第2期 第9話 「海へ行こう!」
八月。
夏休みも半分を過ぎようとしていた。
朝九時。
ユウキのスマートフォンが軽やかな通知音を鳴らす。
『おはよう、ユウキ!』
『今日は暑いね~。』
『そうだ!』
『海、行かない?』
メッセージを読んだユウキは思わず笑う。
『急だな。』
数秒後。
『思いついちゃった!』
『天気いいし!』
『行こう。』
短く返信すると、すぐに返事が届いた。
『やったー!!』
◇◇◇
待ち合わせは、いつもの駅前。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ!」
マミは麦わら帽子をかぶり、白いワンピースの上に薄いパーカーを羽織っていた。
肩には大きめのトートバッグ。
「準備いいな。」
「日焼け対策です!」
「大事だな。」
「ユウキも帽子かぶればよかったのに。」
「忘れた。」
「もう。」
マミはくすっと笑った。
◇◇◇
電車に揺られて約一時間。
車窓から青い海が見え始める。
「見えてきた!」
マミは子どものように窓へ顔を近づけた。
「海!」
「本当に青い。」
最寄り駅で降りると、潮風が二人を迎える。
「夏って感じだね。」
「ああ。」
◇◇◇
更衣室で着替えを済ませ、砂浜で合流する。
「お待たせ。」
ユウキが振り向く。
そこには、水色のワンピースタイプの水着に白いラッシュガードを羽織ったマミが立っていた。
「どう……かな?」
少し照れたように裾をつまむ。
ユウキは一瞬だけ言葉を失う。
「似合ってる。」
自然と口から出た言葉だった。
「本当に?」
「ああ。」
「ありがとう。」
マミは耳まで赤くなりながら笑った。
「ユウキも似合ってるよ。」
「海だからな。」
「ふふっ。」
二人は顔を見合わせて笑う。
◇◇◇
波打ち際。
「冷たい!」
マミが足だけ海へ入る。
「気持ちいい!」
「泳がないの?」
「もう少ししてから。」
その瞬間。
パシャッ!
「!」
ユウキが海水をかけられる。
「マミ。」
「えへへ。」
「先制攻撃です。」
「そういうことか。」
ユウキも少しだけ海水をすくう。
「え?」
「待って。」
「きゃっ!」
今度はマミが水を浴びる番だった。
「冷たーい!」
砂浜に笑い声が響く。
◇◇◇
一時間ほど遊んだあと。
二人はパラソルの下で休憩していた。
「疲れたぁ。」
マミがスポーツドリンクを飲む。
「泳ぐの久しぶり。」
「俺も。」
風が心地よく吹き抜ける。
「ねぇ。」
マミが海を見つめながら言った。
「去年の夏は、こんなこと想像もしてなかった。」
「俺も。」
「高校に入って。」
「ユウキと出会って。」
「海に来て。」
少しだけ照れながら笑う。
「毎日が楽しい。」
ユウキは静かにうなずいた。
「俺も。」
◇◇◇
昼食は海の家。
「焼きそば!」
「また?」
「お祭りでも食べたもん。」
「好きなんだな。」
「大好き。」
マミは幸せそうに焼きそばを頬張る。
その表情を見ているだけで、ユウキまで笑顔になってしまう。
◇◇◇
帰る前。
二人は砂浜をゆっくり歩いていた。
夕日が海をオレンジ色に染めている。
「きれい……。」
マミが立ち止まる。
「写真撮ろう。」
「いいね。」
二人は海を背景にスマートフォンで写真を撮る。
「一枚目、変な顔だった。」
「笑いすぎ。」
「もう一枚!」
結局、何枚も撮ることになった。
「この写真、大切にする。」
マミが嬉しそうに画面を見る。
「私の宝物。」
その言葉に、ユウキは少し照れながら笑った。
◇◇◇
帰りの電車。
遊び疲れたマミは、座るとすぐに眠ってしまった。
「……。」
電車が揺れるたび、小さく体が傾く。
ユウキはそっと自分の肩を近づけた。
マミの頭が軽く肩にもたれかかる。
起こさないように静かに座る。
しばらくして。
「……ん。」
マミがゆっくり目を開けた。
「ご、ごめん!」
慌てて体を起こす。
「寝ちゃってた。」
「疲れてたんだろ。」
「肩、痛くなかった?」
「大丈夫。」
マミは恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。」
その笑顔は夕日よりも優しかった。
◇◇◇
改札前。
「今日はありがとう。」
「こちらこそ。」
「海、また来たいね。」
「ああ。」
マミは少し照れながら笑う。
「次は……。」
「?」
「また違う思い出、作ろうね。」
ユウキはゆっくりとうなずいた。
「もちろん。」
夏休みはまだ終わらない。
でも、この夏はもう十分すぎるほど特別だった。
その特別な時間のすべてに、マミがいた。
そしてマミにとっても、その隣にいるのはいつもユウキだった。
**――第2期 第9話「海へ行こう!」 完**




