第4期 第5話 「あの日の隣の席」
五月。
新緑がまぶしい季節になった。
朝のホームには、春よりも少し軽い服装の人が増えている。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは笑顔でユウキの隣へ並んだ。
「今日もいい天気。」
「ああ。」
「電車、少し混みそうだな。」
「負けないよ。」
その一言に、二人は思わず笑った。
恋人になっても続く、小さな勝負。
それはもう、二人だけの合言葉だった。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
人の流れを読み、タイミングを合わせる。
数駅後。
「!」
「!」
今日も並んで座ることに成功する。
「引き分け。」
「やっぱり。」
マミは楽しそうに笑った。
「もう一年以上やってるのに。」
「一回も決着つかない。」
「それでいい。」
ユウキが窓の外を見ながら言う。
「隣に座れれば。」
マミは少し照れながら微笑んだ。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
お弁当を食べ終えたあと、マミがバッグから一枚の写真を取り出した。
「見て。」
「?」
そこには、一年前の入学式の日に校門前で撮られたクラス写真が写っていた。
「あ。」
「一年生の時。」
写真の中では、まだほとんど話したこともない二人が少し離れた場所に立っている。
「この時は。」
マミが懐かしそうに笑う。
「まだ友達でもなかった。」
「そうだな。」
「でも同じ写真に写ってる。」
「不思議。」
ユウキも静かに写真を見つめた。
「この頃は。」
「一年後に付き合ってるなんて思わなかった。」
「俺も。」
◇◇◇
午後の授業。
現代文の先生が作文の課題を出した。
「テーマは『忘れられない出会い』。」
教室が少しざわつく。
ユウキは自然とペンを動かした。
頭に浮かんだのは、入学式の日。
同じ快速電車。
空いた二人掛けの席。
偶然隣に座った、一人の少女。
一方、マミも静かに作文を書いていた。
書き始めた一文は同じだった。
『私の忘れられない出会いは、通学電車でした。』
◇◇◇
放課後。
駅へ向かう途中。
「作文。」
マミが笑う。
「何を書いた?」
「秘密。」
「また?」
「マミは?」
「秘密。」
二人は顔を見合わせる。
「たぶん。」
マミが照れながら言う。
「同じこと書いてる。」
「かもな。」
その答えだけで、お互いに十分だった。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も並んで座る。
窓の外には、夕日に照らされた線路が続いている。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「もし。」
「?」
「あの日、私たち。」
「座れなかったら。」
「どうなってたかな。」
ユウキは少し考えた。
「同じクラスだから。」
「いつか話したかもしれない。」
「でも。」
「今みたいにはなってなかったかも。」
マミは小さくうなずく。
「私もそう思う。」
「たった一つの席。」
「それだけで人生って変わるんだね。」
ユウキは窓に映る二人の姿を見て笑った。
「だから。」
「座席争奪術には感謝だな。」
「ふふっ。」
マミは吹き出した。
「そんな締め方?」
「俺ららしい。」
「確かに。」
◇◇◇
改札前。
「もうすぐだね。」
「?」
「付き合って一年。」
マミは少し照れながら笑う。
「早かった。」
「ああ。」
「でも。」
「まだ一年しか経ってない。」
「思い出は何年分もある。」
ユウキの言葉に、マミは優しくうなずいた。
「これからも。」
「もっと増やそう。」
「もちろん。」
二人は自然に手をつなぎ、少しだけ歩いた。
最初は偶然だった隣の席。
今では、誰にも譲れない特等席。
あの日、同じ電車で隣に座ったこと。
その偶然が、二人にとって一生忘れられない「運命の出会い」になっていた。
**――第4期 第5話「あの日の隣の席」 完**




