第2期 第7話 「夏祭り、君と歩く夜」
花火大会当日。
朝から快晴だった。
窓の外には、どこまでも青い夏空が広がっている。
ユウキは時計を見ながら、何度も落ち着かない様子で部屋を歩いていた。
「……まだ早いな。」
待ち合わせは午後五時。
それなのに、一時間も前から準備を終えてしまっていた。
「こんなに緊張するなんて。」
自分でも少し笑ってしまう。
◇◇◇
午後五時。
駅前の時計台。
休日ということもあり、浴衣姿の人たちで賑わっていた。
ユウキが辺りを見回していると——
「ユウキ。」
優しい声が聞こえた。
振り向いた瞬間、思わず言葉を失う。
マミが浴衣姿で立っていた。
淡い水色の浴衣に、小さな朝顔の柄。
髪はいつもより少し高い位置でまとめられ、小さな髪飾りが揺れている。
「どう……かな?」
少し不安そうに尋ねるマミ。
ユウキは数秒黙ったまま見つめてしまった。
「……すごく似合ってる。」
「本当に?」
「うん。」
「ありがとう。」
マミはほっとしたように微笑んだ。
「ユウキも、その服似合ってるよ。」
「ありがとう。」
二人とも少し照れながら笑い合う。
◇◇◇
会場へ向かう道。
屋台から漂うソースや甘い綿菓子の香り。
子どもたちの笑い声。
祭り囃子。
「すごい人だね。」
「毎年こんな感じらしい。」
歩いていると、人混みで肩がぶつかりそうになる。
「危ない。」
ユウキは自然にマミの少し前へ出た。
「はぐれないように。」
「うん。」
マミは小さくうなずく。
その距離が少しだけ近くなった。
◇◇◇
「最初は何食べる?」
「焼きそば!」
「即答だな。」
「お祭りといえば焼きそばです。」
二人で焼きそばを買い、近くのベンチへ座る。
「おいしい!」
「屋台の味って不思議だよな。」
「家では出せない味。」
二人は笑いながら食べ進める。
そのあとも、たこ焼き、かき氷、りんご飴。
「食べ過ぎじゃない?」
「今日は特別!」
そう言って笑うマミを見ているだけで、ユウキまで楽しくなる。
◇◇◇
射的の屋台。
「やってみたい!」
マミが目を輝かせる。
「得意?」
「初めて。」
「じゃあ挑戦。」
マミは真剣な表情で狙いを定める。
パンッ。
コルク玉は景品の手前で落ちた。
「あぁ……。」
「惜しい。」
「難しいね。」
次はユウキの番。
狙いを定める。
パンッ。
小さなぬいぐるみが棚から落ちた。
「やった!」
店員から受け取ったのは、小さな白いウサギのぬいぐるみだった。
「はい。」
ユウキはそのままマミへ差し出す。
「え?」
「記念。」
「でも……。」
「俺一人じゃいらないし。」
マミは両手で大切そうに受け取る。
「ありがとう。」
その笑顔は、花火よりも輝いて見えた。
◇◇◇
やがて会場の照明が少し落ちる。
アナウンスが流れた。
「まもなく花火大会を開始いたします。」
二人は河川敷へ移動する。
芝生に並んで座る。
「始まるね。」
「ああ。」
その瞬間。
ドンッ——。
夜空に大きな花火が咲いた。
「きれい……。」
赤。
青。
金色。
次々と夜空を彩る花火に、人々から歓声が上がる。
マミは夢中になって空を見上げていた。
その横顔を見つめながら、ユウキは思う。
(花火もきれいだけど。)
(今、一番見ていたいのは……。)
その時だった。
大きな花火の音に驚いた小さな子どもが走り出し、人波が少し揺れる。
マミがよろけた。
「きゃっ。」
ユウキはとっさに腕を伸ばえる。
マミの手をしっかりとつかんだ。
「大丈夫?」
「う、うん……。」
手をつないだまま、お互いの目が合う。
離そうと思った。
でも、人混みはまだ動いている。
「このまま。」
ユウキが少し照れながら言う。
「はぐれると危ないから。」
「……うん。」
マミは小さくうなずいた。
その手は少し温かかった。
◇◇◇
花火が終わり、人の流れに合わせて駅へ向かう。
二人はまだ手をつないだままだった。
駅が見えてきたところで、ようやく気づく。
「あっ……。」
「ご、ごめん。」
二人同時に手を離す。
少し気まずくなってしまい、お互い顔を見られない。
するとマミが、小さく笑った。
「今日は。」
「?」
「はぐれなかったね。」
「うん。」
「手、つないでくれてありがとう。」
その一言に、ユウキは少し照れながら笑う。
「どういたしまして。」
改札前で別れる。
「今日は本当に楽しかった。」
マミは大事そうにウサギのぬいぐるみを抱えながら言った。
「私、この子見るたびに今日のこと思い出す。」
「俺も。」
「また来年も。」
少し照れながら微笑む。
「一緒に花火、見ようね。」
ユウキは迷わずうなずいた。
「ああ、約束。」
夏の夜風が二人の間を優しく吹き抜ける。
初めてつないだ手。
それはほんの短い時間だった。
それでも二人の胸には、忘れられない夏の思い出として、静かに刻まれていくのだった。
**――第2期 第7話「夏祭り、君と歩く夜」 完**




