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光莉が弁当に口をつけ始めると、どこからかクラシック音楽が流れていると気づく。光莉でもメロディーを知っているくらい有名な曲だ。音を辿ると才琉のスマホからだった。
音を確認した才琉は、すぐにスマホをチェックした。それに、中華丼を平らげる勢いだった箸も止まっている。スマホをまじめに見ている様子でよほど大切な相手なんだろうと察した。ひとつため息をついて熱心に返信している。
その様子を眺めていたら、なにか言いたげな才琉と目があった。
「なあに。メールの相手、そんな気になる?」
「すこしだけ」
こんど仕掛けられたら、何かイタズラで返そうと思っていた。にらめっこを始めたみたいに、光莉は才琉の顔を真剣に覗きこむ。じっと目があい続けるのが照れくさかった。
「ん、と。素直じゃん、ズル。ちょっと待って」
才琉の頬がじわじわと赤に染まる。どうやら本気で照れているらしかった。熱を逃がすように深呼吸している。
「んで? 恩田さんは何が気になるって?」
「ごめんなさい。驚かせようと思っただけなので、気にしないで」
人目が気になるからという理由でカフェテリアを利用しない才琉に、イタズラでも見るのはマズかったかなと反省した。嫌な気持ちにさせたい訳ではなかった。
「ああ、そっか。日替わりカノジョだと思った?」
「すぐ返信してたので、大切な人だろうなとは思いました」
「オレのカノジョは恩田さんしか居ませんよー」
「偽装のね!」
「そんな必死に否定しないでもさあ」
才琉は傷ついたと軽口をたたき、光莉の本心を探るように目を合わせた。このところ噂とは違う無邪気な希望を口にする子供みたいな一面を見ている気がする。
「この人に『日替わりカノジョ』なんて言ったら、ぶっ飛ばされると思うよ。ほら」
そう言って才琉は自身のスマホを、光莉の目の前にだして操作した。中を見ていいらしい。見せても特に困ることは書いていないからと言い、一通メールを開いて光莉にみせた。メールの差出人はゆかりと書かれている。
「ええと『トイレットペーパー、牛乳、しらたき、鶏モモ肉』おつかい頼まれたの?」
「そ。帰りにスーパー行けだってさ」
母親からのメールかと聞くと違うと返ってきた。
「ゆかりさんは母親の妹。つまり、オレのおばさんね。簡単に言うとオレの親いま海外で仕事してる。で、オレはおばさんトコに住んでんの。やり取りはメールってルール」
「へえ。今どきメールなの、珍しいね」
「パソコン仕事だし、CC機能を使うからメールが楽なんだって。CCにオレの親いれてさ」
高校入学後からゆかりと同居していること、休みの日の朝でもお構いなしに買い物に行かされること、ゆかりの家にいる間に問題を起こしたら遠慮なくぶっ飛ばされること、才琉は自身の置かれた環境をひとつずつ教えてくれた。
「恩田さんがどう思っているか知らないけど、日替わりできるほど器用じゃないよ、オレ」
才琉の表情が曇る。それは、真情を吐露する迷子の顔にみえた。




