第三十四話 旅路で困るのはトイレ
34.
ミズーリを出て数日、俺はゴブリンを食っていた。久しぶりに食べるゴブリンは中々に臭かった。こんなもの人間の食いもんじゃねえ!
でも、どこにでもいる、ありがとうゴブリンくん、とりあえず土よりはましってくらいかな。
土をおかずにゴブリンが食べられるね! 一汁一菜のためにも、汁物がほしい。泥水を温められたらいいんだけどなぁ。
山岳地帯に入ったのは良いが、実際どこにマッドスキッパー王国があるのかよくわからないから、適当に進んでいる。山を越えたら何かわかるかも知れないよね?
山頂付近で岩塩を見つけた。地表に露出し岩塩ドームを造る規模だった。海とどちらが安全に塩を得られるか微妙だな。その理由はもちろん魔物だ。
山に入ってから空から魔物に引切り無しに襲われている、大型のハトみたいな魔物、その名も『ポッポ鳥』だ。攻撃自体は突っついてくるくらいで何てことはないが、数が多く、フンを落とされる。何なんだよ、なんでうんこぶっかけてくるんだよ! まあ、資料で見たら、魔物寄せを効果があるらしいから、理に適っているのだろうか。もう、体中が糞塗れだよ!
ポッポ鳥、糞塗れ、ポッポ鳥、糞塗れの悪循環に陥っているわ! 寄って来る魔物もゴブリンばっかりだし、只管うざい。ナクアさんがおかしくなった理由もわかるってものだな。いや、よくわからんわ。
このポッポ鳥だけど、実に房っとした頭をしていて、顔がむかつく、某宇宙人首相を思い出させる顔をしている。明け方にはミーミー鳴いてうるさい。よぉぉぉぉく聞くと小声で、トラスト、って言っていてなおウザったい。頭がおかしくなりそうだよ、助けて、グウェンちゃん。
おっと、この期に及んでまで、自分を捨てた女のことを考えてしまうなんて、おっさんも大分センチメンタリズムに乗っかっているみたいだな。いいよいいよ~、男なんて御センチな生き物ですよ、センチメンタルラバーだよ、センチメンタルハニーだよ。寂しい。
最近はいつも誰かと一緒にいたせいで、ひとりになると間が持たないな。仕方がない、ポッポ鳥を一羽捕獲して旅の友に加えようかな、嫌だよ! ゴブリンの方がなんぼかましだよ!はぁ、むなしい。
「クエェェェェ!」
ん? どこぞで馬鳥と訳された生き物みたいな鳴き声がしたぞ。いるのか?あのダチョウみたいな生き物が?行ってみるか。
……すごく、ワイバーンです。西部の山岳地帯には生息しているって資料で見ていたけど、実際に見るとそれほど大きくないな。
六畳一間のワンルーム収まるくらいだ。崖に巣を作って繁殖しているんだね。命の営みがうつくしいなぁ~。
子どもが餌を求めて、クェェェ、と鳴いていたんだね。強そうだなぁ、でも、死骸を掲げてワイのワイルドワイバーンやっ! とやってみたくもあるな。よし、襲ってみるか! 平和なワイバーンの家庭に殺戮者の間の手が迫る!
めちゃくちゃ追いまわされた、怖いです。お父さんと思われる個体が出てきちゃいました。二周りほど大きくて、貫録十分でした。すぐに逃げましたが、あんまりしつこいので、ポッポ鳥のうんこを顔にぶち込んでやりました。怒り狂っていましたが、私は元気です。
水たまりで体を洗い、夕飯にしようかな。そうは言っても火を起こす道具なんて持っていないから、生でポッポ鳥を食べるしかない。
木の棒と板で火を起こせるかとやってみるけど、うまくいかないな。なんだろう、煙は出るのだけど火が付く分けじゃないし、やり方が間違っているのかな? まだほかに何かいるの?
