし、殺伐として生きていたせいで、性欲を抱く危険性と性行為の無防備さを、必要以上に警戒していたのだろう。それが今、何の切欠かは知らないが、自ら制限していた迸る熱いパドスが溢れだそうとしているのだろうか……。
だんだん、気持ち良くなってきた。いかん!このままでは夢精コースに陥ってしまう!! 起きねば!!!
「あっかん!この年でそれはあかん!!」
飛び起きた。咽び泣きながら下着を洗うのはごめんだ。
「わぁっ!」
あん?なんだ幻聴がまだ続いて……は? 全裸やん! 君、なんでかしらんけど、全裸やん!!
俺の目の前には、透き通るような白い肌、緋色の眼、薄く青みがかった白い髪した少女がいた。全裸で。すっぽんぽんだ。
「クーさん助けて! 変態が家の中に居るよ!」
いつのまにか、咄嗟の時に助けを求める相手がグウェンちゃんからクーに変わっているのはご愛嬌だ。
「え! 変態がいるの!? タロー、気をつけて!」
いや、君が変態なのだけれど、落ち着け、本当は分かっているんだ。ここはファンタジーな異世界なのだ、ならば思い当たる現象があるだろう。久しぶりに有りがちなことが起こったせいで対処が遅れてしまったようだ。
「オゥ、アーユークー?」
思い当たったことを聞いてみる。
「あーもしかして気づいてなかったの? そうだよ!タロー、クーね、人の姿になれるようになったんだよ! 人の中で暮らせるようにがんばったんだから~ほめてほめて~」
そうですか、がんばったのですか、がんばっちゃったのですか、偉かったですね、よ~しよしよし。
ほうほうじっくり眺めますと、実に全裸少女ですな、クリクリとした目に、キリッとした眉毛、小柄だが長く美しい手足、生えてないし胸もない。やった! ロリ枠だぁ~。おっさんロリ枠大好き~。でも、ムチムチなお姉さんはもっと好き~。ちくせう。
とりあえず、俺の着替えを着せてから話を聞くことにしよう。さすがに股間に悪いわ!中身はおっさんだけど、体は健全な青少年だから仕方ないね。
ダボダボの服を着て、うれしそうにクーは事情を話してくれた。ダボダボな服を着ていると、ますます股間に悪くなってしまった。全裸より見えそうで見えないほうが興奮するよね? え、わからないかな?大丈夫、おっさんになれば性癖に幅が出るから、今わからなくてもそのうちわかるようになるよ。
しかし、クーさんなんか、行動が一々あざといんですよねぇ~。やっぱり、あざといさんなのかな?
「なるほど、最近、食っちゃ寝していたのは成長期だったのか」
ここ最近、クーは成長期だったそうで、そのため弱っている様に見えたらしい。
何でも成長する方向を、普通に成体化する方向ではなく、亜人へと変化を遂げる道を自ら選んだらしい。俺の魔力を受け続けたことで、その選択肢が生まれたのだそうだ。
もしかして、亜人種とは魔物から人へと変化した存在なのかな。いや、それなら家畜が須らく人化してしまうかも知れない。ここはクーが特別な存在だったと考えるべきだな。
「ふふん。これでタローの助けにもっとなれるよ!今までのクーだと思わないでね、戦うよ~、守るよ~、火を放つよ~」
胸を張って誇らしげな姿がかわいいなぁ。なんだかグウェンちゃんを思い出すな。何もかも皆懐かしい。
おう、この過激な発言はまさしく俺の教育の賜物だな! 立派になっちゃっても~、お兄ちゃん感動しちゃった。よ~し、これから毎日家を焼こうぜ!
「焼く焼く~。超焼くよ!」
あ、これ逆に俺が下手な発言できなくなった気がするね。普通に街に火を放っちゃってくれちゃったりなんかしちゃったりする子だわ。素直なんだからも~。
まあ、良識というか見極めというか、分別のつく子だから、今はテンションが上がっているだけだと思おう。ボケは俺の役目だ! 渡しはせん、渡しはせんぞ~。
「ど~お? どこからどうみても人にしか見えないでしょ? えへへ~」
確かに人にしか見えませんな。見た目だけではなく、行動や知識なども人だと思う。すごいなぁ、ここまでハイスペックトカゲだったとはさすがに予想できなかった。
「もうトカゲじゃないもん。人だもん」
そっか、人の条件を十分に満たしているよな。じゃあ、人だな。あらためて仲良くしてね。
「うむ、くるしゅーないぞー。ところで、お腹すいたからご飯食べようよ。お肉食べたい! 串焼きがいい!」
お前まさか、すやすや寝てる俺を飯のために起こしたのか? いいか、気づけば夕暮れになっているな。夕飯には丁度いいだろう。前の姿では遠慮しては入れなかったが、外食しようか。
「タロー、お店は塩が薄いから、買って帰ってきて家で食べようね」
あ、はい、そうですね。そうしましょうね。じゃ、一緒に買い物にお出かけしますか?
