第11話 「テスト勉強は二人で」
学力診断テスト初日。
朝の電車は、いつもより静かだった。
参考書を開く生徒。
英単語帳を眺める学生。
車内には、いつもの賑やかさがない。
ユウキも英語の単語帳を開いていた。
「おはよう、ユウキ。」
隣から聞き慣れた声がする。
マミだった。
「おはよう。」
「勉強してる?」
「一応。」
「珍しい。」
「失礼だな。」
マミはくすっと笑う。
「私も昨日、夜遅くまで頑張ったんだ。」
「眠そうだけど。」
「……バレた?」
目をこすりながら笑うマミ。
その表情が少しだけ幼く見えて、ユウキは思わず笑みを浮かべた。
◇◇◇
テストが始まる。
国語。
数学。
英語。
昼休み。
二人はいつもの屋上へ向かった。
「どうだった?」
マミがお弁当を開きながら尋ねる。
「数学はたぶん大丈夫。」
「いいなぁ。」
「英語は?」
「リスニングが難しかった……。」
マミはしょんぼりと肩を落とす。
「最後の問題、自信ない。」
「俺も少し迷った。」
「本当?」
「たぶん。」
「それなら少し安心。」
二人は笑い合う。
テストの話をしているだけなのに、不思議と緊張が和らいでいく。
◇◇◇
放課後。
いつものように駅へ向かう途中だった。
「ユウキ。」
「ん?」
「明日、数学が少し心配で……。」
マミは少し言いづらそうに続ける。
「もし時間があったら、勉強教えてくれない?」
「俺でよければ。」
「本当?」
「図書室なら静かだし。」
「じゃあ放課後に!」
マミは嬉しそうに笑った。
◇◇◇
翌日の放課後。
学校の図書室。
窓から柔らかな夕日が差し込んでいる。
二人は向かい合わせに座り、ノートを広げていた。
「この問題なんだけど。」
マミがノートを差し出す。
「ここまでは分かるんだけど、このあとが……。」
「ここは公式を使う。」
ユウキはゆっくり説明する。
「あっ!」
マミが目を輝かせた。
「そういうことだったんだ!」
「難しく考えすぎ。」
「なるほど……。」
夢中でノートに書き込んでいく。
「ユウキって教えるの上手。」
「そう?」
「先生より分かりやすいかも。」
「それは言い過ぎ。」
「本当なのに。」
マミは笑顔でそう言った。
◇◇◇
一時間ほど勉強した頃。
マミは大きく伸びをした。
「終わったぁ。」
「お疲れ。」
「これで少し自信ついた。」
「ならよかった。」
マミはバッグから小さな包みを取り出した。
「はい。」
「?」
「お礼。」
「え?」
「駅前で見つけたクッキー。」
「教えてもらったお礼です。」
かわいらしく包装された小さな焼き菓子だった。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
マミは少し照れたように笑う。
◇◇◇
図書室を出る頃には、校内にはほとんど人がいなくなっていた。
「遅くなっちゃったね。」
「急ごう。」
二人は駅へ向かって走る。
「間に合うかな!」
「あと三分!」
ホームへ駆け込む。
発車ベルが鳴る。
「セーフ!」
ギリギリで電車へ飛び乗った。
二人は息を切らしながら顔を見合わせる。
「危なかった。」
「間に合ってよかった。」
そのまま笑いが込み上げる。
周りの乗客が少し驚いたようにこちらを見るが、そんなことも気にならないくらい楽しかった。
◇◇◇
運よく二人並んで座ることができた。
「今日は勉強ありがとう。」
マミが改めて言う。
「これで明日は頑張れそう。」
「終わったら自由だな。」
「うん。」
少し考えてから、マミが笑顔を向ける。
「テスト終わったら、またどこか遊びに行こうよ。」
「いいね。」
「今度は本屋さん以外!」
「じゃあ考えておく。」
「約束!」
マミは小指を差し出した。
「え?」
「約束。」
ユウキは少し照れながら、自分の小指を絡める。
「……約束。」
二人は指切りをした。
たったそれだけのことなのに、マミはとても嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ながら、ユウキは思う。
勉強を教えたり、一緒に帰ったり、休日に遊んだり。
気づけば、自分の日常にはマミがいるのが当たり前になっていた。
そして、それはきっとマミも同じなのだろう。
テストが終われば、また前後の席に戻る。
その日を、二人とも心待ちにしていた。
**――第11話「テスト勉強は二人で」 完**




