第5期 第6話 「最後の花火大会」
七月下旬。
待ちに待った花火大会の日。
夕方の駅前は浴衣姿の人で賑わっていた。
ユウキは時計台の前で待ちながら、少しだけ緊張していた。
「お待たせ。」
振り向くと、マミが立っていた。
淡い水色の浴衣に、白い帯。
髪はいつもより少し高い位置でまとめられ、小さな朝顔の髪飾りが揺れている。
「……似合ってる。」
思わず口に出た。
マミは照れたように笑う。
「ありがとう。」
「ユウキも。」
「浴衣、かっこいいよ。」
二人は顔を見合わせ、少し照れながら歩き始めた。
◇◇◇
会場へ向かう電車。
「今日は。」
マミが笑う。
「座席争奪戦はお休み。」
「休日だからな。」
車内は混雑していたが、途中で二人並んで座れる席が空いた。
「結局。」
ユウキが笑う。
「隣。」
「これが一番落ち着くもん。」
マミも笑顔で答えた。
◇◇◇
屋台が立ち並ぶ河川敷。
「まず何食べる?」
「かき氷!」
「予想どおり。」
「たこ焼きも!」
「焼きそばも!」
「全部食べる気か。」
「今日は特別。」
二人は屋台を回りながら、少しずつ夏祭りを楽しむ。
金魚すくい。
射的。
りんご飴。
笑い声が絶えなかった。
◇◇◇
「ユウキ。」
「ん?」
「勝負しよう。」
射的の前でマミが言った。
「景品取れた方が勝ち。」
「負けない。」
二人とも真剣な表情で狙う。
パンッ。
パンッ。
結果は——。
「一個!」
「俺も一個。」
「また引き分け。」
「ここでもか。」
二人は同時に吹き出した。
◇◇◇
日が沈み始める。
河川敷には多くの人が集まり、花火を待っていた。
「去年も。」
マミが静かに言う。
「ここで見たね。」
「ああ。」
「恋人になって初めての花火。」
「覚えてる。」
「すごく緊張してた。」
「俺も。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇◇◇
ドン――。
夜空に大輪の花が咲く。
「きれい……。」
赤。
青。
金色。
次々と打ち上がる花火が夏の夜空を彩る。
マミは目を輝かせながら見上げていた。
「今年も。」
「一緒に見られた。」
「うん。」
その声は、とても嬉しそうだった。
◇◇◇
大きなスターマインが始まる。
夜空いっぱいに広がる光。
その音に紛れるように、マミが小さくユウキの手を握った。
「……。」
ユウキもそっと握り返す。
言葉はいらなかった。
ただ、同じ景色を隣で見られることが幸せだった。
◇◇◇
花火が終わる。
拍手が会場に広がる。
「終わっちゃった。」
マミが少し寂しそうに笑う。
「でも。」
「今年も最高だった。」
「ああ。」
「毎年更新してる。」
「思い出。」
◇◇◇
帰りの電車。
疲れた人たちでいっぱいの車内。
運よく並んだ席が空き、二人は腰を下ろした。
「結局。」
マミがくすっと笑う。
「今日も座れた。」
「最後はやっぱり。」
「特等席。」
ユウキもうなずく。
「俺たちらしい。」
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出ると、遠くで花火の最後の煙が夜空に残っていた。
「ねぇ。」
マミが立ち止まる。
「高校最後の花火大会。」
「忘れない。」
「俺も。」
「来年も。」
マミが少し照れながら言う。
「学生じゃなくても。」
「一緒に見よう。」
ユウキは優しく微笑んだ。
「ああ。」
「来年も。」
「その先も。」
「毎年一緒に。」
マミは嬉しそうに笑い、小指を差し出した。
「約束。」
「約束。」
二人は静かに指切りを交わす。
高校生活最後の花火大会。
夜空を彩る大輪の花は、やがて消えていく。
けれど、その夜に交わした約束と、隣で見上げた景色は、二人の心の中でいつまでも輝き続けるのだった。
**――第5期 第6話「最後の花火大会」 完**