ゴブリンも生で齧っていたから、今更といえばそうなのだけれど、初見の生き物を生で食べるのには勇気がいるよね。
「ゴリゴリ、むちゃむちゃ、バリン!」
ふむ、がんばって羽を毟ったが毛が口に当たって嫌だな。お、内臓はそれほど悪くないかな? 消化器官は止めて、それ以外を食べよう。あ、魔石まで齧ってしまった。
マッドスキッパーについても無一文じゃ困るから、魔石は確保しておきたかったのだけど、ひとつくらいはいいか。異次元鞄には岩塩を詰め込めるだけ詰め込んであるから、これが金になってくれると助かるけど、塩は専売品とかの可能性もあるだろうから気をつけなくちゃな。
「ガサゴソッ」
何者だ! であぇであぇ~! ここをどなたの御殿と心得る! 不届き者じゃ~であぇ~。
「クケェ~」
なんと、そこには掌サイズのワイバーン? がいた。
「ク、クケェ!」
なんと、小さな体で精いっぱい威嚇してくるな! このポッポ鳥がほしいのかい? いいよ、やるよ、……嘘だよ! そのまま死ね!!!
「ク……クケェ……」
あ、倒れた。ボロボロで傷だらけでずいぶん弱っているな、幼生体にしても体が小さい。未熟児という奴だろうか。親に捨てられたか、自然発生したものだろう。大自然は厳しいのう~。
アルビノなのか、昼間見たワイバーンが緑色だったのに比べて、白い体に赤い眼をしている。むぅ、かわいそうになってきたな。ひとりになった性か、日本人としての感性が戻ってきている気がする。雨の日に捨てネコを見つけた気分になってきた。
魔物というのは、人に問答無用で襲いかかってくる連中の総称でもあるから、懐かせることができれば家畜にできるとは聞いたことがある。しかし、それはあくまで、馬や牛なんかの話だ。地球でも長い年月をかけて、オオカミからイヌになっていったというのは既知の事実だしなぁ。
まあ、俺が第一人者として一歩を踏み出してみてもいいかもしれない。最悪でも死ぬのは俺だけだしな。運が良かったな、介抱してやるよ。
「クケ♪ クケェ~♪」
未熟児くんは喜んでポッポ鳥を貪っている。
「クケケ、クケ、ク~」
お、なに?ふむ、仲間になりたいのかい?いいとも仲間にしてあげよう!じゃあ、お近づきの印に俺のおやつをどうぞ。もちろん、訳は適当だ。まあ、お礼を言っているような感じはする。
「ク? クケケ? ……クケケ!!」
え、土は食べられないよ、そう言っていそうな顔の前で、思いっきり土を頬張る俺。おお、驚いているな、知能は高そうだし、敵対する意思もなさそうだな。寂しかったし、丁度いいな。
眠くなったので、近くにあった木によじ登る。ここで眠るとしよう。もちろん、熟睡ではなく浅い眠りになるけど、慣れたものだ。最悪、土に埋まれば熟睡できそうな予感がある。
ほら、お前もおいで~、お、来た来た。愛い奴め~。よし、名前をあげなくちゃいけないな。
そうだな、ワイのワイルドワイバーンになるんだから、ワワワかイイイだな、それか非常食かな。君はどれがいいかい?
「クケケケ!!!!」
すごく喜んでいるね。じゃあ、って痛い痛い、ああ、ごめんごめん。気に入らなかったのか。そうだな~なにがいいかい? 本人に聞くのが一番だろう。
「ク~!」
む、ク~がいいのか? でもなぁ~クームと被るしな、名前被りは重罪だよ? キャラ立ちとか分かり難くなるじゃん。え、そんなことはどうでもいいですか、そうですか。
じゃあ、君は『クー』に決定だな。よろしくなクー!
「クー!」
こうして俺には新たな道連れができた。
このクーだが、火を吹けるらしい。まあ、ライターの火くらいだけどね。火袋とかを内蔵している様には見えないから、魔術なのだろう。
これにはずいぶん助かった。灯りは別にいらないが、温かいものが食べたかったのだ。いつからだろうか、暗闇でも視力に問題がなったのは?わからないな、ダンジョンに取り込まれたころからだった気がする。
さぁ、目指すはおいしい土が存在する土地だ! 行くぞ、クー!
何か目的が変わってしまった気がするが、別にいいか。どんどん、山へと入っていく俺達だった。
次回、そういえば西部山脈地帯で黒石魔物が多く見られているのでしたね。おっさん、すっかり忘れていたよ。いかん、いかん、あぶない、あぶない・・・・。




