第2期 第1話 「夏休み前の約束」
五月も終わりに近づき、校庭の木々はすっかり新緑に染まっていた。
ユウキとマミは、今日もいつもの快速電車に乗っていた。
「おはよう。」
「おはよう、ユウキ。」
もう待ち合わせの約束はしていない。
それでも、お互いがホームに着く時間はほとんど同じだった。
「今日は勝負する?」
マミがいたずらっぽく笑う。
「もちろん。」
「負けません。」
ドアが開き、二人は別々に車内へ入る。
乗客の流れを読む。
降りる人を見極める。
視線を交わすことなく、それぞれが席を狙う。
そして——
「また隣。」
「やっぱり。」
二人は同時に笑った。
「最近、本当に多いね。」
「勝負になってない。」
「だって。」
マミは肩をすくめる。
「隣が空くと、そっちに行っちゃうんだもん。」
「……俺も。」
その一言に、二人は少しだけ照れてしまった。
◇◇◇
学校へ着くと、教室はどこか浮き足立っていた。
「もうすぐ夏休みだ!」
「あと一か月くらいか。」
「早く来ないかな。」
クラス中で夏の予定の話が飛び交う。
ホームルームが始まると、担任が黒板に大きく文字を書いた。
**『夏休み前交流会』**
「来月の終わりに、一年生全体で校外学習を行う。」
教室がざわめく。
「行き先は水辺公園だ。」
「バーベキューやレクリエーションを予定している。」
「詳細は後日配るプリントを見てくれ。」
楽しそうな声があちこちから聞こえた。
◇◇◇
昼休み。
屋上でお弁当を食べながら、マミがプリントを眺めていた。
「楽しそう。」
「そうだな。」
「バーベキューなんて久しぶり。」
「俺も。」
マミはプリントを畳みながら笑う。
「でも。」
「?」
「一番楽しみなのは。」
少しだけ照れたように視線を逸らす。
「ユウキと一緒に回れるかどうか。」
「まだ班分けも決まってないぞ。」
「そうだけど。」
少し頬を膨らませる。
「同じ班がいい。」
その素直な言葉に、ユウキは思わず笑った。
「俺も。」
「本当?」
「一人だとつまらない。」
マミの笑顔がぱっと明るくなる。
「よかった。」
◇◇◇
放課後。
いつもの帰り道。
駅まで歩きながら、マミがふと足を止めた。
「そういえば。」
「ん?」
「夏休みって。」
「うん。」
「毎日学校ないよね。」
「ああ。」
その瞬間、二人とも同じことを考えた。
学校がなければ——。
毎朝のホームで会うことも。
授業の合間に話すことも。
放課後、一緒に帰ることもなくなる。
「……。」
「……。」
少しだけ寂しい空気が流れた。
「ユウキ。」
「ん?」
「夏休みになっても。」
マミは少し勇気を出すように言った。
「たまには、一緒に電車に乗らない?」
「電車に?」
「うん。」
「目的がなくても。」
「どこかへ出かけたり。」
「本屋さんでも、水族館でも。」
「電車に乗る理由なら、いくらでも作れるから。」
ユウキは優しく笑った。
「いいな、それ。」
「本当?」
「ああ。」
「夏休みでも会おう。」
マミは心から安心したように笑った。
「約束だからね。」
「約束。」
◇◇◇
ホームに到着する。
快速電車がゆっくりと滑り込んできた。
乗り込み、今日も自然と隣同士の席へ座る。
「ねぇ、ユウキ。」
「ん?」
「最初はね。」
窓の外を見ながらマミが話す。
「座るためだけに電車に乗ってたの。」
「俺も。」
「でも今は違う。」
ユウキを見る。
「ユウキと会うために電車に乗ってる。」
一瞬だけ胸が高鳴る。
その言葉が嬉しくて、ユウキは少し照れながら答えた。
「それなら。」
「?」
「俺も同じだ。」
マミは照れくさそうに笑い、小さく「よかった」とつぶやいた。
窓の外では、初夏の青空がどこまでも広がっている。
春に始まった二人の物語は、季節を越え、新しい夏へと歩き始めようとしていた。
**――第2期 第1話「夏休み前の約束」 完**




