第3期 第4話 「秋の遠足と恋人の距離」
十月。
朝の空気はすっかり涼しくなり、制服の上にカーディガンを羽織る生徒も増えてきた。
いつもの駅のホーム。
「おはよう、ユウキ。」
「おはよう、マミ。」
マミは胸元で揺れる白いうさぎのストラップを見せるようにスマートフォンを取り出した。
「今日も一緒。」
「俺も。」
ユウキも茶色いくまのストラップを軽く持ち上げる。
二人は自然と笑顔になった。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
「今日は勝負?」
マミが首をかしげる。
「久しぶりに。」
「負けないよ。」
数駅後。
「!」
「!」
やはり今日も並んで座ることになった。
「引き分け。」
「もう勝敗つかないね。」
「最初から隣を狙ってるから。」
ユウキが言うと、マミは照れながら笑った。
「私も。」
◇◇◇
学校へ着くと、担任が教室でプリントを配り始めた。
「来週の金曜日、校外学習を行う。」
教室がざわめく。
「行き先は市内の自然公園。」
「班ごとにウォークラリーをする。」
「お弁当持参。」
「やったー!」
教室は一気に盛り上がった。
マミは後ろを振り返る。
「ユウキ。」
「ん?」
「同じ班だよね?」
「もちろん。」
「よかった。」
その笑顔だけで、遠足が楽しみになった。
◇◇◇
そして迎えた校外学習当日。
青空が広がる絶好の遠足日和だった。
自然公園には色づき始めた木々が並び、秋風が心地よく吹いている。
「きれい。」
マミが紅葉を見上げる。
「もう秋だね。」
「夏が終わるの早かった。」
「でも。」
マミは笑う。
「秋も好き。」
「どうして?」
「ユウキと見る景色が増えるから。」
その一言に、ユウキは少し照れながら笑った。
◇◇◇
ウォークラリーが始まる。
「最初はこっち!」
高橋が地図を広げる。
「チェックポイントまで五百メートル!」
一行は山道を歩き始めた。
途中、小さな丸太橋が現れる。
「気をつけて。」
先生が声をかける。
マミが慎重に渡ろうとした、その時。
「わっ。」
足元が少し滑った。
ユウキはすぐに手を差し出す。
「大丈夫?」
「ありがとう。」
マミはその手を握り、ゆっくり橋を渡る。
向こう岸へ着いても、少しだけ手をつないだままだった。
「……。」
「……。」
高橋が後ろから笑う。
「もう隠す気ないな。」
「違っ!」
マミは慌てて手を離す。
班のみんなが笑い出した。
「仲良しだな。」
その言葉に、二人とも照れ笑いするしかなかった。
◇◇◇
昼休み。
芝生の広場。
班のみんなで輪になってお弁当を食べる。
「マミのお弁当、おいしそう。」
女子が言う。
「ありがとう。」
「ユウキは?」
「いつも通り。」
「交換しよう!」
気づけば、みんなでおかず交換大会になっていた。
「ユウキ。」
マミが小さな卵焼きを差し出す。
「これ。」
「ありがとう。」
「その唐揚げ、一個ください。」
「どうぞ。」
二人のやり取りを見ていた高橋が笑う。
「もう夫婦みたい。」
「ぶっ!」
ユウキはお茶を吹きそうになった。
「高橋!」
「冗談冗談!」
周りも笑い声に包まれる。
マミは顔を真っ赤にしながらも、小さく笑っていた。
◇◇◇
帰り道。
学校へ戻るバス。
二人は隣同士の席になった。
歩き疲れたのか、マミは窓にもたれながら小さくあくびをする。
「眠い?」
「少し。」
「寝てもいいよ。」
「でも。」
「起こして。」
「分かった。」
数分後。
マミは静かに眠ってしまった。
バスが揺れるたびに肩が触れる。
ユウキはそっと姿勢を変え、マミが揺れないように支えた。
「……。」
窓から差し込む秋の日差し。
穏やかな寝息。
その時間が、とても愛おしかった。
◇◇◇
学校へ戻り、解散。
駅へ向かう道。
「ごめんね。」
マミが照れながら笑う。
「寝ちゃった。」
「疲れてたんだろ。」
「肩、大丈夫だった?」
「問題ない。」
「ありがとう。」
マミは少しだけ立ち止まる。
「ねぇ。」
「?」
「恋人になってから。」
「うん。」
「毎日もっと好きになってる。」
ユウキは驚きながらも微笑んだ。
「俺も。」
短い言葉。
でも、その一言だけでマミは嬉しそうに笑った。
夕暮れのホームに電車が滑り込む。
二人は今日も並んで席へ座る。
最初は偶然だった隣の席。
今は、自分たちで選ぶ「特等席」。
秋風とともに、二人の恋も少しずつ深まっていくのだった。
**――第3期 第4話「秋の遠足と恋人の距離」 完**




