幕間2 キッスの憂鬱、仲間たちとの距離
ズクタロウが失踪した。どれだけ探しても見つからなかった。神殿を出てからの足取りはまったく不明だった。
もうすぐ四月になっちまう、オレ達は二年になっちまうぞ。どこいっちまんだよ、バカ野郎が。
ズクタロウ捜索にまったくの進展が見られずに、オレ達はギスギスしていた。
まず、カロンがまったくしゃべらなくなった。自分のせいだと思っているのだろうか。
委員長はオレ達と疎遠になった、いや、オレと、というべきだろうか。本々ナクアと仲がよかったがナクア達と疎遠気味になった影響を諸に受けた。
ナクアとクームは毎日ビラを配って探している。特にクームの焦燥具合がひどく、見ていられない。ナクアもせっかく、元気になったのにまた前に戻ってしまったようだ。
そんなある日、グウェンちゃんに話しがあると言われた。
オレ達五人は久しぶりに顔を合わせた。前は気づかなかったがグウェンちゃんの憔悴ぶりはクームの比ではなかった。やつれて、今にも死にそうだった。
「先生、話ってなんですか?」
そう聞くナクアに、グウェンちゃんはゆっくりと事情を説明した。その内容は、オレにとって許せるものではなかった。
「離せ!!!! こいつが!! こいつがズクタロウを売りやがった!!!」
オレはグウェンちゃんを殴り飛ばしていた、さらに殴ろうとしたところをカロンに羽交い絞めにされていた。
「止めるでござるよ、キース殿。グウェン先生、なぜでござるか? タロウ殿を売り渡したのは百歩譲って理由はわかるでござる。なぜ、拙者らに話をしたのでござるか?」
そうだ、それを聞かなきゃならん。グウェンちゃんは理由もなく自らの罪を伝えたりはしないだろう。
「……ズク殿が、従姉弟で候」
なんとも都合のよい話だった。自分で嵌めた生徒が自分の従姉弟だったから助けたいとか、自業自得としか思えなかった。どうしようもなくなって、俺達に助けを求めたのだろうな。
「……貴族なんて、そんなものよ」
委員長が凍える様な声を絞り出した。正直、オレはビビった。
「別に先生は悪くないですよ、まあ完全に無罪とは言い難いですけど」
委員長が突拍子もないことを言い出した。
「だって、先生がしなくても、結果は変わらなかったでしょうし、むしろ、先生が関わってくれていたおかげで、行方が知れたというものですから」
ッ! 委員長は俺よりずっと先を行っていた。そして、生きていることを信じているのだ。オレは情けなくなった。
「……すまぬ、じゃがわたしにも行方が知れぬのじゃ」
くそっ! イラつく! こんなグウェンちゃんはズクタロウだったらどう元気付けるんだ、いや、違うこいつはズクタロウを売ったんだぞ!! くそっ! ズクタロウなら……笑って許すかも知れないな。仲間を傷つけられたら激怒するが、自分が傷つくことを厭わない奴だったな。
「それなら、もっと詳しい人がいるじゃないですか」
「どういう意味かな? カタリアさん、ズクタロウくんがどこに行ったかわかるの?」
そうだ、グウェンちゃんが知らないなら行方はわからないじゃないか。
「拙者には思い至ったでござるよ、にんにん」
「……某もだ、ただ、この策は……」
「そうね、ミズーリには居られなくなるでしょうね」
三人には案があるらしい。ミズーリに居られなくなる? 何をする気なんだ?
「とりあえず、校長を締めあげるわ」
とんでもないことを言い出した。
ある程度の見通しを立てた。王族か、貴族の中でも上位の者が関わっている計画に反旗を翻すなど、テロリストもいいところだった。
「策はこんな感じね。どうする? のる? やったら間違いなく指名手配されるわねぇ」
そんなことを言う委員長はすでにやる気だ。何が彼女をそうさせるのかはわからない。彼女には彼女の事情があるのだろう。
「今日は一度解散して、明日の朝に御水寮に集まりましょう」
オレ達が悩んでいることを見越してそう言ってくれた。
オレは家族がいる。優秀な冒険者であったり、委員長みたいに立場で守られたりしていない普通の商売人の家族だ。だから……いや、家族に会いに行ってみよう。
オレは急いで懐かしの実家を訪れた。
親父が塩の小分けをしている、兄貴が伝票を書いている、懐かしい光景だ。たった一年見なかっただけで、こんな気持ちになるとは思わなかった。
オレは三人兄弟で年の離れた三男坊だった。末っ子には甘くなったのか、甘やかされて育ったと思う。だから、いや、関係ないな、俺の素質で問題を起こした。
「おう、どしたキー坊じゃねぇか」
親父が俺に気付いた。変わらないな、ぶっきら棒な口調だ、冒険者をしてりゃいいのに、お袋と所帯を持った時に、子どもを自分たちで育てるために辞めちまったらしい。そして、慣れない商売でオレ達を食わしてくれた。
そんな親父に、いや、そんな親父だからこそだな。オレは思い切って、親父に事情を話してみた。
「バカヤローが!!!」
殴られた、ズクタロウじゃないから気持ち良くなったりはしない。
「おめぇはよぉ! 考えがよ! あめぇんだよ! ダチの一人も守ろうとしねぇ奴に育てた覚えなんかねぇぞ!!」
そうは言っても、親父たちにも酷い影響があるかもしれないんだぞ!
