第3期 第13話 「春は、また君の隣で」
二月も終わりに近づき、朝の空気は少しだけ柔らかくなっていた。
駅へ向かう道端には、小さな花が咲き始めている。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミはいつものように笑顔で駆け寄ってきた。
「もうすぐ春だね。」
「ああ。」
「去年の今頃は。」
「まだ出会ってなかった。」
二人は自然と笑った。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
今日も二人は、息を合わせるように車内を見回す。
「!」
「!」
数駅後。
並んだ二つの席へ同時に腰を下ろす。
「一年経っても。」
マミが笑う。
「この勝負だけは負けない。」
「もう勝負じゃないだろ。」
「そうだった。」
少し照れながらユウキを見る。
「ユウキの隣を取るゲーム。」
「名前変わってる。」
「こっちの方が好き。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
今日は春らしい暖かな日差しが降り注いでいた。
「久しぶり。」
マミがベンチへ座る。
「屋上。」
「冬は寒かったからな。」
「やっぱりここ好き。」
風が優しく吹く。
初めて二人でお弁当を食べた日のことを思い出す。
「懐かしい。」
「うん。」
「ここで。」
「いっぱい話した。」
「いっぱい笑った。」
「いっぱい約束した。」
マミはフェンス越しに空を見上げる。
「全部、大切な思い出。」
◇◇◇
放課後。
帰り道。
川沿いの桜並木を歩く。
まだつぼみは固い。
「あと一か月くらいかな。」
「咲くの。」
「去年は一人で見た。」
マミが小さくつぶやく。
「今年は。」
「?」
「ユウキと見られる。」
ユウキは静かに笑う。
「来年も。」
「その次も。」
「毎年見よう。」
マミは少し照れながらうなずいた。
「約束。」
◇◇◇
駅へ着く。
ホームで電車を待ちながら、マミがバッグをごそごそ探し始めた。
「はい。」
「?」
一枚の写真だった。
「これ。」
遊園地で撮った写真。
イルミネーションを背景に、笑顔の二人が写っている。
「現像したの。」
「一枚はユウキ。」
「もう一枚は私。」
ユウキは写真を大切そうに受け取る。
「ありがとう。」
「部屋に飾る。」
「私も。」
二人は照れながら笑った。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も並んで座る。
夕日が車内を優しく照らしていた。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「一年って早いね。」
「本当に。」
「春に出会って。」
「夏に恋して。」
「秋に恋人になって。」
「冬を一緒に越えた。」
「全部。」
少し照れながら微笑む。
「幸せだった。」
ユウキもゆっくりとうなずく。
「俺も。」
「マミがいたから。」
「毎日が楽しかった。」
◇◇◇
最寄り駅。
改札を出ると、夕焼け空が広がっていた。
「ユウキ。」
「ん?」
「来月で。」
「私たち。」
「二年生だね。」
「ああ。」
「クラス替え。」
少しだけ不安そうな表情になる。
「離れちゃうかな。」
ユウキは少し考えてから笑った。
「たとえクラスが別でも。」
「同じ学校。」
「同じ電車。」
「毎朝ホームで会える。」
「放課後も一緒に帰れる。」
マミの表情が少しずつ明るくなる。
「……そうだね。」
「私たち。」
「最初から電車でつながってたもんね。」
「ああ。」
ユウキは優しくうなずく。
「クラスが変わっても。」
「隣の席だけは変わらない。」
「?」
「電車の。」
マミは吹き出した。
「それ、本当にユウキらしい。」
「事実だから。」
二人は笑い合う。
◇◇◇
別れ際。
マミはそっとユウキの手を握る。
「ありがとう。」
「一年間。」
「こちらこそ。」
「来年も。」
「よろしく。」
ユウキは優しく握り返した。
「ああ。」
「ずっと。」
二人は手を離し、それぞれの帰り道へ歩き出す。
春、偶然隣に座った二人。
夏、恋を知った。
秋、恋人になった。
冬、たくさんの思い出を重ねた。
そして、また春がやってくる。
新しい学年。
新しい景色。
でも変わらないものがある。
毎朝のホーム。
通学電車。
そして、お互いの隣という特等席。
その席は、これからもずっと。
二人だけの場所だった。
**――第3期 完**




