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40_木漏れ日のあたる未来へ

 世界を救った英雄たちの帰還から数日後。


 アルカディア王城の大ホールにて、全世界へ向けて生中継される『新体制発足公式記者会見』が執り行われていた。


 無数の魔導カメラのフラッシュが焚かれる中、壇上に威風堂々と並び立つ七人の者たち。


 旧体制である『七大執政』に代わり、世界を支配するのではなく優しく照らす光として誕生した最高機関――そのメンバーが、司会者の厳かな声によって順に読み上げられていく。


一ノ陽いちのひかり――『月光の乙姫』様!」

二ノ陽にのひかり ――『炎拳の焔姫』様!」

三ノ陽さんのひかり――『慈愛の水姫』様!」

四ノ陽よんのひかり――『存護の護姫』様!」

五ノ陽ごのひかり ――『生命の創姫』様!」

六ノ陽ろくのひかり――『次界の渡姫』様!」


 割れんばかりの大歓声と拍手が地響きのように湧き上がる。


 そして、最後にその名が呼ばれた。


「そして、七ノ陽ななのひかり――『桜銀の白姫』様!」


 かつて第三席と呼ばれていた水姫と、第七席と呼ばれていた白姫は、そのまま新たなひかりとして、その名を世界の歴史に刻んだ。


 正体を隠し、過酷な運命をたった一人で背負い続けていた少女が、今、名実ともに世界の頂点(陽のあたる場所)へと昇り詰めた瞬間だった。


 七人は息を呑むほどにクールで神々しいオーラを放ち、少女とは思えぬ完璧な立ち振る舞いを持って世界中の人々を魅了してみせた。



「どわぁああッーーーあッついねん、ボケ! こんなん着てられへんわ! もう脱いでええ!?」


 会見が終了し、控室のドアが閉まった瞬間。


 二ノ陽こと巴瑞季が、キッチリ着込まされた礼服の襟元をガシガシと引っ張りながら絶叫した。


「とかいいながらもう脱いでんじゃねぇか。だらしねぇな。しっかしさっきの大人たちは何を話してたんだ? 全部呪文に聞こえたぞ」

「ボク、会見中ずっとお腹鳴りっぱなしだったよ! もうお菓子食べる!」

「あの記者たちの質問、どれも知性が足りませんでしたね。もはや採点する価値もありません」


 梓がため息をつき、美咲がお菓子に飛びつき、穂香が手元の端末を冷ややかにタップする。


 そんな相変わらずのコモレビの面々に、三ノ陽となった乃愛が頭を抱えていた。


「アンタたち……一応世界トップの権力を持っている自覚はあるのかしら? ……って、そっちの二人は何をしているの?」


 乃愛の視線の先では、一ノ陽の乙羽が、七ノ陽の桜夜に背後からがっしりと抱きついていた。


「もう、桜夜は何着ても可愛いね! 喉乾いた?! ジュース飲む? それともお菓子?! それとも私?」

「……暑苦しいので、ジュース下さい」


 世界のトップになろうとも、何も変わらずマイペースな少女たちの姿に、乃愛は呆れながらもフッと笑みを浮かべるのだった。



 さらに数日後。


 世界最高権力者となった彼女たちの、記念すべき『第一回・木漏れ日最高幹部会議』が開廷された。


 会議室の壁際では、各国の文官や大人たちが「世界を揺るがすどんな重大な改革が決議されるのか」と、ガタガタと震えながら固唾を呑んで見守っている。


「それでは、二ノ陽、第一議題を提案しなさい」


 重々しい静寂の中、円卓の議長席に座る三ノ陽、乃愛が口を開いた。


「二ノ陽として提案するで! それは……新設されるコモレビ専用執務室に、コタツを導入するか否かや!!」


 水姫を含め、大人たちの頭の上に、一斉に巨大な疑問符が浮かんだ。


 しかし、少女たちの議論は白熱していく。


「異議あり!」


 六ノ陽の穂香が、厳粛に手を挙げた。


「コタツの放つ悪魔的快適さは、人の精神を極限まで弛緩させます! 特にこのメンバーには絶対に与えてはいけません! 怠けてコタツから出なくなるのが目に見えています! 却下すべきです」

