第2期 第6話 「夏祭りの前日」
夏休みに入って三日。
学校へ通わない朝は、少しだけ不思議だった。
いつもなら制服に着替え、駅へ向かう時間。
今日は部屋でのんびりと過ごしている。
「……静かだな。」
ユウキは時計を見つめ、小さく笑った。
毎朝聞いていた「おはよう」という声がないだけで、こんなにも物足りなく感じるとは思わなかった。
その時、スマートフォンが震えた。
『おはよう、ユウキ!』
送り主はマミだった。
『宿題やってる?』
ユウキはすぐに返信する。
『少しだけ。マミは?』
数秒後。
『十五分で飽きた!』
思わず吹き出してしまう。
『予想どおり。』
『ひどい(笑)』
画面越しなのに、マミが笑っている顔が目に浮かんだ。
◇◇◇
その日の午後。
『駅前の図書館で宿題しない?』
マミから新しいメッセージが届く。
『いいよ。』
『じゃあ一時間後ね!』
約束を交わしたユウキは、急いで支度を始めた。
◇◇◇
図書館。
入口では、すでにマミが待っていた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
今日は薄い黄色のブラウスに白いスカート。
夏らしい爽やかな服装だった。
「待った?」
「今来たところ。」
「それ、この前も聞いた。」
「定番だから。」
二人は笑いながら館内へ入った。
◇◇◇
静かな自習スペース。
二人は向かい合わせに座る。
数学。
英語。
国語。
宿題を進めていく。
一時間ほど経った頃。
マミが小さく伸びをした。
「疲れたぁ。」
「まだ半分。」
「休憩!」
「早い。」
マミは机に頬杖をつきながらユウキを見る。
「ねぇ。」
「ん?」
「夏休みって、学校がないから会えない日もあるでしょ。」
「そうだな。」
「だから今日会えて嬉しい。」
その言葉に、ユウキも自然と笑う。
「俺も。」
短い返事だった。
でも、それだけでマミは満足そうに微笑んだ。
◇◇◇
図書館を出ると、夕方の風が少しだけ涼しくなっていた。
二人は駅前をゆっくり歩く。
「あっ。」
マミがショーウィンドウの前で立ち止まる。
「これ。」
浴衣が飾られていた。
青、赤、白、紫。
色とりどりの浴衣が並んでいる。
「花火大会まであと一週間か。」
「うん。」
「実はね。」
マミは少し照れながら言った。
「浴衣、もう決めたの。」
「楽しみ。」
「本当に?」
「うん。」
「似合うかな。」
「きっと似合う。」
ユウキは迷わず答えた。
マミは照れ笑いを浮かべる。
「そんなに真っすぐ言われると、恥ずかしいよ。」
◇◇◇
駅へ向かう途中、公園の前を通りかかる。
そこでは地域の子どもたちが盆踊りの練習をしていた。
提灯が飾られ、夏祭りの準備も始まっている。
「夏って感じ。」
マミが足を止める。
「うん。」
「小さい頃、お祭り大好きだったな。」
「今は?」
「今も好き。」
少し間を空けて続けた。
「でも今年は。」
「?」
「誰と行くかの方が楽しみ。」
そう言って、少しだけ照れたように笑う。
ユウキは胸が少し熱くなるのを感じた。
「俺も。」
その一言だけで十分だった。
◇◇◇
帰りの電車。
夏休みでも、二人は自然と同じ時間の快速に乗っていた。
「久しぶりだね。」
マミが笑う。
「学校がないのに電車に乗るなんて。」
「不思議な感じ。」
数駅先で席が空く。
二人は顔を見合わせる。
「行く?」
「もちろん。」
同時に動き、同時に座る。
また隣同士だった。
「あはは。」
「やっぱりこうなる。」
マミは嬉しそうに肩を揺らす。
「やっぱりね。」
「ユウキの隣が、一番落ち着く。」
ユウキは少し照れながら窓の外を見る。
「俺も。」
夕日が二人を優しく照らしていた。
◇◇◇
改札前。
「じゃあ。」
マミが小さく手を振る。
「花火大会まで、あと少し。」
「ああ。」
「すごく楽しみ。」
「俺も。」
「約束だからね。」
「もちろん。」
マミは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見送りながら、ユウキは胸の鼓動が少し速くなっていることに気づく。
花火大会が楽しみなのは、花火が見たいからではない。
屋台を回りたいからでもない。
その日、一番近くで笑うマミを見られることが、何より楽しみになっていた。
**――第2期 第6話「夏祭りの前日」 完**




