第4期 第2話 「恋人になって初めてのお花見」
四月最初の日曜日。
桜はちょうど満開を迎えていた。
朝九時。
駅前の時計台で待っていると、マミが小走りでやって来る。
「お待たせ!」
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
今日は制服ではない。
マミは白いブラウスに淡い水色のカーディガン、桜色のロングスカートという春らしい装いだった。
「その服。」
ユウキが微笑む。
「春っぽくて似合ってる。」
「本当?」
「うん。」
マミは照れながら髪を耳にかけた。
「ありがとう。」
「ユウキも、そのジャケット似合ってる。」
「ありがとう。」
二人は少し照れながら笑い合った。
◇◇◇
向かったのは、川沿いの桜並木。
一年前、帰り道に「来年も一緒に見よう」と約束した場所だった。
「覚えてる?」
マミが桜を見上げながら尋ねる。
「ああ。」
「去年、まだつぼみだった。」
「その時、約束した。」
「毎年一緒に見ようって。」
マミは優しく微笑む。
「約束、守れたね。」
「うん。」
◇◇◇
二人はレジャーシートを広げて座る。
「はい。」
マミが小さなお弁当箱を差し出した。
「今日は。」
「?」
「二人分作ってきたの。」
「朝早く起きたのか。」
「ちょっとだけ。」
お弁当箱の中には、おにぎりや卵焼き、唐揚げ、彩り豊かな野菜がきれいに並んでいた。
「いただきます。」
二人で手を合わせる。
「おいしい。」
ユウキが素直に言う。
「本当?」
「卵焼きが特に。」
「やった!」
マミは嬉しそうに笑った。
◇◇◇
食後。
二人は桜並木をゆっくり歩く。
風が吹くたびに、花びらが舞い落ちる。
「桜吹雪。」
「きれい。」
マミは両手を広げる。
花びらが肩や髪に舞い降りた。
「動かないで。」
「え?」
ユウキはマミの髪に付いた桜の花びらをそっと取る。
「はい。」
「ありがとう。」
マミは少し照れながら笑った。
「なんだか。」
「?」
「こういうの。」
「恋人って感じ。」
「最近よく言うな。」
「だって嬉しいんだもん。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
川辺のベンチ。
小さな子どもたちがシャボン玉で遊んでいる。
それを眺めながら、マミがぽつりと話し始めた。
「去年の春。」
「うん。」
「電車で隣に座った時は。」
「こんな未来、想像してなかった。」
「俺も。」
「友達になって。」
「恋人になって。」
「また一緒に桜を見る。」
マミは静かにユウキを見る。
「幸せ。」
その一言には、飾り気がなかった。
「俺も。」
ユウキも自然と答える。
「今が一番幸せ。」
◇◇◇
午後。
近くの屋台で桜もちと温かいお茶を買う。
「甘い。」
マミが嬉しそうに頬を緩める。
「和菓子好きだった?」
「最近好きになった。」
「大人になった?」
「まだ高校二年生です。」
ユウキが笑う。
「それもそうか。」
何気ないやり取りが心地いい。
◇◇◇
帰り道。
最寄り駅へ向かう電車。
休日でも、二人は自然と並んで座っていた。
「ねぇ。」
マミが窓の外を眺めながら言う。
「一年前。」
「ここから始まったんだね。」
「ああ。」
「電車。」
「隣の席。」
「全部。」
マミは少しだけユウキの肩にもたれた。
「これからも。」
「毎年、一緒に桜を見よう。」
ユウキは優しくうなずく。
「約束。」
「約束。」
二人は小指を絡めて指切りをした。
子どもの頃のような、小さな約束。
でも、その約束には、一年前よりもずっと深い意味があった。
◇◇◇
改札前。
「今日はありがとう。」
「こちらこそ。」
「お弁当も。」
「また作るね。」
「楽しみにしてる。」
マミは満開の桜を見上げて微笑んだ。
春は、出会いの季節。
そして二人にとっては、大切な思い出を重ねていく季節でもあった。
来年も、その次の春も。
きっと二人は、同じ景色を隣で見上げるのだろう。
**――第4期 第2話「恋人になって初めてのお花見」 完**




