第5期 第5話 「最後の夏が始まる」
七月。
朝から強い日差しが照りつけ、ホームのコンクリートが白く光っていた。
セミの鳴き声が響き、本格的な夏の訪れを感じさせる。
ユウキは制服の袖をまくりながらホームへ向かった。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは麦わら帽子を手に持ち、少し暑そうに笑った。
「暑いね。」
「ああ。」
「今年一番かも。」
「夏が来たね。」
二人は顔を見合わせる。
そして、同じことを思い出した。
「最後の夏。」
「だね。」
◇◇◇
快速電車がホームへ滑り込む。
「今日も。」
マミが小さく笑う。
「勝負!」
「負けない。」
二人は別々のドアから乗り込む。
降車する人の流れを見極める。
数駅後。
「!」
「!」
並んだ二人掛けの席へ座る。
「成功。」
「高校生活最後の夏も。」
「特等席確保。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
学校。
終業式まであと一週間。
教室では夏休みの話題で盛り上がっていた。
「海行こう!」
「花火大会も!」
「宿題終わるかな……。」
高橋が大きく伸びをする。
「最後の夏休みだぞ!」
「遊ぶしかない!」
教室中が笑いに包まれた。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
強い日差しを避けるため、日陰のベンチへ座る。
「去年の夏。」
マミが懐かしそうに言う。
「覚えてる?」
「もちろん。」
「花火大会。」
「海。」
「遊園地。」
「全部。」
「恋人になって初めての夏だった。」
ユウキは静かにうなずく。
「あっという間だった。」
「今年は。」
マミが笑顔で続ける。
「もっと思い出作ろう。」
「もちろん。」
◇◇◇
放課後。
二人は駅前のカフェへ寄り道した。
「暑い……。」
マミが注文したのは、大きなかき氷。
「見て。」
運ばれてきたのは、いちごシロップがたっぷりかかった特大サイズだった。
「一人で食べるの?」
「……無理。」
「予想通り。」
二人で一つのかき氷を分け合う。
「冷たい!」
マミが思わず頭を押さえる。
「キーンってした。」
「急いで食べるから。」
ユウキが笑う。
「でも。」
マミも笑顔になる。
「おいしい。」
◇◇◇
帰り道。
夕暮れの商店街。
掲示板には大きな花火大会のポスターが貼られていた。
「今年もある。」
マミが足を止める。
「行こう。」
ユウキは迷わず答えた。
「去年と同じ場所で。」
「うん!」
マミは嬉しそうにうなずく。
「浴衣も着る。」
「楽しみにしてる。」
◇◇◇
帰りの快速電車。
窓の外では、夕日が街をオレンジ色に染めていた。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「高校最後の夏。」
「終わってほしくない。」
その声には少しだけ寂しさが混じっていた。
ユウキはゆっくり答える。
「終わるから。」
「思い出になる。」
「……。」
「だから。」
「今年も。」
「一日一日を大切にしよう。」
マミは小さくうなずく。
「うん。」
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出る。
夜空には夏の星が輝き始めていた。
「約束。」
マミが小指を差し出す。
「今年の夏も。」
「最高の夏にしよう。」
ユウキは優しく小指を重ねる。
「約束。」
二人は笑顔で指切りをした。
高校一年生の夏。
恋が芽生えた季節。
高校二年生の夏。
たくさんの思い出を重ねた季節。
そして高校三年生。
最後の夏が、静かに幕を開けた。
この夏の一日一日が、きっと二人にとって一生忘れられない宝物になる。
**――第5期 第5話「最後の夏が始まる」 完**




