第5期 第8話 「最後の秋と、変わらない帰り道」
十月。
校庭の木々が少しずつ色づき始めていた。
文化祭が終わり、学校はいつもの穏やかな日常へ戻っている。
朝のホーム。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは温かいミルクティーを両手で包みながら笑った。
「朝、寒くなったね。」
「ああ。」
「もう秋だ。」
「高校最後の秋。」
二人は少しだけ静かになった。
◇◇◇
快速電車がホームへ滑り込む。
「今日も。」
マミがいたずらっぽく笑う。
「勝負。」
「もちろん。」
二人は別々のドアから乗り込む。
人の流れを読み、タイミングを合わせる。
数駅後。
「!」
「!」
今日も並んで席へ座る。
「引き分け。」
「また記録更新。」
「卒業まで続きそうだな。」
「絶対続ける。」
マミは誇らしそうに胸を張った。
◇◇◇
教室。
ホームルームでは模試の日程が発表される。
「三年生は受験が本格化します。」
先生の言葉に、教室の空気が少し引き締まる。
休み時間。
「勉強しなきゃ。」
高橋が机に突っ伏す。
「もう逃げられない。」
「頑張ろう。」
ユウキが笑うと、高橋は大きくため息をついた。
「お前は余裕そうでいいなぁ。」
「余裕じゃないよ。」
マミも苦笑する。
「みんな一緒。」
◇◇◇
昼休み。
屋上。
風が少し冷たくなっていた。
「お弁当も。」
マミが微笑む。
「ここで食べるの、あと何回かな。」
「数えたくないな。」
ユウキが空を見上げる。
「終わりが近いって思うと。」
「少し寂しい。」
「でも。」
マミは優しく笑った。
「今を楽しもう。」
「ああ。」
◇◇◇
放課後。
二人は図書室で受験勉強をすることにした。
「この問題。」
マミが参考書を指さす。
「ここが分からない。」
「こう考えると解きやすい。」
「なるほど!」
マミは嬉しそうにノートへ書き込む。
「ありがとう。」
「お互い様。」
静かな図書室に、ページをめくる音だけが響く。
こうして一緒に勉強する時間も、高校生活の大切な思い出になっていく。
◇◇◇
帰り道。
夕焼けに染まる川沿いを歩く。
風に乗って、一枚の赤い落ち葉が舞った。
「秋だね。」
マミは落ち葉を拾い上げる。
「きれい。」
「しおりにする?」
「いいかも。」
二人は笑いながら、落ち葉を大切にノートへ挟んだ。
◇◇◇
帰りの快速電車。
今日も窓際の席へ並んで座る。
夕日が車内を優しく照らしている。
「ねぇ。」
マミが静かに言った。
「最近ね。」
「うん?」
「卒業のこと考える日が増えた。」
「俺も。」
「少し怖い。」
「毎日会えなくなるかもしれないって。」
ユウキはゆっくりとうなずいた。
「俺も不安はある。」
「でも。」
「今までだって。」
「いろんなことを一緒に乗り越えてきた。」
「だから。」
「これからも大丈夫。」
マミはその言葉を聞いて、小さく笑った。
「そうだね。」
「ユウキがいるもんね。」
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出ると、夕焼け空の向こうに赤く染まった木々が並んでいた。
「来週。」
マミが微笑む。
「紅葉、見に行かない?」
「いいな。」
「去年とは違う場所へ。」
「新しい思い出を作ろう。」
「約束。」
「ああ、約束。」
二人は笑顔で手を振る。
秋は少しずつ深まっていく。
卒業までの時間は確かに減っている。
それでも二人は前を向いて歩いていた。
今日という一日も。
いつものホームも。
いつもの通学電車も。
すべてが、かけがえのない青春の一ページとして、静かに心へ刻まれていくのだった。
**――第5期 第8話「最後の秋と、変わらない帰り道」 完**