「何を言うとんねん穂香! コタツとミカンは冬の世界を護る最強の結界やぞ!」

「そうだよー! ボクはコタツを家にしたいくらい好きだよぉ!」

「アタシはどっちでもいいな。それよりも、みかんよりリンゴ派だ」


 会議室は一触即発の空気に包まれる。


 あまりの低レベルな大激論に、乃愛がこめかみをピクピクと震わせた。


「世界の最高機関が、最高幹部会議の場でなんて話を……乙羽、桜夜、あなたたちからも何か言って……」


 助けを求められた乙羽は、隣に座る桜夜に夢中で、全く話を聞いていない。


「ねぇ、なんでまだフード被ってるの? もう可愛いお顔はバレてるんだから無駄な抵抗だよ?」

「誰が無駄な抵抗ですか。まだ……人前は慣れないんです」

「フフッ。顔バレしてから桜夜のファンクラブ急上昇してたもんね! エヘヘッ、私もその会員なんだけど、なんか特典くれない?」

「あげません。というか、なんですかファンクラブって。初めて聞きましたが?」


 相変わらず二人だけの世界へ入って戻ってくる気配もない。


「……もう、私もティータイムにするから、勝手にしなさい」


 乃愛も諦め、目の前の紅茶を楽しむことにしたようだ。


 固唾を呑んで見守っていた国民も、いつのまにか少女たちの微笑ましいペースにのまれ、自然と笑顔になっていた。


――ウゥゥゥゥゥン!!!


 その瞬間、部屋中にけたたましい警戒アラートが鳴り響いた。


 魔導モニターに映し出されたのは、国境付近の未開の地より突如として出現した、かつてない規模の『超凶悪な未確認魔物(ディザスター級)』の映像。


「な、何ということだ……! こんな時に魔物の襲来なんて! しかもこんな広範囲に……!」


 文官たちが絶望に腰を抜かす中――。


 円卓に座る七名は、先ほどの穏やかな雰囲気を一変させ、一斉に立ち上がった。


「各空間座標をハッキング。それぞれ適当に飛ばすので、各自さっさと終わらせて戻ってきて下さい」

「ほな、いっちょやったるか! 梓、競争な?」

「望むところだ! 負けたら晩飯奢りな?」

「……まったく、コタツの審議がどうなるのか良いところだったのに。紅茶が冷めないうちに戻るわよ」


 巴瑞季、梓、美咲、穂香、そして乃愛が、それぞれの武器を構える。


 その最前線で、乙羽が青銀の月光を放つ刀を抜き、桜夜が氷と雷、そして白亜の桜吹雪の神気を纏わせた剣を構えた。


 世界最強の頂点に立っても、彼女たちは何も変わらない。


 大切な仲間たちと、大好きな相棒と共に、ただ目の前の明日を護るために戦うだけだ。


「行くよ、桜夜!」


 乙羽が最高の笑顔で声をかけると、桜夜もまた、その瞳に絶対の信頼の灯火を宿して頷いた。


「ええ。――私たちの、木漏れ日のあたる世界を護るために」


――ドンッ!!!


 七つの眩い陽の光が、大空へと一斉に飛び出していく。


 彼女たち、世界を優しく照らす『木漏れ日』の終わらない冒険の物語は、これからもずっと、未来へと続いていく――。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ブクマや評価頂いた方、感謝申し上げます。

前作、全前作とは違い、少し短めの作品となってしまいましたが、何とか完結まで書き上げることができました。また、ご縁がありましたら、その時はよろしくお願いします。

ワカバ

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