「うん!」
ついでに、服とか日用品を買おう。今までとは違う出費が掛かるな。気にするほどではないか、クーが人として生きていくことを選んだのだ、その選択を歓迎しよう。ぶっちゃけ、言葉で意思疎通ができるようになったのはうれしい。
し、しかし、こんな、かわいい女の子と同棲することになるの? 間違いとか起こったりしない? R18展開とかならない?
「……タ、タローがしたかったら、……そ、そのね。が、がんばる!」
……やめてくれよ。一体何をがんばるんだよ!しないよ!しないってば!
変なこと考えていないで、さっさと買い物に行こう。考えすぎると股間がバカになっちゃうかも知れないだろ!
なんだか残念そうなクーを連れて、夕闇が迫る街へと出かけた俺達であった。
「ん、まい!」
そうですか、おいしいですか。良く食べますね。本当に良く食べますね。
クーと屋台で買ってきた雑多なものを齧り付く。
ふむふむ、この串焼きは沼サメだな、肉が少々ねっちょりしているから串焼きには合わないな。湯引きするか、煮魚でいただきたいな。
こっちは謎肉の煮込みか、謎の老婆が煮込む謎肉のみの謎鍋だけど、実際おいしい。なんの肉だか本当にわからないな、こんなに長時間煮込まれているのに赤いままの肉ってなんだろう?人肉とかではないだろうけど、見当が付かないな。器持参でないと売ってもらえないのがちょっと面倒くさいが、おいしいからいいか。
「えへへ~」
食事の済んだクーが、着流しを見て微笑んでいる。クーにも着流しを購入した。クー曰く、重い防具は必要ないそうだ。同様に武器も必要ないと言っていたが、刀の様な剣を買ってあげた。ハンターとして活動するなら武器のひとつも持っていなければ格好がつかない。
剣のほうは差して興味がないみたいだが、深紅の着流しは気に入ったようだ。くるくる回って喜んでいる。あとは、サラシに股引、地下足袋といた装備だ。全て、近辺の魔物素材で作られている。
他にも夜具に生活用品と、財布にはかなりの痛手だったが、買い物中に会ったカドちゃんとアキちゃんと仕事をする約束ができたので、それでどうにか補うとしよう。
クーが二人に自己紹介した時の、二人の驚きぶりは見ていて面白かった。二人とも、そんなこともあるのか、と納得してくれたので大いに助かった。二人の明け透けなところに俺は助けられているな。
仲が良いという知り合いが、二人とマツオさんくらいしかいないのは、俺なりに警戒してのことだが、もうすこし日を置いたら街の人たちとも積極的に交流していこう。おっさんという生き物は基本的には寂しがり屋だからね。
夜も更け、明日に備えて寝ることにしよう。狭い長屋に、二組の夜具を用意して寝る。
「タロー、そっちいっていい?」
「だめです」
「一緒じゃないと寝つけない~」
「だめです」
「お願い、タロ~」
「……ぐぅ」
「寝たふりしないでよ!」
「……ぐ、ぐぅ」
「もう、勝手に行くからね!」
「あ、ちょ、まじで、すと、止めて~」
そんなことをしながら眠りについた俺達だった。
クーは寝相が悪かった。……寝ぼけて齧られた首が痛い。
おっさんじゃなかったら死んでいたかも知れない。味が気になるとか神様に祈ったのがバレていたのだろうか?報復されたの?味見されちゃったの?夜具が大量の血で汚れたのが面倒くさいなぁ。
クーからはめちゃくちゃ謝られた、大泣きされた。これからは、ひとりで寝るを練習する、と約束してくれたからケガの功名だな。
さて、ご飯を食べたらお仕事に行こうか、クー。
「うん!」
次回、女体化したクーに戸惑うおっさん。一緒にハンターとしてお仕事しています。すっごくはしゃいじゃってかわいいなぁ、娘がいたらこんな気持ちなのだろうかとほっこりしちゃいます。うん、楽しそうで何よりだよ。




