第4期 第8話 「修学旅行前夜」
六月下旬。
修学旅行まで、あと三日。
教室は授業中よりも旅行の話題でいっぱいだった。
「お菓子何持っていく?」
「京都でお土産何買う?」
「班行動楽しみ!」
誰もが浮き足立っている。
◇◇◇
朝のホーム。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは小さな旅行雑誌を手にしていた。
「それ?」
「京都特集。」
「予習?」
「もちろん。」
ページを開くと、清水寺や嵐山、伏見稲荷の写真が並んでいる。
「全部行きたい。」
「自由時間だけじゃ足りないな。」
「卒業してからまた行こう。」
マミは自然にそう言った。
ユウキも笑ってうなずく。
「ああ。」
◇◇◇
快速電車。
今日も息を合わせて並んで座る。
「ねぇ。」
マミが雑誌を見せる。
「この抹茶パフェ。」
「大きいな。」
「食べたい。」
「昼ご飯入る?」
「……半分こ。」
「それなら。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
お弁当を食べながら旅行のしおりを広げる。
「集合、朝六時。」
「早い。」
「寝坊しそう。」
「マミ。」
「うん?」
「目覚まし三つ。」
「そんなに?」
「念のため。」
「じゃあ私も三つ。」
「競争だな。」
「朝から勝負?」
「もう始まってる。」
二人は楽しそうに笑った。
◇◇◇
放課後。
駅前のショッピングモールへ寄り道する。
「旅行用品買わなきゃ。」
マミはカゴを持ちながら店内を歩く。
「歯ブラシ。」
「折りたたみ傘。」
「充電器。」
「忘れ物ない?」
「たぶん。」
歩いていると、おそろいの和柄のキーホルダーが目に入った。
一つは青。
一つは桜色。
「かわいい。」
マミが立ち止まる。
「修学旅行記念に。」
「買う?」
「うん。」
二人はそれぞれ色違いを選んだ。
「またおそろい増えた。」
「これで何個目だ?」
「数えきれない。」
嬉しそうに笑うマミだった。
◇◇◇
帰り道。
夕日が街をオレンジ色に染めている。
「ねぇ。」
マミが歩きながら言う。
「修学旅行って。」
「楽しみだけど。」
「少し緊張する。」
「どうして?」
「ちゃんと時間通り動けるかなとか。」
「迷子にならないかなとか。」
ユウキは笑う。
「迷子になったら。」
「探しに行く。」
「本当?」
「ああ。」
「班も一緒だし。」
「安心した。」
マミはほっとしたように笑った。
◇◇◇
帰りの快速電車。
今日も窓際の席へ並んで座る。
マミは窓に映る夕焼けを眺めながら、小さくつぶやく。
「修学旅行。」
「高校生活で一番楽しみかも。」
「俺も。」
「写真いっぱい撮ろう。」
「うん。」
「京都の景色も。」
「みんなとも。」
「それから。」
少し照れながら続ける。
「二人でも。」
「もちろん。」
◇◇◇
改札前。
「あと三日。」
マミが指を三本立てる。
「長い。」
「すぐだよ。」
「今日帰ったら。」
「荷造りする。」
「忘れ物するなよ。」
「ユウキこそ。」
「大丈夫。」
「本当に?」
「……たぶん。」
その一言に、マミは声を上げて笑った。
「やっぱり心配!」
二人は笑いながら手を振る。
そして、それぞれの家へ向かって歩き出した。
修学旅行まで、あと少し。
胸いっぱいの期待を抱えながら迎える、その前夜。
二人はまだ知らない。
京都で過ごす数日間が、高校生活の中でも忘れられない思い出になることを。
**――第4期 第8話「修学旅行前夜」 完**




