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05-1 それは恋のように暖かな

「あれ? 恩田おんださん、いま帰り?」

 帰りのHRが終わり、げんかんぐちに向かう途中の廊下でばったり才琉さいると出会った。教科書を詰めこんだリュックを背負う光莉ひかりとちがい、才琉はもつを持たず、ずいぶんがるかつこうをしている。

 これが、噂のべんと言うやつだろうか。いままで友達に完全な置き勉のスタイルをつらぬく人がいなかったので妙なこうようかんが光莉をおそった。


「オレは図書館に行こうと思って」 

「図書館に?」

 才琉から意外な言葉がでてきた。図書館と才琉がひもづかなくて一瞬、思考が停止する。

「あ、ヒド。オレが図書館いくってミジンも思ってない顔」 

「そんなことは、――ううん、思いました。ごめんなさい」

「まあ、いーけどさ」

 恩田さんってば素直、といやか分からない言葉を投げかけられる。怒ってはいないようだ。


「ねえねえ、恩田さんは、このガッコーの図書館行ったことある?」

「ない、です」

 図書館に行ったことがないという一言をしんこくするのが、少し恥ずかしくて躊躇ためらわれた。

 本をりるというこうが苦手だ。うっかりページのはしを折ってしまったら、あせで紙を汚してしまったら、そういう不安で押しつぶされてかんじんの本に集中できないからだ。


「行ったこと無いの恥ずかしいの? 安心して。オレもだよ」 

御手洗みたらいさんも?」

 じゃあなんで、と顔に出ていたのだろう。才琉が光莉の顔を確認して話を続ける。

「久しぶりに本でも読もうかなって、しゆしような気持ちになってさ。そーいえば、図書館が大きいからこの高校がいいなって思ったの、ちょっと前に思い出した」 

「私、あざみがわ高の図書館が大きいことすら知らなかった」

「一緒に行く?」

 いつものイタズラっぽい顔で才琉がさそう。図書館なんて頭になかったのに、なんだかすごく良いていあんに思えて縦にうなずいていた。光莉の答えに、琥珀アンバー色の目が笑っている。

「おいで」

 右手をていねいにとられて歩く。今日も甘い砂糖の声が、ぐずぐずと光莉の思考をがした。



 せいひつな空気がただよう場所をイメージしていた光莉は、入口から見える図書館内のカラフルな様子におどろいた。扉をくぐると、すぐに本の匂いがする。

「あ、漫画も置いてるんですね」

しよさんによって、ケッコーふん変わるからね」

「へえ……」

 リュックを置いてがあたるまどぎわの席を取った。あたりを見渡す。本屋大賞やら新人賞受賞作品とポスターを貼られたいつかくがひときわ目立っていた。ふらっとおとずれたのがものすごく場違いな気がしておくれしてしまう。


「おじさんって、ここの司書さん?」

 才琉はものじせず、窓から校庭を見ていた図書館の主に話しかけた。

「おお、見たこと無い顔が二人も遊びにきて、どうした」

「ミステリー小説って置いてない? 古いのでも、新しいのでも何でも。最近ドラマ観てたらミステリーが読みたくなってさ」

「うーん。教えてもいいが、大丈夫か。漫画やライトノベルじゃないから、こう文字がグワッとおそってくる。文字も小さいし、読みれていない初心者なら大変だと思うが」

「大丈夫、オレこう見えて文字は読めるほうだよ。ハードカバーも文庫も、どっちでも」

「そうかあ」


 おじさんが嬉しそうに笑う。どの本をすすめようかと胸がさわいでいるように見えた。その流れのまま光莉とおじさんの目が合った。

「それで、君は何を探している」

「あの、すみません。私は彼の付きそいで見学しているだけです」 

「――もしかして、本苦手か」

 まるで、心をかされたような質問だった。光莉はためらって頷く。本を仕事にしている人の前で、ほんをさらけ出すのが申し訳なかった。


「そうかあ。図書館には、絵本も、写真集もある。それも難しいなら漫画でもいい。君の好きな一冊が見つかると良いんだが」

 最近なら、この本が人気でよく貸し出されるとしようかいされる。SNSでも有名で、若者の間で人気らしいから気が向いたら読んでみてくれと言葉をかけられた。

 あつくて重そうな本を何冊かかかえた才琉が、絵本コーナーで一人立ち止まっていた光莉の顔を覗く。こちらをづかうような、優しい顔をしていたから思わず本音がこぼれた。


「絵本ってこのとしでも読んでも良いのかな」

「なんで? 絵本好きだよオレ。どうしよも。丸っこくて優しいから心がんでいく気がする」

 才琉が大事なたからものを教えるみたいに、ひとつひとつエピソードを語る。


 親にひどい言葉を投げかけられて声が出なくなった子の話、世界一のおおどろぼうが願いによってびんぼうぬすんだ話、クリスマスの日にぼうしたサンタクロースが人々の助けをかりてへきにプレゼントを届ける話。どれも才琉の中で優しくいきづいて、温かいまなしで物語が生きている。 


(いいな、そういうの)

「司書のおじさんも言ってたけど、恩田さんの一冊が見つかると良いね。オレがまた本を読みたいなって思えたのは、恩田さんのおかげだから」

「私の?」光莉はがつかめず才琉の顔を見つめる。 

「そおだよ。去年は他のことにうつつを抜かしていたこともあるけど、ぜんぜん上手くいかなくて今まで図書館のことまで頭から忘れちゃうくらい心がれてた。疲れたときって文字読みたくないから。時間が動き出したっていうのかな。だから、恩田さんのおかげ」


 才琉が嬉しそうに笑っていう。ごころから来る丁寧な言葉だと思った。たぶん、光莉は才琉が伝えたい言葉の意味を分かっていない。だけど、くつたくなく笑う様子を見ているとそれでも良いかという気持ちがえる。

 図書館を出るまぎわ、こちらに気づいた司書のおじさんがしやくをする。

「おじさん教えてくれてありがと。帰ったらちゃんと読むから」

「そうかあ」 おじさんの目が光莉を見た。

「よかったら、君もまた来なさい。今日みたいに付きそいで本を読まなくても良い。きゆうけいするだけで全然違う。誰が来ても自分の居場所になるのが図書館だから」

「――はい、ありがとうございます」

 光莉は胸の奥がほんのり温かくなる。


 いちど教室に帰り、リュックを持った才琉と二人で校舎を抜けた。駅までの道のり、子どものようにせいべつねんれいしばられず話をした。あたたかな日だった。

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