第3期 第12話 「バレンタインは、君のために」
一月が終わり、街には少しずつ春の気配が漂い始めていた。
朝のホーム。
冷たい風は吹いているものの、冬の厳しさは少しだけ和らいでいる。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
今日も二人は自然に並んで立つ。
もう、「おはよう」と言うだけで一日が始まるのが当たり前になっていた。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
数駅後。
いつものように隣同士の席へ座る。
「ねぇ。」
マミがスマートフォンを見せる。
「もうすぐ二月十四日。」
「バレンタインか。」
「うん。」
「学校でも盛り上がりそう。」
マミは意味ありげに笑った。
「楽しみにしててね。」
「?」
「秘密。」
そう言うと窓の外へ視線を向けてしまう。
「また秘密か。」
「秘密がある方が楽しみでしょ?」
「それはそう。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
一方その頃。
放課後になると、マミは佐藤たち女子グループと駅前へ向かっていた。
「マミ、本命?」
佐藤がにやりと笑う。
「う、うん……。」
照れながらうなずく。
「初めて彼氏に渡すんでしょ?」
「失敗したくない。」
「大丈夫!」
女子たちは製菓用品店へ入り、チョコレートやラッピングを選び始めた。
「ユウキくん、甘いもの好き?」
「すごく甘いのは苦手かな。」
「じゃあビター系がいいね。」
「なるほど。」
マミは真剣な表情で材料を選んでいく。
◇◇◇
数日後。
マミの家。
「よし。」
エプロン姿でキッチンに立つ。
湯せんでチョコを溶かし、型へ流し込む。
「形は……。」
少しだけ失敗。
「あっ!」
チョコが少し欠けてしまった。
「もう一回!」
何度も作り直す。
気づけば外は夕方になっていた。
「できた。」
ようやく満足できる仕上がりになり、マミはほっと笑った。
「ユウキ、喜んでくれるかな。」
◇◇◇
そして迎えた二月十四日。
教室は朝からそわそわしていた。
「今年何個もらえるかな!」
「義理でもいい!」
「男子って単純。」
女子たちは笑っている。
マミも少し落ち着かない様子だった。
バッグの中には、小さく包装された箱が入っている。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
二人きり。
「ユウキ。」
「ん?」
マミは深呼吸をした。
「はい。」
小さな紙袋を差し出す。
「バレンタイン。」
「……。」
「いつもありがとう。」
「それから。」
少し照れながら笑う。
「大好き。」
その一言に、ユウキは一瞬言葉を失う。
「ありがとう。」
大切そうに受け取る。
「開けてもいい?」
「うん。」
箱の中には、星形のチョコレートが並んでいた。
中央には、小さな白いうさぎと茶色いくまのチョコ。
「これ。」
ユウキが笑う。
「俺たちのストラップ。」
「気づいてくれた!」
マミの顔がぱっと明るくなる。
「嬉しい。」
「食べるのもったいない。」
「ちゃんと食べて。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
放課後。
帰りの電車。
今日も並んで座る。
「どうだった?」
マミが少し不安そうに聞く。
「チョコ。」
「おいしかった。」
「本当?」
「ああ。」
「今まで食べた中で一番。」
「……。」
マミは耳まで真っ赤になる。
「そんなこと言われたら。」
「また作りたくなる。」
「来年も楽しみ。」
「もう予約?」
「一年後だけど。」
二人は笑った。
◇◇◇
改札前。
「そうだ。」
ユウキはバッグから小さな袋を取り出した。
「え?」
「お礼。」
「まだホワイトデーじゃ。」
「今日はこれだけ。」
中には、小さな猫のキーホルダーが入っていた。
白いうさぎと茶色いくまの隣に付けられる、小さな三毛猫だった。
「かわいい!」
「見つけた時。」
ユウキが少し照れながら言う。
「マミが好きそうだと思って。」
マミは大事そうに胸へ抱く。
「ありがとう。」
「すごく嬉しい。」
そして少しだけ近づき、小さな声で言った。
「来月のホワイトデーも。」
「楽しみにしてる。」
「プレッシャーだな。」
「えへへ。」
笑い合う二人。
夕暮れのホームへ電車が滑り込む。
恋人になって初めてのバレンタイン。
手作りチョコに込めた想いは、言葉以上にまっすぐユウキへ届いていた。
そして、季節は少しずつ春へ向かっていく。
**――第3期 第12話「バレンタインは、君のために」 完**




