第3期 第8話 「雪が降る帰り道」
十二月。
吐く息が白く染まる季節になった。
朝のホームには、マフラーや手袋を身につけた人が増えている。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
マミは白いマフラーに顔を少し埋めながら微笑んだ。
「寒いね。」
「今年一番らしい。」
「冬が来たね。」
二人は肩を並べ、快速電車を待つ。
ホームに吹く冷たい風さえ、一緒なら不思議と苦にならなかった。
◇◇◇
電車に乗り込む。
今日も息を合わせるように空席を見つけ、並んで座る。
「ねぇ。」
マミが手袋を外しながら言う。
「手、冷たい。」
「カイロ使う?」
「今日は忘れちゃった。」
ユウキはポケットからカイロを取り出して差し出す。
「はい。」
「また予備?」
「習慣になった。」
マミは受け取ると、嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
「今度は私も持ってくるね。」
◇◇◇
昼休み。
今日は屋上ではなく図書室。
暖房の効いた静かな空間で、お弁当を食べていた。
「冬はここが一番。」
マミが温かいお茶を飲む。
「屋上が恋しいけど。」
「春になったらまた行こう。」
「うん。」
マミは微笑んだ。
「春、夏、秋、冬。」
「全部ユウキと過ごせるなんて。」
「去年の私は想像もしてなかった。」
ユウキも静かにうなずく。
「俺も。」
◇◇◇
放課後。
空を見ると、どんよりとした灰色の雲が広がっていた。
「降りそう。」
「雨かな。」
駅へ向かって歩いていると。
「……あ。」
マミが空を見上げる。
白いものが、ひらりと舞った。
「雪。」
一粒。
また一粒。
やがて細かな雪が静かに降り始める。
「初雪だ。」
「きれい……。」
二人は思わず足を止めた。
制服の肩に、雪がふわりと積もる。
すぐに溶けて消えてしまう小さな結晶。
マミは両手を空へ伸ばした。
「初雪、一緒に見られた。」
嬉しそうに笑う。
◇◇◇
駅まであと少し。
「寒い?」
ユウキが尋ねる。
「少し。」
「マフラーちゃんと巻いた?」
「うん。」
そう答えたものの、首元が少し緩んでいる。
「じっとして。」
「え?」
ユウキはそっとマミのマフラーを整えた。
「これで大丈夫。」
「……ありがとう。」
マミは恥ずかしそうに目を伏せる。
「なんだか。」
「?」
「恋人って感じ。」
「今さら?」
「今さらです。」
二人は笑った。
◇◇◇
ホームへ着く。
電車を待っている間も雪は降り続いていた。
「積もるかな。」
「夜なら少し。」
「明日の朝、雪景色だったらいいな。」
「その時は。」
ユウキが笑う。
「ホームで雪だるまは作れないぞ。」
「分かってます。」
マミは吹き出した。
「小さいのなら作れるかも。」
「駅員さんに怒られる。」
「確かに。」
他愛ない会話が、とても楽しい。
◇◇◇
帰りの電車。
窓の外を雪が流れていく。
車内は暖かく、心地よい空気が流れていた。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「今日ね。」
「うん。」
「初雪を見た時。」
「一番最初に思ったことがあるの。」
「何?」
「ユウキと一緒でよかった。」
ユウキは少し照れながら笑う。
「俺も。」
「本当?」
「ああ。」
「一人だったら、こんなに嬉しくなかった。」
マミはその言葉を聞いて、幸せそうに目を細めた。
◇◇◇
改札前。
「もうすぐクリスマスだね。」
「あと二週間。」
「楽しみ。」
「俺も。」
マミは少しだけ近づいて、小さく手を差し出す。
「今日は。」
「?」
「少しだけ。」
二人は人目の少ない場所で、そっと手をつないだ。
冷えた指先が、少しずつ温かくなっていく。
「温かい。」
「うん。」
マミは微笑む。
「雪の日も。」
「ユウキの隣なら寒くない。」
ユウキは照れながら笑った。
「俺も同じ。」
初雪が静かに街を白く染めていく。
春に始まった二人の物語は、四つ目の季節を迎えていた。
そして次に待っているのは、恋人になって初めて迎える特別なクリスマス。
二人はその日を、心から楽しみにしていた。
**――第3期 第8話「雪が降る帰り道」 完**




