第2期 第12話 「この気持ちを伝えたい」
九月。
二学期が始まって一週間が過ぎた。
朝の風はまだ暑い。
それでも、どこか夏の終わりを感じさせる空気が流れていた。
今日もユウキとマミは同じホームに立っている。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
もう探さなくても、お互いの姿はすぐに見つけられる。
それが当たり前になっていた。
◇◇◇
快速電車へ乗り込む。
数駅先。
いつものように二人並んで座る。
「ねぇ。」
マミが窓の外を眺めながら話しかける。
「覚えてる?」
「何を?」
「最初の日。」
「ああ。」
「座席争奪戦。」
二人は同時に笑った。
「あの頃は。」
マミが少し照れながら続ける。
「毎日こんな風になるなんて思わなかった。」
「俺も。」
「隣が当たり前になるなんて。」
「そうだな。」
しばらく静かな時間が流れる。
電車の揺れだけが二人を包んでいた。
◇◇◇
昼休み。
屋上。
二人でお弁当を食べ終えると、マミがベンチにもたれながら空を見上げた。
「秋の空って好き。」
「高いよな。」
「うん。」
「なんだか気持ちも落ち着く。」
少し沈黙が流れる。
その静けさも心地よかった。
「ユウキ。」
「ん?」
「最近ね。」
「?」
「お母さんに。」
「またユウキくんの話?って言われるの。」
「そんなに話してる?」
「うん。」
照れくさそうに笑う。
「今日こんなことがあったよ、とか。」
「一緒に帰ったよ、とか。」
「屋上でお昼食べたよ、とか。」
「気づいたら全部ユウキがいる話になってる。」
ユウキは少しだけ胸が熱くなる。
「俺も。」
「え?」
「家で今日のこと聞かれると。」
「マミがこう言ってた、とか。」
「また一緒に帰った、とか。」
「そんな話ばかりしてる。」
マミは驚いたように目を丸くしたあと、ふわっと笑った。
「一緒だね。」
「ああ。」
◇◇◇
放課後。
文化祭の準備が始まり、教室は少し慌ただしくなっていた。
「段ボールこっち!」
「画用紙足りない!」
「机運んで!」
ユウキが荷物を運んでいると、脚立の上で飾り付けをしていたマミが声をかける。
「ユウキ!」
「ん?」
「テープ取って!」
「はい。」
手を伸ばした、その時。
「きゃっ!」
脚立が少し揺れた。
ユウキは反射的に脚立を支える。
「大丈夫?」
「う、うん。」
マミは胸をなで下ろした。
「ありがとう。」
「気をつけろ。」
「うん。」
脚立から降りると、マミは小さく笑った。
「今日も助けてもらっちゃった。」
「たまたま近くにいただけ。」
「その『たまたま』で、何回助けられたんだろ。」
そう言って微笑む。
◇◇◇
帰りの電車。
夕日が差し込む車内。
今日も隣同士。
「ねぇ。」
マミがぽつりと言う。
「もし。」
「?」
「高校が違ったら。」
「出会ってなかったよね。」
「そうだな。」
「同じ電車でも。」
「話さなかったかもしれない。」
「うん。」
マミは少しだけ寂しそうに笑った。
「そう考えると。」
「?」
「今こうして隣にいられることって、奇跡みたい。」
ユウキは静かにうなずく。
「奇跡だな。」
その言葉に、マミは嬉しそうに笑った。
◇◇◇
最寄り駅。
改札前で立ち止まる。
「ユウキ。」
「ん?」
「文化祭。」
「うん。」
「楽しもうね。」
「ああ。」
少しだけ間が空く。
マミは何か言いたそうにユウキを見つめる。
「……。」
「……。」
でも結局、小さく笑って手を振った。
「また明日。」
「また明日。」
マミの後ろ姿が見えなくなる。
ユウキはその場で小さく息をついた。
(もう、ごまかせない。)
毎日一緒にいたい。
笑顔を見ていたい。
誰よりも近くで。
誰にも譲りたくない。
(文化祭が終わったら。)
ユウキは心の中で決める。
(ちゃんと伝えよう。)
"好き"という、たった二文字の想いを。
一方その頃。
家へ帰る途中のマミも、夕焼け空を見上げていた。
(文化祭が終わったら。)
ぎゅっとバッグを握る。
(私も勇気を出そう。)
二人はまだ知らない。
同じ日に、同じ決意をしていることを。
そして、その想いが、もうすぐ一つになることを。
**――第2期 第12話「この気持ちを伝えたい」 完**




