第5期 第12話 「卒業まで、あと一か月」
二月。
冷たい風の中にも、どこか春の気配が混じり始めていた。
朝のホーム。
いつもの快速電車を待つ人たち。
そして、いつもの二人。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべていた。
「どうした?」
「カレンダー見ちゃって。」
「もう二月。」
「ああ。」
「卒業まで。」
二人は同時に言った。
「あと一か月。」
顔を見合わせ、小さく笑う。
◇◇◇
快速電車がホームへ滑り込む。
「今日も。」
マミが笑顔を作る。
「勝負!」
「もちろん。」
二人は別々のドアから乗り込む。
もう体が自然に動く。
人の流れ。
降りるタイミング。
歩く速度。
数年間で身につけた"座席争奪術"だった。
そして。
「!」
「!」
今日も並んで席へ座る。
「引き分け。」
「卒業まで。」
「全勝だね。」
「引き分けだけど。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
学校。
三年生の教室には、卒業式までのカウントダウンカレンダーが貼られていた。
『卒業まで あと30日』
その数字を見て、誰もが少しだけ静かになる。
「早いなぁ。」
高橋がぽつりとつぶやく。
「ついこの前入学した気がする。」
「本当だね。」
マミも小さくうなずいた。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
少し冷たい風が吹いている。
「このベンチも。」
マミが手でそっとなでる。
「あと何回来られるかな。」
「卒業まで。」
「毎日来よう。」
ユウキが笑う。
「寒くても?」
「寒くても。」
「約束。」
二人は笑顔でうなずき合った。
◇◇◇
放課後。
図書室。
二人は静かに受験勉強をしていた。
「終わった。」
マミが大きく伸びをする。
「疲れた?」
「うん。」
「でも。」
「ユウキと一緒だから頑張れる。」
「俺も。」
二人は自然に笑った。
◇◇◇
帰り道。
駅へ向かう途中、公園へ寄り道する。
ブランコには誰もいない。
冬の夕暮れ。
静かな時間が流れていた。
「ここも。」
マミがブランコへ座る。
「季節が何回も変わったね。」
「春。」
「夏。」
「秋。」
「冬。」
「全部。」
「ユウキといた。」
ユウキはゆっくりとうなずく。
「そうだな。」
◇◇◇
帰りの快速電車。
夕日が窓から差し込む。
今日も変わらず、並んだ席。
「ねぇ。」
マミが静かに話し始める。
「卒業したら。」
「この席。」
「少し寂しくなるかな。」
ユウキは窓の外を見ながら答えた。
「寂しくなる。」
「でも。」
「終わりじゃない。」
「休日に乗ればいい。」
「大学へ行く時も。」
「デートする時も。」
「また。」
「ここへ座ろう。」
マミの目が少し潤む。
「……うん。」
「約束。」
「ああ。」
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出る。
夕焼けの空。
「あと一か月。」
マミが小さくつぶやく。
「いっぱい笑おう。」
「いっぱい話そう。」
「いっぱい。」
「思い出作ろう。」
ユウキは優しく微笑む。
「全部叶えよう。」
「最後の日まで。」
二人はゆっくり手をつなぐ。
高校生活最後の冬。
卒業まで残された時間は、あとわずか。
だからこそ、一日一日が今まで以上に愛おしい。
朝のホーム。
通学電車。
学校。
帰り道。
そのすべてを胸に刻みながら、二人は最後の一か月を歩き始めた。
そして次はいよいよ――。
二人の高校生活、最後の日がやってくる。
**――第5期 第12話「卒業まで、あと一か月」 完**




