第5期 第1話 「三度目の春、変わらない朝」
三年生の春。
桜並木は今年も満開だった。
高校へ向かう道を歩きながら、ユウキはゆっくりと空を見上げる。
「もう三年生か。」
入学した日のことが、昨日のように思い出される。
あの日も、こんな春だった。
◇◇◇
いつもの駅。
いつものホーム。
そして——。
「おはよう。」
聞き慣れた優しい声。
「おはよう、マミ。」
マミは春らしい薄桃色のカーディガンを制服の上に羽織り、嬉しそうに笑った。
「今日から三年生だね。」
「ああ。」
「高校最後の一年。」
その言葉に、二人は少しだけ静かになる。
「楽しもう。」
マミが微笑む。
「悔いが残らないように。」
「もちろん。」
◇◇◇
快速電車がホームへ滑り込む。
「最後の一年も。」
マミが笑う。
「勝負!」
「受けて立つ。」
二人は別々のドアから乗り込む。
人の流れを読む。
降りる人の位置を見極める。
そして数駅後。
「!」
「!」
今年最初の座席争奪戦も、結果は同じだった。
「引き分け。」
「今年もだね。」
「もう何百回目だろ。」
「数えきれない。」
二人は笑いながら並んで座る。
車窓を流れる桜並木が、新しい一年の始まりを祝福しているようだった。
◇◇◇
学校へ到着すると、昇降口には新しいクラス表が貼り出されていた。
「見に行こう。」
「ああ。」
人混みをかき分けながら名前を探す。
「三年三組……。」
ユウキが見つける。
「俺はここ。」
「私も!」
マミが思わず声を上げた。
「また同じクラス!」
二人は驚いたあと、同時に笑顔になる。
「三年連続。」
「本当にすごい。」
そこへ高橋が走ってきた。
「おーい!」
「俺も同じクラス!」
「今年もよろしく!」
「結局みんな一緒か。」
教室は笑い声に包まれた。
◇◇◇
ホームルーム。
担任が教壇に立つ。
「いよいよ高校生活最後の一年だ。」
「勉強も進路も大切だが、それ以上に、一日一日を大切に過ごしてほしい。」
教室が静かになる。
その言葉は、誰の胸にもまっすぐ届いていた。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
去年と同じベンチ。
「ここも三年目。」
マミがお弁当を開きながら笑う。
「変わらないな。」
「変わってほしくない。」
春風が二人の間を吹き抜ける。
「ねぇ。」
マミが桜を見上げる。
「高校生活、あと一年なんだね。」
「あっという間だ。」
「卒業したら。」
少しだけ寂しそうに笑う。
「毎日この電車には乗れなくなるのかな。」
ユウキは少し考えたあと、穏やかに答えた。
「通学は終わるかもしれない。」
「でも。」
「会えなくなるわけじゃない。」
マミはその言葉に安心したように微笑んだ。
「うん。」
◇◇◇
放課後。
駅へ向かう道。
校門を出ると、新入生たちが楽しそうに歩いていた。
「去年の私たちも。」
「こんな感じだったかな。」
「もっと緊張してた。」
「確かに。」
二人は思わず笑う。
あの頃は、こんな未来が待っているなんて想像もしていなかった。
◇◇◇
帰りの快速電車。
今日も窓際の席に並んで座る。
「三年生になっても。」
マミがつぶやく。
「何も変わらなかったね。」
「いいことだ。」
「うん。」
マミは小さくうなずく。
「変わらない朝。」
「変わらない帰り道。」
「変わらない特等席。」
そして。
「変わらない、大好きな人。」
ユウキは少し照れながら笑った。
「俺も。」
「これからも。」
「ずっと隣にいる。」
マミは嬉しそうに微笑んだ。
「約束。」
二人は小さく小指を重ねる。
高校最後の春。
新しい一年が始まった。
でも、二人の毎日は何も変わらない。
朝はホームで待ち合わせをして。
通学電車で隣に座って。
学校で笑い合い。
また一緒に帰る。
その何気ない日常こそが、二人にとって何よりも大切な宝物だった。
**――第5期 第1話「三度目の春、変わらない朝」 完**




