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39_次世代の木漏れ日と、訪れた安息

 魔帝王という、世界を滅ぼしかねない絶対的な絶望は消え去った。


 穂香の力で、アルカディア王城へと空間転移で戻ったコモレビを待ち受けていたのは、顔馴染みたちだった。


「国王様……水姫様」

「あ、それに秘書のおじちゃんとゲスハゲもいる〜!」


 待ち受けていた面々は、コモレビの姿を確認すると安堵したように表情を緩ませた。


「桜夜!」


 真っ先に飛びついてきたのが、まさかの国王イヴだったことに目を見開いた桜夜は、その背中を優しくさすった。


 その傍らで、国王イヴから桜夜を引き剥がして抱き寄せた乙羽を、今度は水姫が二人まとめて抱きしめる。


「二人とも……よく無事で戻ったわ」


 いつも氷のように冷徹で、感情を一切表に出さなかった彼女が、周囲の視線も、自身のプライドも、すべてを投げ捨て、涙を流しながら強く抱きしめたのだ。


「水姫様も、ご無事でなによりです!」

「……乃愛さん」

「……あの能天気バカも、笑って見ているかしらね……」


 桜夜と乙羽もまた、水姫を強く抱きしめ返したのだった。


 しばらくの間、そんな彼女たちの絆を、もらい泣きしながらも温かく見守っていた。


 やがて、国王イヴが厳かに口を開く。


「これより、旧体制である『七大執政』の廃止を宣言する。そして――この世界を救った次世代の英雄たちを、七大執政に変わる、新たな最高機関とする」


 いつから映されていたのか分からないが、先ほどの光景を全世界が見ていた。


 そのことに、ようやくコモレビ全員が気付いたが、まだ状況を飲み込めていない。


「その、新たな英雄たちの名は、『木漏れ日コモレビ』。我々、全世界の国民を優しく照らす、新たな光だ!」


 国王からの直々の指名。


 世界最高の権力を得たというのに、いまだ状況が整理できてない面々。


 一度は騙されてコモレビを悪だと罵り、暴動まで起こした全世界の国民。


 しかし、全ての真相を知り、最後の戦いを見届け、本物の英雄たちの姿を崇めていた。


 こうして、世界の歴史は大きく塗り替えられた。



 その日の夜。


 激戦の泥と血を洗い流すため、彼女たちは自分たちの宿舎に戻り、すぐに浴場へと向かった。


「ふいぃぃぃい~~~~っ!!」

「はぁ……生き返りますね!」


 梓と穂香が湯船に浸かり、深いため息を漏らしているところへ、巴瑞季と美咲がダイブし、盛大に湯を跳ね上げる。


「さいッッこ〜やぁあああ! きもちいいいいい!」

「ボク、お湯の中で泳いじゃうもんねー! バタ足バタ足ー!」

「てめぇらはしゃぐな! 湯が顔にかかんだろがッ!!」

「しかし、こうして全員でまたお風呂に入れるなんて、本当に奇跡のようです」


 梓の注意を無視してはしゃいでいた巴瑞季と美咲が、穂香の言葉で静まる。


「本当に桜夜が生きててよかった」


 少し離れた隅っこで、桜夜を抱き抱えるように湯船に浸かっていた乙羽がいた。


「全くだよ! もう私、桜夜のこの胸に穴が空いた時は、本当に気が狂いそうだったもん!」

「胸を触りながら喋るのはやめて下さい」

「あれでよく無事だったよねぇ〜、もしかして今も胸無かったり?」

「誰が胸が無いですか」

「本当にあるか?! 乙羽ッ、手をどけろ! アタシが見てやる!」

「ウチも見たる!!」

「ボクもボクも!!」

「なら私も見ておきましょうか。仲間の胸を」


 一斉に注目の的となった桜夜の胸。


「さぁ、桜夜どうするぅ〜? 私、手離してもいい?」

「………不本意ですが、そのままでお願いします」


 乙羽の手ごと胸を隠す素振りを見せる桜夜に、微笑ましい笑顔を向ける面々。


 いつもの彼女たちらしい、穏やかな雰囲気に包まれていた。



 ようやくすべての喧騒から離れ、自室で二人きりになった乙羽と桜夜。


 ふかふかのベッドに腰掛けた桜夜の後ろから、乙羽が躊躇なく飛びついた。


「とうっ! 約束通り、今日はもう絶対に離さないからねーー!」


 ぎゅううううっ、と背中から桜夜の体に腕を回し、まるで特大の抱き枕をホールドするようにロックをかける乙羽。


「……っ、乙羽。さすがにこれは身動きが取れません。離してください」


「や〜だよん! 帰ったらいっぱいお話しするって言ったもん! 桜夜、ずっと寂しかったんだから、私の体温でいっぱい温めてあげるの!」

「……暑苦しいです」


 普段通り、彼女は小さくため息をついたものの、それ以上抵抗する様子を見せない。


 それどころか、乙羽の温もりを受け入れるように、少しだけその体に身を委ねた。


「……本当に、キミはいつもいつも強引なんですから」

「へへ、それが私のいいところでしょ?」


 静かな部屋。


 桜夜の胸に顔を埋め、その心音をしっかりと聞いている乙羽の頭を、桜夜が優しく撫でる。


 とても愛おしくて、温かい時間。


――だが、その瞬間。


バガァァァァァァァンッ!!!


「おっしゃお前らーーー! お祝いの最高級肉、ゲスハゲの奢りやって、秘書のおっちゃんが持ってきたでぇぇぇええっ!!」

「ちょっと巴瑞季! 二人寝てるかもしれな……あっ……」


 盛大に蹴破られたドアの向こうには、肉のパックを掲げた巴瑞季と、頭を抱える梓、そしてすでにマイ箸を持った美咲と穂香の姿。


 そして室内では、ベッドの上で衣類がはだけ、ほぼ裸の状態で抱き合っている二人。


 完璧によからぬ行為をしていた(ように見える)乙羽と桜夜。


 静寂が室内の空気を支配する。


「……あ」

「……お、お邪魔、しました……?」

「「違うから(違いますッ!)!」」


 真っ赤になって飛び退く乙羽と、いつになく慌てて服を整える桜夜を見て、巴瑞季たちがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。


「へぇ~? まぁウチらは気にせえへんから、そのまま続けてや?」

「ボク、お肉の方が興味あるんだけどー! もう焼いていい?」

「は、早く焼きましょう! 私が完璧に焼いてみせるので、早くあっちに行きましょう!」

「まぁそのなんだ……乙羽はともかく、桜夜がそれを受け入れてるとは驚いた。でも、アタシはそういう関係でもいいと思うぞ?」

「え、桜夜そうなの?!」

「だから違うと言っているでしょう!」


 世界を救った最強の『白姫』の絶叫が、平和な夜に響き渡った。

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