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第6話(後編)「返し続けられる額」

「でも」


 悠真は言った。


「大学行って良かったです」


「そうですね」


 美咲も笑う。


「そこで、この人と知り合えたので」


 秋月は静かにうなずいた。


「だからこそ、なんです」


 二人が顔を上げる。


「お二人は、“奨学金を返す大変さ”を知っている」


「だったら、お子さんに同じ苦労をさせたくないと思う日が来るかもしれません」


 秋月は、二人の資料を軽く押さえた。


「住宅ローンは、人生を豊かにするためのものです」


「人生を苦しくするためのものではありません」




 その帰り道。


 駅まで歩きながら、美咲がぽつりと言った。


「ちょっと怖かったね」


「うん」


 悠真も苦笑した。


「でも、ちゃんと考えてくれてた感じした」


 二人は駅前のベンチへ座った。


 住宅会社のパンフレットを開く。


 大きな吹き抜け。

 アイランドキッチン。

 広い庭。


 最初は、全部欲しかった。


「この家、すごいよなぁ」


 悠真が言う。


「うん」


「でもさ」


 美咲は少し笑った。


「私、別に吹き抜けなくてもいいかも」


「え?」


「掃除大変そうだし」


 悠真が吹き出す。


「確かに」


「あと庭も、そんな広くなくていい」


「虫出そう」


「それはある」


 二人は笑った。


 しばらくして。


 悠真が静かに言った。


「俺さ」


「奨学金、結構しんどかったんだよね」


「うん」


「社会人一年目とか、家賃払って、奨学金払って、残りほんと少なくて」


 美咲は静かに聞いていた。


「だから、“家賃払うくらいなら家買った方が得”って言われて、ちょっと焦ってたのかも」


 美咲は、小さく笑った。


「私も」


 そして少し考えてから言った。


「でも、借入減らしたら、これから少しNISAとか増やせるかもね」


 悠真が笑う。


「それ、最近お前ハマってるやつ?」


「だって老後も大事じゃん」


「まだ二十代だぞ」


「秋月さんの話聞いたあとだと、急に現実見えるんだもん」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 駅前の夕陽が、少し赤くなっていた。


「……でもさ」


 美咲が言う。


「無理して苦しくなるより、ちゃんと幸せに暮らしたいね」


 悠真は、ゆっくりうなずいた。




 数週間後。


 再び、清野夫婦は相談ブースへ現れた。


「家、小さくしました」


 悠真が笑う。


「あと、場所も少し変えました」


 美咲がパンフレットを広げる。


 前回より、少し現実的な価格帯だった。


「でも」


 美咲は嬉しそうに笑った。


「なんか、こっちの方が私たちらしい気がしてます」


 秋月は静かにうなずいた。


「良いと思います」


「はい」


 悠真は笑った。


「借りられる額じゃなくて、“ちゃんと生きられる額”にします」


 その言葉に、秋月は少しだけ目を細めた。




 契約後。


 相川が、コーヒー片手に秋月を見た。


「珍しいですね」


「何がだ」


「秋月さんが、“借りる額減らしましょう”って本気で説得するの」


 秋月は苦笑した。


「嫌われる仕事だぞ、あれは」


「でも、あの夫婦、最後めっちゃ幸せそうでしたよ」


 相川は楽しそうに笑う。


「なんか、“家を買った”っていうより、“人生決めた”って顔してました」


 そして、少しだけ遠くを見る。


「奨学金で大学かぁ……」


 秋月が視線を向ける。


「相川、お前は?」


「うちは普通でした」


 相川は笑った。


「でも、親ってすごいですよね」


「大学のお金とか、“大丈夫大丈夫”って普通に出してくれてたけど」


「今考えると、全然普通じゃないなって」


 少しだけ真面目な顔になる。


「社会人になってから分かること、多いですよね」


 秋月は静かにうなずいた。


 窓の外では、夕暮れの街に灯りがともり始めていた。


「住宅ローンってのはな」


 秋月は静かに言った。


「家を買う契約じゃない」


「その先の人生を守る契約なんだよ」


 相川は数秒黙ってから、吹き出した。


「出た」


「ん?」


「秋月さん、ドラマみたいなこと言いますよね」


 秋月は小さく苦笑した。

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