03-4
昼のおわり、才琉が教室まで送ると申しでたので一緒に帰ることになった。ふと下を見ると光莉の歩幅にあわせて、隣の長い脚が窮屈そうに歩いている。光莉に気づかれないよう自然に歩くその様子に、なんだか微笑ましくなって頬が緩んだ。
教室に近づくにつれ人の数が増える。二人で歩いていると、人の目に晒されている気がしてどうにも落ち着かない気持ちになる。一組の教室前にひなたが立っている。興味津々といった面持ちでこちらに近づいてきた。その表情から光莉に用があるのだと汲みとれた。
「ひかりん、付き合っているって本当?」ひなたは言いながら疑わしそうに才琉を見た。
「ええと……」
光莉は隣の才琉の表情をうかがった。こういう質問は初めてではない。才琉と初めて昼食を食べた日から、ポツポツと質問が飛んでくることがあった。大抵は話す気のない光莉の様子を察して一言で終わる。今日はそうもいかないらしい。才琉が軽く頷いた。
「そおだよ。付き合ってる。平野くんが噂でもしてた?」
「そそ。ヒラユーが言っててさあ。へええ。本当なんだ。意外なとこがくっついて、ビックリなんですけど。なんで? 接点なかったでしょ?」
「理由はオレの一目惚れ。話すると真っ赤になるトコがかわいい。好きだなあって思ってオレから付き合ってって告白した。ハイ終わりね。振られたくないんだから、茶化さないでよ」
「うわ、のろけ。別に茶化すわけじゃないけど、恋人できたって話きかなかったからさ」
「オレも光莉も、皆に噂されると恥ずかしいし、ってことで言ってないだけ」
「なにそれ。才琉、言い方キモ」ひなたは引いたように言う。
「ヒド。キモくないでしょ。シャイだから、そっとして欲しいだけだって」
「才琉が言うと、なーんか嘘クサいんよ」
ひなたによると、光莉の好みに合致しない才琉との噂が立っていることに気がついた。噂が間違いであれば訂正しようと思い、居ても立ってもいられず光莉に聞きに来たという。
「何、光莉の好みって」
「真面目で誠実な人」
「マジメだし、セージツですけど」才琉が言う。それを聞いたひなたの顔に不審の色が浮かぶ。
「それは……どうなん?」
ひなたの目が光莉に向いた。本当のことを言えという圧を感じる。無意識に光莉の背筋が伸びた。光莉は少し迷ってから「特にトラブルはないよ」と答えた。
「そっか。本人いる前で言っちゃ悪いけど、才琉って話すのは良くても、遊んでそうだし変な噂ばっかで彼氏にするのはどーなんって感じじゃん。私、友達が面白おかしく噂に巻きこまれるのムリなんよ。問題ないなら、なにか聞かれてもラブラブだからほっとけって言うわ」
「問題なくラブラブです。気遣いドーモ」
「うーん。やっぱ軽いんよなあ」ひなたは納得いかない様子で首を捻っていた。
五限を知らせる鐘がなる。それぞれ自分の教室にもどった。少ししてから、教室のとびらが開きやる気のなさそうなシノ先生が数学の授業を始める。
昼の別れぎわ、苦しそうに才琉が「ごめんね」と小さく呟いたことを光莉は考えていた。




