第9話 「二人だけの作戦会議」
歓迎レクリエーション当日。
朝の教室は、いつも以上に賑やかだった。
「絶対優勝するぞ!」
「景品って図書カードらしい!」
「問題難しいかな?」
クラスメイトたちが思い思いに話している。
ユウキが席に着くと、前の席のマミが勢いよく振り返った。
「ユウキ!」
「おはよう。」
「今日は負けません!」
「だからペアだって。」
「あっ。」
マミは自分で言っておきながら、恥ずかしそうに笑った。
「また間違えちゃいました。」
「相変わらずだな。」
二人は顔を見合わせて笑う。
◇◇◇
ホームルームが終わると、体育館へ移動した。
歓迎レクリエーションのルール説明が始まる。
「これから校内に設置されたチェックポイントを回ってもらいます!」
先生がマイクで説明する。
「各ポイントにはクイズやミッションがあります。協力してクリアしてください!」
生徒たちが歓声を上げる。
「制限時間は九十分!」
「それでは、スタート!」
開始の合図と同時に、生徒たちが一斉に走り出した。
◇◇◇
「まずはどこ行く?」
マミが校内マップを広げる。
ユウキはすぐに全体を見渡した。
「三階から回ろう。」
「どうして?」
「みんな近い場所から行く。」
「あ。」
「だから最初は空いてる場所を狙う。」
マミは目を丸くした。
「……。」
「どうした?」
「その考え方。」
「?」
「座席争奪戦と同じですね。」
「……。」
ユウキも思わず笑った。
「確かに。」
「人の流れを読む。」
「先回りする。」
「空いてる場所を狙う。」
二人は同時に言った。
「いつもの作戦だ。」
その瞬間、笑いが止まらなくなった。
◇◇◇
作戦は大成功だった。
三階のチェックポイントはほとんど並ばずにクリア。
二階へ降りる頃には他のペアが長蛇の列を作っていた。
「すごい!」
マミが嬉しそうに拍手する。
「ユウキのおかげ!」
「マミもクイズ全部答えたじゃん。」
「えへへ。」
次のミッションでは、二人で紙飛行機を飛ばす競技だった。
「せーの!」
二人同時に投げる。
マミの紙飛行機はきれいに一直線に飛び、見事に的へ入った。
「やった!」
思わずユウキの腕を掴む。
「見た!? 入った!」
「ああ!」
興奮したまま喜ぶマミ。
数秒後。
「あ……。」
自分がユウキの腕を握っていることに気付き、慌てて手を離した。
「ご、ごめん!」
「いや。」
ユウキも少し照れながら笑う。
「びっくりしただけ。」
「嬉しくて、つい……。」
お互い照れ笑いを浮かべた。
◇◇◇
レクリエーション終了。
結果発表。
「第三位!」
拍手。
「第二位!」
さらに拍手。
「そして第一位は──」
先生が封筒を開く。
「一年二組!
ユウキさん・マミさんペア!」
体育館中が歓声に包まれた。
「やった!」
マミは飛び上がるほど喜ぶ。
「ユウキ!」
「優勝だ!」
思わずハイタッチを交わす。
パンッ!
乾いた音が体育館に響いた。
「すごい!」
「本当に勝った!」
二人は笑顔のまま顔を見合わせる。
高橋が後ろから近づいてきた。
「お前ら。」
「?」
「息ぴったりすぎ。」
「そうか?」
「見てるこっちが恥ずかしいくらい。」
クラスメイトたちも口々に言う。
「いいコンビだよな。」
「本当に付き合ってないの?」
「もう付き合えばいいじゃん。」
教室とは違い、今日は誰もからかうような言い方ではなかった。
純粋に、お似合いだと思っているような声だった。
マミは少し照れながら俯く。
ユウキも頭をかいた。
◇◇◇
帰りの電車。
「今日は疲れたね。」
「でも楽しかった。」
二人は並んで座る。
マミは景品の図書カードを嬉しそうに見つめていた。
「ユウキ。」
「ん?」
「ありがとう。」
「何が?」
「ペアがユウキで、本当によかった。」
その言葉は、まっすぐだった。
「私、一人だったら絶対優勝できなかった。」
「俺も。」
ユウキは笑う。
「マミがいたから勝てた。」
マミは少しだけ目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。
「また一つ。」
「?」
「思い出が増えたね。」
「ああ。」
窓の外では夕日がゆっくりと沈み始めていた。
最初は「電車で隣に座るライバル」だった。
それが今では、一緒に笑い、一緒に勝利を喜び合う存在になっている。
その変化を、お互い少しずつ感じ始めていた。
まだ誰も告白なんて考えていない。
それでも。
隣にいることが、もう特別になり始めていた。
**――第9話「二人だけの作戦会議」 完**




