第10話 「離れて気づく気持ち」
歓迎レクリエーションから数日。
優勝したユウキとマミは、クラスでちょっとした有名人になっていた。
「おはよう!」
「優勝コンビ!」
「今日も一緒なんだな。」
朝からそんな声をかけられる。
「違う違う。」
ユウキは苦笑する。
「たまたま同じ電車なだけ。」
「その"たまたま"が一か月以上続いてるんだけど?」
高橋の鋭いツッコミに教室は笑いに包まれた。
マミも恥ずかしそうに笑うしかなかった。
◇◇◇
一時間目が始まる直前。
担任の先生が教室へ入ってくる。
「今日は連絡がある。」
教室が静かになる。
「来週から三日間、学力診断テストを行う。」
「うわぁ……。」
あちこちからため息が漏れる。
「それに伴い、座席をテスト用に変更する。」
その一言に、ユウキとマミは同時に顔を上げた。
「出席番号順で並び替える。」
「……。」
「今日の放課後には移動しておくように。」
前後の席。
毎日話していた距離。
それが今日で終わる。
◇◇◇
放課後。
二人は机を運び終えた。
マミの席は窓際の前方。
ユウキは教室中央の後ろ。
今までよりずっと離れてしまった。
「遠くなっちゃったね。」
マミが少し寂しそうに笑う。
「テスト終われば戻るだろ。」
「三日だけ。」
「すぐだよ。」
「……うん。」
そう答えたものの、どこか元気がなかった。
◇◇◇
翌日。
教室へ入る。
いつもなら前の席にいるマミと「おはよう」と言い合う。
でも今日は席が遠い。
ホームルームが始まるまで話す時間もほとんどない。
「……。」
ユウキは無意識に前の方を見る。
マミも、何度かこちらを振り返ろうとしていた。
しかし先生が近くにいて話せない。
なんとなく落ち着かなかった。
◇◇◇
昼休み。
「ユウキ!」
マミが教室の前から駆け寄ってきた。
「屋上行こ!」
その笑顔を見た瞬間。
ユウキは胸の中が少し軽くなる。
「待ってた。」
「え?」
「……いや。」
「ふふっ。」
マミは嬉しそうに笑った。
「私も。」
二人は屋上へ向かう。
ベンチに座り、お弁当を広げる。
「なんか。」
マミがぽつりと言う。
「今日、朝が変な感じだった。」
「分かる。」
「前後の席じゃないだけで、こんなに違うんだね。」
「話す時間減ったし。」
「うん。」
少しだけ沈黙が流れる。
風が二人の髪を揺らした。
「ねぇ。」
マミが小さく笑う。
「私ね。」
「?」
「朝、ユウキが見えなくて少し寂しかった。」
「……。」
その言葉に、ユウキは少し驚いた。
「俺も。」
「本当?」
「何回も前見ちゃった。」
マミは吹き出した。
「私も!」
二人は顔を見合わせて笑う。
◇◇◇
放課後。
いつものように駅へ向かう。
教室では離れていても、帰り道はいつも通りだ。
「やっぱり落ち着く。」
マミがぽつりと言う。
「何が?」
「ユウキと帰る時間。」
「俺も。」
「今日は特に。」
ホームへ着く。
電車へ乗る。
数駅後。
二人並んで席へ座る。
いつもの光景。
それだけなのに、不思議と安心する。
「今日は。」
マミが窓の外を見ながら話す。
「朝からずっと思ってた。」
「?」
「早く帰りの時間にならないかなって。」
「……。」
「だって。」
少し照れながら笑う。
「帰りはいつも通り、一緒だから。」
ユウキも小さく笑った。
「そうだな。」
窓ガラスに映る二人の姿。
肩が少し触れそうなくらい近い距離。
電車の揺れに合わせて、自然と肩が寄る。
どちらも離れようとはしなかった。
◇◇◇
駅へ着き、改札前で別れる。
「テスト、頑張ろう。」
「うん。」
「終わったら席戻るし。」
「その日が待ち遠しい。」
「そんなに?」
「うん。」
マミは少し照れながら笑う。
「やっぱり前後の席が好き。」
そう言って手を振る。
「また明日!」
「ああ、また明日。」
マミが見えなくなるまで、その後ろ姿を見送る。
たった数メートル席が離れただけ。
それだけで一日が少し物足りなく感じた。
今まで当たり前だった時間。
その大切さに気づき始めた二人。
まだ恋という言葉には届かない。
それでも、お互いが隣にいることが、自分にとって特別な安心になっていることだけは、もうはっきりしていた。
**――第10話「離れて気づく気持ち」 完**




