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07_桜夜の決意と冷たき雷鳴の裁き

「何だよこの揺れは?!」

「ボク立ってられないよ~」

「嘘でしょ……ドローンの解析値がエラーを吐いています。信じられない質量の魔導力反応が地下から……!?」


 穂香が手元の端末を見て、血相を変える。


「っ?! みんな、下がって!!」


 穂香が叫ぶよりも早く、乙羽が鋭い声で警告を発した。


――ドゴォォォォォンッ!!


 前方にある数十階建ての廃ビルが、内側から爆発したように吹き飛んだ。


 もうもうと舞い上がる土煙の中から姿を現したのは、ビルほどの高さがある巨大な四つ足の獣――全身が黒い鉱石のような鱗に覆われ、背中から無数の触手を生やした、異形の巨大魔物だった。


「な、なんやあれ……!? 事前のデータに、あんなデカブツおらんかったぞ!」

「特A級指定の『ベヒーモス』?! どうしてこんな場所に?! 私たちの手に負える相手じゃありません!」


 穂香のドローンが、圧倒的な威圧感を放つ魔物の姿を捉え、警告音を鳴り響かせる。


 通常、特A級の魔物は七大執政か、それに準ずるトップクラスのガーディアン部隊が複数で対処するレベルの災害だ。


 学生のチームが遭遇していい相手ではない。


「アグルルルォォォォォッ!!」


 巨大魔物が咆哮を上げる。


 それだけで空気が震え、周囲のガラスが粉々に砕け散った。


「くっ……美咲、敵の注意を逸らして! 巴瑞季、最大火力で牽制!」

「全部のポチたち出ておいで!」


 美咲が大量の犬型の魔導獣を召喚して敵の注意を引こうとするが、ベヒーモスの背中から伸びた触手の一撃だけで、魔導獣たちはあっけなく一掃される。


「なめるなやぁっ!!」


 巴瑞季がその隙にガントレットの推進力を最大にして突撃し、渾身の一撃を叩き込むが、巨大魔物の黒い鱗には傷一つ付けられず、逆にガントレットに亀裂が走る。


「うわぁ?!」

「きゃあっ!?」

「アタシの後ろに隠れろぉっ!!」


 弾き飛ばされた巴瑞季と美咲を庇うように、梓が大盾を構えて前に出る。


 しかし、鞭のようにしなる太い触手の追撃をまともに受け、誇り高き大盾ごと梓たちの体は後方へと大きく吹き飛ばされた。


「梓!! 巴瑞季! 美咲!」


 圧倒的な力の差。


 あまりの恐怖と絶望に穂香も気を失ってしまった。


 このままでは全滅する。


(こんな異常事態でも学園側からの緊急離脱の指示が出ない……これは明らかにハメられましたか)


 桜夜は奥歯を噛み締めた。


 通常であればこの第三セプターに、特A級指定の魔物が現れようものなら、即時に学園や国から緊急通報がガーディアンに向けて発せられる仕組みになっており、すぐに救援が来るようになっている。


 しかし、今のところ誰の端末からもその通知はなっていない。


――完全に、何者かによってこの区域は「隔離」されている。


「私が……みんなを守る!」


 絶望的な状況の中、力を使い果たしているはずの乙羽が一人、光の翼を羽ばたかせて空へ舞い上がった。


 彼女の全身から、眩いばかりの光の魔導力が溢れ出す。


 母親から受け継いだ、最高峰の力。


「やめてください、乙羽! 一人では無理です!」


 桜夜の制止も聞かず、乙羽は光の剣を構えて特攻する。


 だが、巨大魔物はその光を鬱陶しそうに一瞥すると、巨大な前足を無造作に振り上げた。


 その一撃は、乙羽の展開した光の盾を容易く貫き、彼女の小さな体を空高く弾き飛ばした。


「――っ、乙羽!!」


 光の翼が散り、無防備に宙を舞う乙羽に向かって、魔物の無数の触手がトドメを刺さんと殺到する。


 間に合わない。

 このままでは、彼女が死ぬ。


 しかし、今ここで『拒絶の黒雷』を使えば、桜夜が『暗黙の白姫』であることがコモレビのメンバーに露見してしまう。


 正体がバレれば、乙羽の傍にはいられなくなるかもしれない。


 それでも……正体など、どうでもいい。

 彼女が生きているなら、それでいい。


「――ファーストスロットル、解!」


 一瞬で第七席の装飾を身に纏った桜夜の瞳の奥で、白亜の桜の紋章が怪しく発光する。


 同時に、彼女の全身を漆黒の稲妻が包み込んだ。


 漆黒の雷光が弾けた瞬間、桜夜の主観では世界から全ての音が消え去り、あらゆるものの動きが極端に遅くなった。


 光の翼が散り、無防備に宙を舞う乙羽に向かって殺到する無数の触手。


 その凶刃すらも、今の桜夜から見れば完全に止まっているに等しい。


 音を置き去りにした超絶的な速度で大地を蹴る。


 間に合わないはずの距離を瞬時にゼロにし、桜夜は空中で乙羽の華奢な体をそっと抱きとめた。


 直後、桜夜の背後に迫っていた触手の群れが、彼女の纏う『拒絶の黒雷』に触れた瞬間――けたたましい轟音と共に、一瞬にして炭化し、ボロボロと崩れ落ちた。


「ア、ギィィィッ!?」


 巨大なベヒーモスが、初めて苦痛の叫びを上げる。


 桜夜は乙羽を抱きかかえたまま、空中に『白亜の桜』で透明な足場を作り、まるで空中を歩いているかのようにゆっくりと地上へと降り立った。


 気を失っている乙羽を安全な瓦礫の陰に優しく寝かせ、その寝顔を見つめる。


「……まったく、無茶ばかりするんですから」


 振り返り、眼前の巨大な異形を見据える。


 その瞳には、絶対零度の怒りが宿っていた。


「よくもやってくれましたね」


 バチバチと黒い稲妻が激しさを増し、桜夜の周囲の大気が悲鳴を上げる。


 ベヒーモスは本能的に死の危険を察知したのか、咆哮を上げながら残る全ての触手と、莫大な魔導力を込めた破壊光線を口から放ってきた。


 コモレビのメンバー全員で挑んでも防げないであろう、文字通りの必殺の一撃。


 だが、桜夜は一歩も引かない。


「遅い」


 桜夜が右手を軽く振り上げる。


『射貫け、黒氷こくひょう


 白亜の桜による絶対零度の氷結能力に、拒絶の黒雷の破壊エネルギーを乗せた、桜夜オリジナルの複合魔術。


 大地から巨大な黒い氷の柱が何本も突き出し、ベヒーモスの放った破壊光線を真正面から粉砕。


 そのままの勢いで、魔物の巨大な体を容赦なく串刺しにした。


「ア、ガァァァァァァッ!!」


 黒い氷は魔物の体液すらも瞬時に凍らせ、細胞の奥深くまで破壊の雷を伝播させていく。


 数十メートルもある巨体が、内側からメリメリと崩壊していく。


「消えろ」


 桜夜が拳を握りしめると、黒い氷柱が大爆発を起こした。


 特A級指定以上の反応を見せていた巨大魔物は、悲鳴を上げる間もなく微塵に砕け散り、完全に消滅した。

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