第6話 「初めての休日」
金曜日、放課後。
いつものようにユウキとマミは並んで駅へ向かっていた。
「やっと一週間終わりましたね。」
マミが大きく伸びをする。
「思ったより疲れた。」
「私もです。」
高校生活が始まって約三週間。
新しい環境にも少しずつ慣れ、二人で過ごす時間も自然と増えていた。
電車へ乗り込み、運よく二人並んで座る。
「明日は休みか。」
「土曜日ですね。」
マミは嬉しそうに笑う。
「いっぱい寝られます。」
「それ、毎週言ってそう。」
「えへへ。」
他愛もない会話。
電車の揺れが心地よい。
その時だった。
「そうだ。」
マミが何かを思い出したように顔を上げる。
「ユウキくん。」
「ん?」
「明日、予定ありますか?」
「特には。」
「本当ですか?」
少しだけ期待したような表情。
「駅前に新しい本屋さんができたじゃないですか。」
「ああ。」
「行ってみたいんですけど……。」
一瞬だけ言葉を止める。
「一人だと入りづらくて。」
「……。」
「もしよかったら、一緒に行きませんか?」
ユウキは一瞬驚いた。
休日に、学校以外で会う。
それは初めてだった。
「いいよ。」
「本当ですか?」
「俺も気になってた。」
マミの表情がぱっと明るくなる。
「やった!」
その笑顔を見ていると、断る理由なんて最初からなかった。
◇◇◇
翌日。
待ち合わせは駅前。
ユウキが五分前に到着すると、すでにマミがいた。
「おはようございます。」
制服ではなく、白いブラウスに淡い水色のカーディガン。
膝丈のスカートという私服姿だった。
学校とは雰囲気が少し違い、新鮮に見える。
「お、おはよう。」
「どうしました?」
「いや。」
ユウキは少し照れながら答える。
「私服なんだなって。」
「あ。」
マミも照れたように笑う。
「制服じゃないと、なんだか変な感じですね。」
「そうだな。」
「ユウキくんも、私服似合ってますよ。」
「ありがとう。」
二人とも少しぎこちなく笑った。
◇◇◇
本屋へ向かう途中。
「休日の駅前って、人が多いですね。」
「平日と全然違う。」
「迷子になりそう。」
「ならないだろ。」
「ふふっ。」
店内へ入ると、新しい本の香りがふわりと漂う。
「すごい……。」
マミは目を輝かせた。
「広いですね!」
「二階まである。」
二人はそれぞれ気になるコーナーを見て回る。
「ユウキくん。」
「ん?」
「これ面白そうですよ。」
恋愛小説を手に取るマミ。
「こういうの読むの?」
「たまに。」
「意外。」
「じゃあユウキくんは?」
「ミステリー。」
「やっぱり。」
「やっぱり?」
「なんとなく。」
二人で笑い合う。
◇◇◇
一時間ほど本屋を歩き回り、店を出た。
「楽しかったですね。」
「思ったより長居した。」
「夢中になっちゃいました。」
その時。
ぐぅ~。
「……。」
「……。」
静かな音が響く。
音の主はマミだった。
「あぅ……。」
顔を真っ赤にしてお腹を押さえる。
「聞こえました?」
「うん。」
「忘れてください……。」
「無理。」
「もう!」
マミは恥ずかしそうに頬を膨らませる。
「笑わないでください。」
「笑ってない。」
「口元が笑ってます。」
「少しだけ。」
「ひどいです。」
そう言いながら、マミ自身も笑ってしまった。
「お昼、食べる?」
「はい!」
◇◇◇
二人は駅前のハンバーガーショップへ入った。
窓際の席。
向かい合って座る。
「休日にこうして会うのって。」
マミがポテトを一本つまむ。
「なんだか不思議ですね。」
「学校じゃないからかな。」
「そうかもしれません。」
しばらく食べながら話す。
学校のこと。
好きな音楽。
家での過ごし方。
話題は尽きなかった。
「ねぇ、ユウキくん。」
「ん?」
「今日誘ってよかったです。」
「俺も。」
「本当ですか?」
「楽しかった。」
ユウキが素直に答えると、マミは嬉しそうに笑う。
「じゃあ……。」
少しだけ遠慮がちに続けた。
「また今度、お休みの日に遊びませんか?」
ユウキは迷わずうなずく。
「もちろん。」
「約束ですよ。」
「ああ。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
帰り道。
夕日が街をオレンジ色に染めていた。
駅の改札前で立ち止まる。
「今日はありがとうございました。」
「こちらこそ。」
「また学校で。」
「月曜日にな。」
「はい。」
マミは数歩歩いてから振り返る。
「ユウキくん。」
「ん?」
「今日から、電車の時間だけじゃなくて。」
少し照れながら笑う。
「休日も楽しみになりました。」
その言葉に、ユウキは自然と笑みを浮かべた。
「俺も。」
短い返事。
でも、その一言だけで十分だった。
休日に一緒に過ごした時間。
それは二人にとって、「クラスメイト」や「通学仲間」という関係から、一歩だけ前へ進んだ一日になった。
**――第6話「初めての休日」 完**




