02-3
あざみ川高の裏門近くの花壇に、鮮やかなピンクのツツジが咲いている。背丈は光莉の目線ほどの高さだ。よく剪定されていた。人気のないそこに、一基だけベンチが設置されている。
才琉は慣れたようにベンチに腰掛け、光莉を招く。
「ここ好きなんだ」と教えてくれた。穏やかな顔だった。
「あの、お邪魔します」
「どうぞ。おジャマされます」
才琉はビニール袋から、日替わり弁当を取りだす。先にカフェテリアに行って、弁当を受けとったようだ。カレーの匂いがした。
才琉のようすを見た光莉は、レモンのイラストが印象的な巾着から弁当を取り出した。取り出してから「失敗した」と思った。今日は自作で全体的に茶色っぽい。恥ずかしかった。
「自分で作ったの?」才琉は興味ありげに光莉に質問した。
(ああ、御手洗さんは目ざとい)
「一応」
「美味しそう。スゴいね」
「これくらいしか、出来ないから」
何となく身を隠したい気持ちに襲われた。光莉はごまかすように肉野菜炒めに口をつける。
「そこは、笑顔でありがとうって言えば良いよ。だいたい上手くいくから」
「そうなのかな」
(御手洗さんの体験談ってこと?)
「そうだよ。恩田さんカワイイからオレより上手くいくよ」
咽るかと思った。何を言うんだと、目で訴える。絶対に今日一番、赤くなっている。才琉は光莉の顔を確認して、困った顔を返した。どうやら破壊力のある爆弾の自覚がないらしい。
「恩田さんはさ、お昼ここに来るの初めて?」
才琉は話題を変えるみたいに話しはじめた。
初めてだと頷く。お昼どころか他の時間帯も、裏門には来たことがない。
「そっか。お昼にここで観察するの、ケッコー面白いよ」
「観察? ここで?」
「うん。モテる男は引っ張りだこで辛いから。ここでスマホも見ずに、のんびりすんの」
ただの軽口だ。ただ、分かっていても、光莉はこの手の会話に慣れていない。
冷ややかな沈黙が才琉を刺した。
「……すみません。調子のった」
才琉は取り繕うように、ハンバーグを口に運ぶ。
静寂が場を支配する。さらさらと木の葉が擦れる優しい音。遠くで郵便配達しているらしき車のエンジン音。光莉は悪くないと思った。沈黙を破ったのは咀嚼しおえた才琉だった。
「知ってる? ここ高校の敷地内なのに、近所の人たちの通り道っていうか、散歩道なんだよ。知らんおじいちゃんが犬を散歩させたり、その犬とハチワレのボス猫が、普通にうにゃうにゃ喧嘩してんの。犬がいない日は、ハチワレが遠くからオレに喧嘩売ってくる。シュールだよ」
裏門と言っても大型門扉が設置されるような大きさではない。高校の敷地だなんて思われていない、すぐそばの裏道への通り抜けに地域の住民に利用されている、絶妙な場所である。
「ここ散歩道だったんですね。知らなかった」
「そ。ほら、あれがボスハチワレ。今日は呑気に昼寝してる」
才琉が指をさす。ツツジ近くの茂みの中に一匹猫がいる。
「あ、伸びてる。かわいい」
「威嚇しなければカワイイよ」
「でも、御手洗さんが言ってた感じじゃないです。喧嘩しそうにないっていうか」
「アイツ恩田さんいるから、ビビってるんだよ」
「私に?」
「オレやおじいちゃんにはバカみたいに強くでるんだけどさ。なーんか、女の人には下手っていうか。いつも様子うかがってんだよねえ。前世ぜったいエロ男」
「ふふ。なにそれ。今日は私が居るから、いい猫なんですか?」
「そーだよ。どお、カワイイでしょって思わせて、アイツぜーったい本性みせないよ」
才琉があまりに真剣な顔で言うものだから、光莉は笑ってしまった。




