第2期 第2話 「二人きりの放課後」
六月。
夏の気配が少しずつ近づき、朝の電車にも冷房が入り始めた。
いつもの快速電車。
ホームへ着くと、ユウキは自然と人混みの中からマミを探していた。
「ユウキ!」
先に見つけたのはマミの方だった。
小さく手を振りながら駆け寄ってくる。
「おはよう。」
「おはよう。」
「今日も会えた。」
その何気ない一言に、ユウキは少しだけ笑う。
「昨日も会ったけどな。」
「でも朝は朝です。」
「そういうもの?」
「そういうもの。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇◇◇
教室。
一時間目の授業が終わると、担任の先生が教室へ入ってきた。
「今日の放課後、職員会議がある。」
クラスがざわつく。
「部活動のない生徒は速やかに下校するように。」
先生がそう言うと、マミが後ろを振り返った。
「ユウキ。」
「ん?」
「今日、帰り少し寄り道しない?」
「寄り道?」
「駅前にクレープ屋さんができたんだって。」
「テレビで見た。」
「知ってるの?」
「人気らしい。」
「じゃあ決まり!」
マミは満面の笑みを浮かべた。
◇◇◇
放課後。
二人はいつもの帰り道とは少し違う道を歩いていた。
「なんだか新鮮。」
マミが周りを見回す。
「毎日同じ道だからね。」
「たまには寄り道もいいね。」
駅前の商店街へ入ると、甘い香りが漂ってきた。
「あっ!」
マミが指差す。
「あのお店!」
小さなクレープ専門店には学生たちの列ができていた。
「並ぶ?」
「もちろん!」
◇◇◇
二十分ほど待ち、二人はクレープを受け取った。
ユウキはチョコバナナ。
マミはいちごクリーム。
「いただきます。」
二人同時に一口。
「おいしい!」
マミの目が輝く。
「これは並ぶね。」
「確かに。」
歩きながら食べていると、マミの口元にクリームが少し付いていた。
ユウキは気付く。
「マミ。」
「ん?」
「クリーム。」
「え?」
慌てて口元を手で拭く。
「まだ付いてる。」
「どこ?」
「右。」
「こっち?」
「違う。」
「えぇ?」
なかなか見つからない。
マミは少し困ったように笑った。
「もう分からない。」
ユウキはポケットからティッシュを取り出した。
「じっとして。」
「……。」
マミは少しだけ目を閉じる。
ユウキはティッシュでそっと口元を拭いた。
「取れた。」
「……ありがとう。」
マミは耳まで真っ赤になっていた。
「恥ずかしかった?」
「すごく。」
「ごめん。」
「でも。」
マミは照れながら笑う。
「ユウキだから、平気。」
その一言に、今度はユウキが照れてしまった。
◇◇◇
二人は近くの公園へ入り、ベンチへ座った。
夕方の風が心地いい。
「もう六月か。」
「早いね。」
「高校入学して、もう二か月。」
マミはクレープを食べ終えると、空を見上げた。
「ねぇ。」
「ん?」
「覚えてる?」
「何を?」
「最初に会った日。」
「もちろん。」
「雨じゃなくてよかった。」
「もし違う電車だったら。」
「違う車両だったら。」
「座れなかったら。」
「話しかけてなかったかもしれない。」
二人は少しだけ黙った。
そんな偶然が一つでも欠けていたら、今こうして隣にいることはなかったのかもしれない。
「不思議だね。」
マミが小さくつぶやく。
「うん。」
「私はね。」
少し照れたように笑う。
「あの日、勇気を出して話してくれてよかったって思ってる。」
ユウキは照れくさそうに頭をかいた。
「俺も。」
「本当に?」
「ああ。」
「話しかけてなかったら、今の毎日はなかった。」
マミは嬉しそうに微笑んだ。
◇◇◇
帰りの電車。
今日も自然と隣同士に座る。
「最近。」
マミが小さな声で言う。
「座席争奪戦しなくなったね。」
「そうだな。」
「前は勝つことしか考えてなかったのに。」
「今は。」
ユウキは窓の外を見ながら笑う。
「マミの隣が空いてるかどうかしか見てない。」
「……。」
マミは驚いたようにユウキを見る。
そして、ふわりと笑った。
「私も。」
電車が夕暮れの街を走り抜ける。
勝負のために磨いた技術。
その技術は今では、「隣に座る」という二人だけの幸せのために使われていた。
そんな変化を、お互い少しずつ愛おしく感じ始めていた。
**――第2期 第2話「二人きりの放課後」 完**




