08-2
雨の日の才琉の昼の居場所について、思ったよりも早く答えが得られた。
光莉は久しぶりにカフェテリアに足を踏み入れている。合流してから今日はカフェテリア内の席で食事を摂りたいと告げられていた。
席は埋まっていないようだが、じょじょに埋まりかけている。早くしないと良い席が取られそうだと思い、隣の才琉を見た。
「カフェテリア、苦手じゃないの?」
「雨だからしょうがない。こればっかりはワガママ言ってられないし」
才琉は大きく息を吐いた。心なしか顔色が悪い気がする。
カフェテリアは想像よりも混雑していて、雨が降っている影響もあるのかもしれない。ときおり、複数の視線がこちらを覗いている。前に目線が気になると教えてくれたのは、こういう事かと嫌でもわかる、噂好きの視線だった。誰だってこんな視線に晒されて、気分の良いものではない。
(御手洗さん、一人の時もこんな風に見られているのかな)
光莉が想像しているよりも問題は根深いのかもしれない。答えのない問題を思案していると才琉が「光莉」と声を出した。声のするほうに顔を上げる。その顔は微笑んでいた。
「さきに席、取っててくれない? あそことか」
才琉は窓際の一人掛けのカウンター席を指さした。あそこなら、大人数用の長テーブルとは違うのでいくらか視線はマシだろう。光莉はコクコクと頷く。安心したような「ありがと」と言う小さな声が耳に届いた。
カウンター席はまだ余裕がある。しかし、あの人混みの様子だ。ここもじきに埋まるだろうと思い席を取るため、光莉は持参した弁当を隣の才琉が座る予定の席においた。
窓の外を眺める。変わらずの曇天で小雨日和だ。遠くで雷が鳴っていた。
光莉の手元の帆布製の黒のランチトートバッグには、ラッピングされたプレゼントが入っている。存在を意識するたび、どうにも落ち着かない気持ちになった。
「おまたせ。思ったより混んでた」
「あ、おかえりなさい」
光莉は隣の席に置いていた弁当を手元に寄せた。それを見た才琉はトレーをテーブルに置いて流れるように席につく。
長い脚がすっぽりと収まる様子に、内心で感嘆の声を上げた。
「――何考えてんの?」
そう訪ねて、才琉はそのまま光莉の顔を覗いた。顔が近い。
「特には。座るときもスマートなんだな、って感心してただけです」
「ならいーんだけどさ」
才琉の視線が光莉の弁当箱に注がれている。いつものように弁当を覗く癖でピンときた。
「なんです?」
「いや、今日は抵抗せず、素直に弁当みせるんだなって」
「今日は私じゃなくて、お母さんが作ったので恥ずかしくないんです。それより、御手洗さんは食べないんですか。ご飯、冷めちゃいますよ」
隣のトレーには湯気をたてた豚の生姜焼きが見える。清麗な美貌は箸をもち、口をつけるわけでもなく、何かを考えているように見えた。
光莉はいただきますと挨拶の言葉をかけて、弁当の揚げ物に口をつける。光莉がお気に入りのササミの紫蘇巻フライは衣がしっとりとしていて、冷めていても幸せの味がする。いつ食べても好きな味だ。嬉々としてもう一本、口に運んだ。
その様子を見ていたのだろう。才琉が笑うのを噛み殺している。何がそんなに面白いのかと問うと「光莉が『今日はお母さんなんです!』って、すっごいドヤ顔だった」と静かに答えられた。恥ずかしかった。光莉はじわじわと顔に熱が集まっていくのを自覚する。
「オレもいただきまーす」
才琉の興味はもう他に移ったようで、光莉のことなんか気にせず食事を摂っている。
これが惚れた弱みか、と端正な横顔を見て思う。光莉がチョロチョロなだけで、才琉本人は甘言を用いて籠絡したなんて、思ってもいないはずだ。なぜだか少し悔しい。




