第3期 第6話 「風邪の日、会いたくて」
十一月。
朝から冷たい雨が降っていた。
窓を打つ雨音を聞きながら、ユウキはゆっくりと目を開ける。
「……。」
体が重い。
頭も少し熱い。
「風邪、か。」
熱を測ると三十七度八分。
無理をすれば学校へ行けなくはない。
でも母に止められ、その日は欠席することになった。
◇◇◇
一方その頃。
いつもの駅のホーム。
マミは人混みの中を見回していた。
「……あれ?」
いつもなら、もうユウキがいる時間。
でも姿が見えない。
「寝坊かな。」
少し待ってみる。
それでも現れない。
快速電車がホームへ入ってきた。
「……。」
マミは少しだけ寂しそうに電車へ乗り込んだ。
いつも二人で座る席。
今日は一人だった。
窓の外を見ながら、小さくつぶやく。
「早く元気になってね。」
自分でも驚くくらい、自然に言葉がこぼれていた。
◇◇◇
学校。
教室へ入ると、高橋が声をかける。
「あれ?」
「今日はユウキ休みだ。」
「え?」
マミは思わず立ち止まる。
「風邪らしい。」
「そうなんだ……。」
その瞬間から、マミは何となく落ち着かなかった。
前の席を振り返っても、ユウキはいない。
昼休みになっても、屋上へ行く相手がいない。
放課後になっても、一緒に帰る人がいない。
たった一日。
それだけなのに、とても長く感じた。
◇◇◇
放課後。
マミは駅へ向かう途中、コンビニへ立ち寄った。
スポーツドリンク。
ゼリー飲料。
のど飴。
「これください。」
店員に袋を受け取る。
そしてスマートフォンを取り出した。
『大丈夫?』
『熱あるって聞いたよ。』
少しして返信が届く。
『少し熱あるけど大丈夫。』
『明日には行けそう。』
その文字を見て、マミはほっと息をついた。
『無理しないでね。』
『ありがとう。』
◇◇◇
翌日。
朝のホーム。
ユウキは少し早めに到着していた。
「おはよう!」
マミは姿を見つけると、小走りで駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「熱下がった。」
「本当に?」
「うん。」
「よかった……。」
マミは心から安心したように微笑む。
その表情を見て、ユウキは少し照れながら言った。
「そんなに心配してた?」
「もちろん。」
「だって。」
少し恥ずかしそうに笑う。
「ユウキがいない学校、すごく寂しかった。」
その言葉に、ユウキの胸が温かくなる。
「俺も。」
「え?」
「家にいて、一番思った。」
「早く学校行きたいって。」
「マミに会いたかったから。」
マミは耳まで真っ赤になった。
「もう……。」
「朝からそんなこと言う。」
「本当だから。」
二人とも照れながら笑った。
◇◇◇
快速電車へ乗る。
数駅後。
今日も自然と隣同士。
「やっぱり。」
マミが小さくつぶやく。
「この席が落ち着く。」
「俺も。」
「昨日、一人で座ってたら。」
「うん。」
「隣が空いてるのに、なんだか変だった。」
ユウキも静かにうなずく。
「俺も、家で思ってた。」
「電車乗りたいって。」
「マミの隣に座りたいって。」
マミは照れながら笑った。
「私も。」
◇◇◇
昼休み。
教室でお弁当を食べ終えると、マミがバッグから小さな包みを取り出した。
「はい。」
「?」
「昨日渡せなかったもの。」
袋の中には、スポーツドリンクとゼリー飲料。
「昨日買ったの。」
「ありがとう。」
「でも。」
少し頬を膨らませる。
「もう元気だから使わないかも。」
「その時は私が飲む。」
「なんだそれ。」
二人は笑い合った。
◇◇◇
放課後。
夕焼けに染まるホーム。
電車を待ちながら、マミがぽつりと言う。
「風邪、気をつけてね。」
「ああ。」
「もうユウキがいない一日は嫌。」
その言葉は小さかった。
でも、ユウキにははっきり届いた。
ユウキはそっとマミの頭を軽くなでる。
「えっ……。」
マミは驚いて目を丸くする。
「もう風邪ひかないようにする。」
照れ隠しのように笑うユウキ。
マミは一瞬固まったあと、頬を赤く染めて微笑んだ。
「約束だからね。」
「ああ。」
快速電車がホームへ滑り込む。
二人は今日も並んで席へ座る。
たった一日離れただけ。
それなのに、お互いの大切さを改めて知ることができた。
恋人になって初めての、小さな試練。
そしてそれは、二人の心の距離をさらに近づける一日になった。
**――第3期 第6話「風邪の日、会いたくて」 完**




