第4期 第3話 「雨の日も、君の隣で」
四月。
朝からしとしとと雨が降っていた。
駅のホームには傘を持った人たちが並び、いつもより少し静かな空気が流れている。
ユウキは改札を抜け、いつもの場所へ向かった。
「おはよう。」
少し離れたところから、優しい声が聞こえる。
「おはよう、マミ。」
マミは淡い水色の傘を閉じながら、小さく笑った。
「雨だね。」
「ああ。」
「去年もこんな日、あったよね。」
その言葉に、ユウキも思い出す。
入学して間もない頃。
雨の日に並んで電車へ乗り、偶然隣の席になったこと。
「あれから一年か。」
「早いね。」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
雨の日は乗客が多く、車内はいつもより混んでいた。
「今日は座れないかも。」
マミが小さくつぶやく。
「いや。」
ユウキは周囲を見渡す。
「もう少し待てば空く。」
長年の勘だった。
数駅後。
向かい合った四人席の窓側が二つ同時に空く。
「今。」
二人は息を合わせて席へ向かった。
「セーフ。」
「やっぱり。」
並んで座ると、マミがくすっと笑う。
「この技術だけは衰えないね。」
「最初の特技だから。」
「私たちの原点。」
二人は同時にうなずいた。
◇◇◇
学校。
二年生になって初めての小テストが返ってきた。
「九十五点。」
ユウキが答案を見る。
「すごい!」
マミは目を輝かせた。
「マミは?」
「九十三点。」
「十分高い。」
マミは嬉しそうに笑う。
「二年生も頑張れそう。」
その様子を見ていた高橋が肩をすくめる。
「相変わらず優等生カップルだな。」
「だからその言い方。」
「事実だろ?」
教室に笑いが広がった。
◇◇◇
昼休み。
雨が降っているため、今日は教室で昼食を食べる。
「屋上行けないね。」
マミが少し残念そうに窓の外を見る。
「放課後には止むらしい。」
「本当?」
「天気予報で見た。」
「じゃあ帰りは晴れるかな。」
「たぶん。」
マミは嬉しそうに微笑んだ。
◇◇◇
放課後。
予報どおり雨は止み、西の空には夕焼けが広がっていた。
「晴れた!」
マミが空を見上げる。
雨上がりの空気は少しひんやりとしていて、どこか心地よい。
駅まで歩いていると、水たまりに夕日が映っていた。
「見て。」
マミが指差す。
「空が二つ。」
「本当だ。」
二人は少しだけ立ち止まり、水面を覗き込む。
夕焼けと二人の姿が静かに映っていた。
◇◇◇
ホームで電車を待っていると、空に大きな虹が現れた。
「虹!」
マミが思わず声を上げる。
ホームにいた人たちも空を見上げている。
「きれい……。」
マミは目を輝かせた。
「今年初めて見た。」
「俺も。」
しばらく二人は何も言わず虹を眺めた。
その時間が、とても穏やかだった。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も並んで座る。
「ねぇ。」
マミが窓の外を見ながら言う。
「雨の日って。」
「前はあまり好きじゃなかった。」
「今は?」
「好き。」
「どうして?」
マミは少し照れながら笑った。
「雨の日も、ユウキと一緒だから。」
ユウキも自然と笑う。
「俺も。」
「晴れでも。」
「雨でも。」
「雪でも。」
「マミが隣なら、それだけでいい。」
その言葉に、マミは少しだけ目を潤ませた。
「……嬉しい。」
◇◇◇
改札前。
「また明日。」
「うん。」
「明日は晴れるといいね。」
「晴れても雨でも。」
ユウキが微笑む。
「またここで会おう。」
「約束。」
マミも笑顔でうなずいた。
春の雨はやがて止み、空には大きな虹が架かる。
その虹のように、二人の毎日も少しずつ色鮮やかになっていく。
出会った日から変わらない通学電車。
そして、変わらず隣にいる大切な人。
その日常こそが、二人にとって何よりの幸せだった。
**――第4期 第3話「雨の日も、君の隣で」 完**




