第5期 第4話 「あの日と同じ雨」
六月。
朝から静かな雨が降っていた。
駅のホームの屋根を叩く雨音は、高校一年生の頃と同じように優しく響いている。
ユウキは傘をたたみながらホームへ上がった。
「おはよう。」
聞き慣れた声。
「おはよう、マミ。」
淡い水色の傘を持ったマミが、小さく微笑む。
「雨だね。」
「ああ。」
「なんだか。」
マミは雨空を見上げる。
「一年生の頃を思い出す。」
「俺も。」
二人は自然と笑い合った。
◇◇◇
快速電車がホームへ滑り込む。
「今日は難しそう。」
マミが車内を見渡す。
雨の日は乗客が多い。
それでも二人は目だけで合図を交わす。
数駅後。
「!」
「!」
いつものように並んだ二人掛けの席へ座る。
「成功。」
「これで何回目だろ。」
「もう数えられない。」
マミはくすっと笑う。
「卒業しても。」
「この技術だけは忘れないね。」
「たぶん一生。」
◇◇◇
学校。
昼前になると雨脚はさらに強くなった。
窓ガラスを打つ雨粒を眺めながら、先生が言う。
「今日は部活動も早めに切り上げます。」
教室から小さなどよめきが起こる。
◇◇◇
昼休み。
今日は屋上へ行けないため、図書室で昼食を取る。
雨音だけが静かに聞こえる。
「落ち着くね。」
マミがお茶を一口飲む。
「雨の日の図書室。」
「好き。」
「俺も。」
本棚に囲まれた静かな空間。
ページをめくる音だけが響く。
そんな時間も、二人にとっては心地よかった。
◇◇◇
放課後。
雨はまだ降り続いていた。
二人は一本の傘に入ることはせず、それぞれ傘を差して歩く。
肩が触れそうなくらい近い距離で。
「そういえば。」
マミが歩きながら言う。
「覚えてる?」
「何を?」
「一年生の時。」
「私、雨の日って苦手って言ってた。」
「ああ。」
「でも今は。」
マミは優しく笑った。
「好き。」
「どうして?」
「雨の日も。」
「ユウキと帰れるから。」
その答えに、ユウキも笑う。
「俺も。」
「天気より。」
「誰といるかの方が大事だ。」
マミは照れくさそうに笑った。
「その言い方、ずるい。」
◇◇◇
駅へ向かう途中、小さな公園の前を通る。
ブランコが雨に濡れて揺れていた。
「ここ。」
マミが立ち止まる。
「昔、一人だったら。」
「雨の日は早く帰りたいって思ってた。」
「今は。」
「少し寄り道したくなる。」
ユウキは公園を見つめる。
「隣にいるから?」
「うん。」
二人はしばらく雨の公園を眺めていた。
◇◇◇
ホーム。
電車を待っていると、雨が少し弱くなった。
その時だった。
「見て。」
マミが空を指差す。
雲の切れ間から淡い光が差し込み、小さな虹が現れた。
「虹。」
「また見られたね。」
一年生の春にも見た景色。
同じように二人で見上げる。
でも、あの頃とは少し違う。
今は恋人として、同じ景色を見ている。
◇◇◇
帰りの快速電車。
今日も並んで座る。
窓には雨粒が流れている。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「もし。」
「一年生の私に会えたら。」
「何て言う?」
ユウキは少し考えて答えた。
「心配しなくていい。」
「これから。」
「毎日笑えるようになる。」
マミは少し目を潤ませる。
「私も。」
「一年生のユウキに。」
「『勇気を出して話しかけてよかったね』って言いたい。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出る頃には、雨はほとんど止んでいた。
夕焼けが雲の隙間から顔を出している。
「雨、上がった。」
「ああ。」
「明日は晴れるかな。」
「きっと。」
二人は笑顔で手を振る。
高校一年生の頃は、雨の日もどこかぎこちなかった。
でも今は違う。
雨音さえも、二人にとっては大切な思い出を運ぶ音になっていた。
卒業まで残りわずか。
それでも、変わらないものがある。
毎朝のホーム。
通学電車。
そして、隣という特等席。
その場所は、今日も二人を優しく迎えてくれていた。
**――第5期 第4話「あの日と同じ雨」 完**




