第2期 第10話 「君を意識する夏」
海へ行った日から数日。
夏休みも終わりが近づいていた。
それなのに、ユウキの頭の中には、あの日のことばかり浮かんでいた。
夕焼けの海。
楽しそうに笑うマミ。
電車で肩にもたれて眠っていた横顔。
「……。」
勉強をしていても。
本を読んでいても。
ふとした瞬間に思い出してしまう。
「完全に……。」
ユウキは天井を見上げた。
「意識してるな。」
その言葉を口にした瞬間、自分で少し驚いた。
◇◇◇
翌日。
マミからメッセージが届く。
『宿題、終わった?』
『あと少し。』
『私も!』
『一緒に図書館でラストスパートしない?』
『いいよ。』
『やった!』
短いやり取りだけなのに、自然と笑顔になる。
◇◇◇
図書館。
夏休み終盤ということもあり、自習スペースは学生でいっぱいだった。
「空いてるかな。」
「奥なら座れそう。」
二人は並んで席に着く。
黙々と宿題を進める。
静かな時間。
ページをめくる音だけが聞こえる。
それでも、不思議と居心地がよかった。
◇◇◇
一時間後。
「終わった!」
マミが小さくガッツポーズをする。
「全部終わった!」
「お疲れ。」
「ユウキも?」
「終わった。」
「やった!」
二人は小さくハイタッチをした。
パンッ。
その音が静かな図書館で少し響き、慌てて顔を見合わせる。
「……。」
「……。」
二人とも小さく笑って頭を下げた。
◇◇◇
図書館を出る。
夏の日差しは少しだけ柔らかくなっていた。
「ご褒美!」
マミが元気よく言う。
「アイス?」
「今日はパフェ!」
「豪華だな。」
「宿題終わった記念!」
二人は駅前のカフェへ入った。
窓際の席。
運ばれてきたのは、大きなフルーツパフェだった。
「おいしそう!」
「すごいな。」
マミは嬉しそうに写真を撮る。
「はい、ユウキ。」
「ん?」
「一緒に。」
二人で並んでパフェの写真を撮る。
「思い出、また増えたね。」
「そうだな。」
◇◇◇
帰り道。
公園のベンチで少し休憩する。
夕日が木々を赤く染めていた。
「ねぇ。」
マミが空を見上げる。
「もうすぐ二学期だね。」
「ああ。」
「また毎日学校で会える。」
「朝も。」
「帰りも。」
「電車も。」
マミは嬉しそうに笑った。
「やっぱり学校ある方が好き。」
「俺も。」
「どうして?」
ユウキは少し考える。
「……マミに毎日会えるから。」
言ったあとで、自分でも照れてしまった。
「あ。」
「……。」
マミは目を丸くしたまま固まっている。
数秒後。
頬がゆっくり赤く染まっていった。
「……私も。」
小さな声だった。
「毎日会える方が、嬉しい。」
二人とも照れてしまい、それ以上何も言えなかった。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も隣同士。
夕焼けを眺めながら、マミがぽつりと話し始める。
「お母さんがね。」
「?」
「最近、毎日楽しそうだねって。」
「へぇ。」
「どうしてだと思う?って聞かれて。」
少し笑う。
「高校が楽しいからって答えた。」
「本当だし。」
「うん。」
マミはユウキを見る。
「でも、本当は。」
一度だけ言葉を止める。
「ユウキと出会えたから。」
その笑顔は、どこまでも優しかった。
ユウキは胸の鼓動が速くなるのを感じる。
もう、ごまかせない。
この気持ちは、友達に向けるものではない。
マミが笑うと嬉しい。
会えない日は寂しい。
隣にいると安心する。
もっと一緒にいたいと思う。
(俺は……。)
心の中で、静かに答えが出る。
(マミが好きなんだ。)
◇◇◇
改札前。
「また明日……じゃないね。」
マミが少し寂しそうに笑う。
「始業式で。」
「ああ。」
「楽しみにしてる。」
「俺も。」
二人は手を振って別れる。
歩きながら、ユウキは夕焼けの空を見上げた。
恋なんて、自分にはまだ早いと思っていた。
でも違った。
いつの間にか、電車の席よりも。
勝負よりも。
何よりも大切な存在になっていた。
その想いを、いつかちゃんと伝えたい。
そう強く思った夏の終わりだった。
**――第2期 第10話「君を意識する夏」 完**




