第4話 「付き合ってるの?」
高校へ入学して二週間。
ユウキとマミが一緒にいる光景は、すっかり一年二組の日常になっていた。
朝は駅で待ち合わせるわけでもないのに、気づけば同じホームに立っている。
電車ではライバルとして座席を狙いながらも、最後には隣同士になることが多い。
学校では前後の席。
休み時間になればマミが振り返り、放課後になれば自然と一緒に駅へ向かう。
それが、二人にとって当たり前になっていた。
◇◇◇
「おはよう!」
教室に入ると、クラスメイトの高橋がニヤニヤしながら近づいてきた。
「ユウキ。」
「なんだ?」
「今日も一緒に登校?」
「たまたまだ。」
「またその言い訳か。」
高橋が肩をすくめる。
「毎日たまたま同じ電車で、毎日隣に座って、毎日一緒に登校?」
「……。」
「それもう運命じゃね?」
「違う。」
ユウキが即答すると、周囲から笑いが起こる。
そのタイミングでマミも教室へ入ってきた。
「おはようございます!」
「あ、噂の彼女だ。」
「え?」
マミは首をかしげる。
「ユウキと付き合ってるんだろ?」
「……え?」
一瞬、教室が静まり返る。
マミの頬がみるみる赤く染まっていく。
「ち、違います!」
慌てて両手をぶんぶん振る。
「付き合ってません!」
「本当に?」
「本当です!」
高橋はユウキを見る。
「ユウキは?」
「付き合ってない。」
「息ぴったりだな。」
また教室中が笑いに包まれる。
◇◇◇
一時間目。
先生が黒板に英単語を書いている。
その隙に、前の席のマミが小さく振り返った。
「ユウキくん……。」
「ん?」
「さっき、ごめんなさい。」
「何が?」
「私、あんなに慌てちゃって……。」
「普通だろ。」
「でも……。」
マミは少しだけ俯く。
「付き合ってるって言われるの、嫌じゃなかったですか?」
ユウキは少し考えてから答えた。
「別に。」
「え?」
「気にしてない。」
その言葉を聞いたマミは、ほっとしたように笑う。
「私も……嫌じゃなかったです。」
「……。」
二人は目が合う。
その瞬間。
「前と後ろ!」
先生の声が飛んだ。
「授業中におしゃべりするな!」
「「すみません!」」
また二人同時に返事をしてしまい、教室中が笑いに包まれた。
◇◇◇
昼休み。
中庭のベンチ。
「今日は外で食べません?」
「いいよ。」
二人は並んでお弁当を広げる。
「ユウキくんのお弁当、おいしそうですね。」
「母さんが朝作ってくれるんだ。」
「いいなぁ。」
「マミは?」
「私もです。」
「じゃあ同じだ。」
そんな何気ない会話をしていると、高橋たちが通りかかった。
「あ。」
高橋が立ち止まる。
「やっぱり一緒じゃん。」
「だから友達だって。」
「友達で毎日二人きりで昼飯?」
「……。」
「怪しい。」
高橋は笑いながら去っていく。
マミはお茶を一口飲み、小さく笑った。
「また言われちゃいましたね。」
「慣れてきた。」
「私もです。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇◇◇
放課後。
駅へ向かう途中。
「今日は私、本気で勝ちます。」
マミが宣言する。
「昨日も言ってた。」
「今日は違います。」
「根拠は?」
「秘密です。」
ホームへ着く。
マミはいつもと違う位置へ歩き始めた。
「なるほど。」
ユウキは笑う。
「車両変える気か。」
「えっ。」
「顔に書いてある。」
「そんなに分かりやすいですか?」
「かなり。」
「うぅ……。」
結局、二人は同じ車両へ乗ることになった。
◇◇◇
数駅先。
七人掛けの端の席が二つ空く。
二人は同時に動いた。
「!」
「!」
座った。
また隣同士だった。
「……。」
「……。」
二人は数秒見つめ合う。
そして同時に吹き出した。
「あはは!」
「もう笑うしかないな。」
「どうして毎回こうなるんでしょう。」
「俺にも分からない。」
マミは窓の外を見ながら微笑む。
「でも。」
「?」
「私は、この席が好きです。」
「隣だから?」
「はい。」
照れたように笑うマミ。
「ユウキくんと話してると、四十分なんてあっという間なんです。」
その言葉に、ユウキの胸が少しだけ高鳴る。
今まで、通学電車はただの「座るための勝負の場」だった。
でも今は違う。
隣にマミがいる。
それだけで、電車に乗る時間が楽しみになっていた。
駅へ到着し、二人は改札を出る。
別れ道でマミが立ち止まる。
「ユウキくん。」
「ん?」
「もし……。」
少しだけ言いにくそうに視線を泳がせる。
「また明日も、『たまたま』同じ電車だったら。」
いたずらっぽく笑う。
「隣、取ってくださいね。」
そう言い残して、小走りで帰っていく。
その後ろ姿を見送りながら、ユウキは苦笑した。
「……たまたま、か。」
その"たまたま"を、少しだけ期待している自分がいることに気づき始めていた。
**――第4話「付き合ってるの?」 完**




