第2期 第8話 「あの日から少しだけ」
花火大会から三日。
夏休みはまだ続いている。
それなのに、ユウキはここ数日、落ち着かなかった。
理由は分かっている。
(あの日……。)
花火大会の帰り道。
人混みではぐれないように、マミと手をつないだ。
ほんの数分のこと。
でも、その感触だけは、今でもはっきり覚えていた。
「……重症だな。」
自分で苦笑してしまう。
◇◇◇
その日の午後。
マミからメッセージが届いた。
『今日、少しだけ会えない?』
『駅前のカフェに新作のかき氷があるんだって!』
ユウキはすぐに返信する。
『行こう。』
『やった!』
画面越しでも、マミが喜んでいる様子が伝わってきた。
◇◇◇
駅前のカフェ。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
マミは白いブラウスにデニムのスカート。
肩から小さなショルダーバッグを下げていた。
「待った?」
「今来た。」
「その返事、好きだね。」
「定番だから。」
また二人で笑う。
◇◇◇
二人は期間限定のいちごミルクかき氷を注文した。
「大きい……。」
運ばれてきたかき氷は、二人で食べても十分なほどの大きさだった。
「食べきれるかな。」
「たぶん。」
マミが一口食べる。
「冷たっ!」
頭を押さえる姿に、ユウキは思わず笑った。
「笑わないで。」
「ごめん。」
「ユウキも食べて。」
「うん。」
二人で一つのかき氷を食べ進める。
自然とスプーンを渡し合う。
その距離が近いことに、二人とも少しだけ照れていた。
◇◇◇
店を出たあと、公園の木陰で休憩する。
蝉の声が響く。
風鈴の音がどこからか聞こえてきた。
「ねぇ。」
マミがベンチに座りながら言う。
「花火大会、楽しかったね。」
「ああ。」
「実はね。」
「?」
「帰ってから、お母さんに言われたの。」
「なんて?」
マミは少し恥ずかしそうに笑う。
「『好きな子と行ってきたの?』って。」
「……。」
ユウキの動きが止まる。
「もちろん違うって言ったよ?」
「そう。」
「でも。」
少しだけ空を見上げる。
「どうしてそんなこと聞かれたんだろうって考えちゃって。」
沈黙が流れる。
蝉の声だけが聞こえる。
「ユウキは?」
「ん?」
「誰かに何か言われた?」
「高橋から。」
「やっぱり。」
「『もう付き合えよ』って。」
マミは吹き出した。
「高橋くんらしい。」
二人は笑い合う。
◇◇◇
しばらく歩いていると、小さなゲームセンターを見つけた。
「入ってみる?」
「いいね。」
店内にはクレーンゲームが並んでいる。
「見て!」
マミが指さした先には、花火大会でもらった白いウサギのぬいぐるみと同じシリーズが並んでいた。
「仲間だ。」
「本当だ。」
「挑戦する?」
「してみる。」
ユウキが挑戦するが、惜しくも取れない。
「難しいな。」
「私も!」
マミも挑戦する。
一回目。
失敗。
二回目。
アームがぬいぐるみを少しだけ動かした。
「あと少し!」
三回目。
ころん、と景品口へ落ちた。
「やった!」
マミは子どものようにはしゃぐ。
「取れた!」
店員から受け取ったのは、小さな茶色のクマのぬいぐるみだった。
「これ。」
マミはユウキへ差し出す。
「え?」
「この前はユウキがくれたから。」
「お返し。」
「ありがとう。」
「白いうさぎと並べたら、友達だね。」
「そうだな。」
二人は笑顔を交わした。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も自然と隣同士。
窓の外では夕日がゆっくり沈んでいく。
「ねぇ、ユウキ。」
「ん?」
「この前。」
「花火大会。」
「手、つないだでしょ。」
「……。」
「……。」
二人とも急に照れてしまう。
「ご、ごめん。」
ユウキが言いかけると、マミは首を横に振った。
「違うの。」
「?」
「ありがとうって、ちゃんと言ってなかったなって。」
「……。」
「私。」
少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「あの時、すごく安心した。」
その言葉に、ユウキも自然と笑みを浮かべる。
「俺も。」
「え?」
「マミが無事でよかったって思った。」
マミは少しだけ目を潤ませながら微笑んだ。
「優しいね。」
「普通。」
「その普通が嬉しいの。」
◇◇◇
改札前。
「またね。」
「また。」
手を振り合う。
歩き出してから、ユウキはポケットの中の茶色いクマのぬいぐるみをそっと握った。
一方、マミもバッグにつけた白いウサギのぬいぐるみを見つめて微笑む。
二人だけが持つ、おそろいの思い出。
その小さなぬいぐるみは、言葉にできない気持ちを静かに結びつけていた。
そして、その気持ちはもう、「友達」という言葉だけでは表せなくなり始めていた。
**――第2期 第8話「あの日から少しだけ」 完**




