第2期 第3話 「花火大会の約束」
六月も終わりに近づき、教室の窓から吹き込む風にも夏の匂いが混じり始めていた。
昼休み。
ユウキとマミは、いつものように屋上のベンチでお弁当を広げていた。
「もうすぐ七月だね。」
マミが空を見上げる。
「夏休みまであと少し。」
「あっという間だったな。」
「高校生活って、中学生の頃より時間が早く過ぎる気がする。」
「毎日いろいろあるからかな。」
マミは小さくうなずいた。
「……毎日楽しいし。」
その言葉に、ユウキも自然と笑みを浮かべた。
◇◇◇
その日の放課後。
ホームルームが終わると、高橋が教室の後ろで一枚のチラシを広げていた。
「見ろ見ろ!」
「今年も花火大会やるって!」
クラスメイトが集まる。
「駅前の河川敷か。」
「去年すごかったよな!」
「屋台もいっぱい出るらしい!」
ユウキも何気なくチラシを見る。
開催日は夏休みに入って最初の土曜日。
その時だった。
「ユウキ。」
前の席からマミが小さな声で呼んだ。
「あとで少し話せる?」
「うん。」
◇◇◇
帰り道。
駅へ向かう途中、マミは少し落ち着かない様子だった。
「どうした?」
「その……。」
何度か言葉を飲み込み、意を決したように顔を上げる。
「さっきの花火大会なんだけど。」
「ああ。」
「もし予定がなかったら……。」
少し照れながら続ける。
「一緒に行かない?」
ユウキは少し驚いた。
二人で出かけることには慣れてきた。
でも、花火大会は少し特別に感じる。
「もちろん。」
迷う理由はなかった。
「行こう。」
「本当?」
マミの表情が一気に明るくなる。
「よかったぁ。」
心から安心したような笑顔だった。
◇◇◇
電車に乗り込む。
今日も自然と隣同士に座る。
「楽しみだね。」
「花火大会?」
「うん。」
「屋台も回りたいし。」
「焼きそば。」
「りんご飴。」
「かき氷。」
「全部食べる気?」
ユウキが笑う。
「……たぶん。」
マミも照れ笑いを浮かべた。
「食べ過ぎるかも。」
「その時は止める。」
「止めないでください。」
二人は笑い合う。
◇◇◇
翌日。
朝のホーム。
マミはスマートフォンを見ながら何かを考えていた。
「おはよう。」
「あ、おはよう。」
「何見てる?」
「これ。」
画面には色とりどりの浴衣が映っていた。
「花火大会って、浴衣の人多いよね。」
「そうだな。」
「だから……。」
少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「私も着てみようかなって。」
「似合うと思う。」
ユウキは自然にそう答えた。
「……え?」
マミは目を丸くする。
「まだ着てないよ?」
「なんとなく。」
「きっと似合う。」
マミの頬がみるみる赤くなる。
「あ、ありがとう……。」
照れ隠しのように前を向いてしまう。
ユウキは、自分が少し恥ずかしいことを言ったと気づき、慌てて窓の外へ視線を向けた。
「……。」
「……。」
二人とも何も話せない。
それでも、その沈黙はどこか心地よかった。
◇◇◇
昼休み。
屋上へ向かう途中、クラスメイトの佐藤がマミに声をかけた。
「マミ、花火大会行く?」
「うん。」
「誰と?」
「えっ?」
マミは一瞬だけ固まる。
「その……。」
ちらりとユウキを見る。
「ユウキと。」
「へぇ~!」
佐藤はにやりと笑った。
「それってデートじゃない?」
「ち、違うよ!」
マミは慌てて否定する。
「友達として行くだけ!」
「本当に?」
「本当!」
佐藤は笑いながら去っていった。
残された二人は、少しだけ気まずそうに顔を見合わせる。
「デート、か。」
ユウキがぽつりとつぶやく。
「……。」
マミは少しだけ俯き、それから小さく笑った。
「周りから見たら、そう見えるのかな。」
「かもしれない。」
「でも。」
マミは優しく微笑む。
「私は、ユウキと行けるだけで嬉しい。」
その言葉は飾り気がなく、まっすぐだった。
ユウキの胸がまた少しだけ高鳴る。
◇◇◇
帰り道。
夕焼けに染まるホーム。
電車がゆっくりと到着する。
二人は今日も隣同士に座った。
窓の外へ流れる景色を眺めながら、マミが小さくつぶやく。
「夏が楽しみ。」
「うん。」
「今年の夏は、きっと今までで一番楽しい。」
「どうして?」
マミは少し照れながら笑う。
「ユウキがいるから。」
その一言を聞いて、ユウキも静かに笑った。
「俺も。」
春に始まった偶然の出会い。
その偶然は、気づけば二人の夏を約束するほど、大切な縁になっていた。
**――第2期 第3話「花火大会の約束」 完**