「オレのガキどもはみんなでかくなったんだ。お前が心配するようなことはなんもねぇぞ、やばくなったら家族でさっさと逃げるからよ! てめぇのやりたいようにやりやがれ!!」
あ、あんたはバカだよ……だけど、ありがとう、親父。
その後、お袋も兄貴たちも思う存分やれと激励してくれた。家族とは眩しいくらいに良いものだった。
オレは親不孝者だけど、あいつに家族ができるなら祝福してやりてぇな。
あいつなら自分のことを嵌めた奴でも、家族だって受け入れてくれるんじゃないかな。それはわからないか、だけど、二人を再会させてやりたくなっちまった。
やろう。誰よりもオレがしたいからやろう。反逆罪がナンボのもんじゃーい!!
次の日、御水寮にみんなが集まった。
「拙者はもちろん参加するでござるよ」
「……某も、ミズーリに未練はないで候」
「わ、私は……私もやる! 今度は私の意思で選んだよ! ズクタロウくんを助けるよ」
そうか、みんな強いな。
「グウェンちゃん、あくまであいつが許すかはあいつの意思だ。あんたは許されないかもしないぞ、それでもあんたはやるのか」
「……わたしが、わたしがせねばならぬ、……お主らを巻き込んで済まない。しかし、わたしには頼れるものが、お主たちしかおらぬのじゃ……。お願いします、ズクタロウに殺されようが文句は言いません、どうか、どうか、わたしを、わたしの従姉弟を助けてください。お願いします。」
そこまでの覚悟があるなら、いいさ。あんたも一蓮托生だ。
「じゃ、みんなで校長を襲撃しましょうか!」
おーーーーー!!!!!!!
事の顛末、オレ達は気合を入れて校長室に突撃して校長に掴みかかったところ、校長はあっさり吐いた。ボス戦かと思ったのに拍子抜けだった。
なんでも、上からの指示に逆らえなくて、しょうがなく生徒を売っていたそうだ。そんな校長は、小悪党という言葉が似合う男だった。
ズクタロウは昨日、王城の地下から逃げ出して、第三層西門を、わざわざ見せつけるように堂々と、通って出て行ったそうだ。
「「「「「「な、なんじゃそりゃーーーーー!!!!!」」」」」」
件の貴族はズクタロウのことは調べるだけ調べたらしい。どうやらズクタロウの素質は、目的の物とは異なるものだったらしく、大した成果が得られなかったそうだ。
そんなこんなで興味がすっかり失われたらしく、近日中に処分する予定だったようだ。ズクタロウが復讐でも企てたりしない限り、積極的に狙うつもりはないとのことだった。
あいつはいつも通りだった。王城地下から平然と逃げ出すとか、まじでなんなの? おかしいの? あ、今や伝説の『魔法使い』だったわ、違うみたいだけど。
てか、いつでも逃げられただろ! わざわざ、待ってたんじゃねぇのか!? 追手が掛からない可能性が高くなるように考えて、行動してたんじゃねえだろうな!!!!
……オレの力が抜けていく、悲壮な覚悟をした自分がバカみたいだ。
というか、グウェンちゃんがオレ達に昨日話していなければ、今日には情報がわかっていたんじゃねえのかな。タイミングがいいのか悪いのか。ともかく無事を喜ぼう。
ついでに、オレ達も追われる事にはならなかったから、そこも喜んでおこう。
「で、どこいったのでござるか、にんにん」
クームに、にんにん、と元気が戻った。
「や、野生に帰ったとか?」
ナクアが結構酷い奴に戻った。これは戻らなくてよかったのに。
「……某らに面倒をかけぬように消えたのかで候」
水くせぇじゃねか、糞ったれめが。
「正直、見当もつかないわね、ナクアの伝心は使えないの?」
「ダメ、大体の場所が分かってないと繋がらないの」
「……おそらくじゃが、マッドスキッパーに行ったのではないじゃろうか」
西から出たということは、そうかも知れないな。カロンから話を聞いていたし、あり得る話だな。
「……街道など整備されていないで候、無事辿り着けるかは不明で候」
カロンは行ったことがあるんだったな。しかし、街道が無いのかズクタロウは辿りつけるんだか。野垂れ死にはないとして、野生化はしそうだ。
「……マッドスキッパーであれば案内できるで候」
しょうがねぇか、行くしかねぇか。
「それじゃ、行く?」
「行くでござるか?」
「行っちゃいましょうか」
「……行く行くで候」
「わたしもいくぞ! 教師など辞めじゃ!! 辞めじゃ!! やってられるか!!」
グウェンちゃんにも元気が戻った。ズクタロウも喜ぶだろう。あいつはグウェンちゃんには、だだ甘だったからな。
校長の話では無さそうだったが、ズクタロウに追手がかかる可能性もあるからな、さっさと合流することにしよう。
オレ達は、六人全員でマッドスキッパーを目指して旅に出た。
「ズクタロウ、待ってろよ! あったら一発ぶん殴ってやっからな!!」
まあ、その後のことはズクタロウと合流してから考えるとするか、さらばミズーリ!!
オレは人生で初めてとなる旅に、ワクワクしながら出立した。




